謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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今年最後の週となる月曜日。出勤するのは――智臣さんと顔を合わせるのは、少し緊張した。早合点して恥ずかしい態度を取った私を、智臣さんはどう思っただろうか。そんなつもりはないのに、おかしなやつだと心の中で笑われていたかもしれない。暗い表情で出勤したが、智臣さんはいたって普通。昨日会ったことすら幻だったみたいに、落ち着いた表情で仕事をしていた。
思い悩んでいたのは、私一人だけだろう。キスされそうになったと思うだけで、夜も眠れなかった。まもなく二十八歳になるというのに、高校生のころから何も成長していないような、自分の経験値の低さを思い知る。でもそれを、補う術なんて知らない。
仕事に打ち込めば、こんなくだらない悩みも消え去るだろう。そう思い、仕事に集中する。先週レイアウト変更があったぶん、スケジュールは少し遅れている。することは山積みだった。
残業こそすることはなかったが、それなりに忙しく過ごしている間に、クリスマスがやってきた。一年で一番華やいで見える街を、今まで通り自分には関係ないと通り過ぎる。少しだけ、智臣さんから誘われるかもと期待した。けれど、何の連絡もない。その理由を、伊東さんと雑談しているときに知った。

「部長、昨日も今日も、取引先と懇親会だって。彼女が可哀想だよね」

一瞬ドキリとする。伊東さんは、彼女の存在を知っているのかと。私はおそるおそる伊東さんに尋ねた。

「部長、彼女がいらっしゃったんですね」

詮索しているようにならないよう、気のないふりをして尋ねると、伊東さんは笑いながら口を開いた。

「いや? 俺の勝手な想像。さすがにいるだろ~って思っただけ」
「そう、だったんですね」

どこか、ホッとしてしまう。私にとっては保護者という立場でしかなく、彼女がいてもおかしくないと思ったのは、他でもない自分自身だったのに。
その日、智臣さんはすぐに退社していった。坂田さんにも、「デートですかね?」と耳打ちされ、伊東さんから聞いた情報を伝えた。誰もが同じように、部長は彼女くらいいるだろうという認識のようだ。

(さすがに、そう……だよね)

取引先への書きかけのメールをぼんやり眺めながら、自分に言い聞かせた。

今年は暦の関係で、いつもより早くクリスマス翌日が仕事納めとなる。午前中のうちに、最後に残った社内のみに関わる仕事を終わらせた。そのあと一時間ほど、展示会メンバーで今後のスケジュール確認のため打合せがあった。智臣さんも、もちろんその場にいる。
あれから仕事以外の話をしていないし、メッセージの一つも送り合っていない。智臣さんと目が合いそうになると、それとなく顔を逸らされてしまう。私の周りだけ、どこか空気が張り詰めているように感じた。

「――ってことで、1月以降はこのスケジュールで。何か予定外のことがあったら、すぐ上げて」

司会進行役の伊東さんが、そう締めくくると、出席者の皆はうなずく。年が明ければ、展示会まで残り二ヶ月。いよいよ本格的に忙しくなってくるはずだ。智臣さんも、厳しい表情で手元のタブレット端末に視線を落としていた。
伊東さんはまっさきに、緊張をほぐすようにうーんと伸びをすると、明るい表情で話し始めた。

「これで今年の仕事も終了! あとは午後の大掃除と納会だな~」

たしかに、残すは毎年恒例の行事のみ。それも仕事というほどでもなく、気持ちが緩むのも分かる。

「そうだ、榛名部長。納会後の飲み会、来てくれるんですよね?」

伊東さんが嬉しそうに尋ねる。納会は、社長と会長からの挨拶が終われば自由解散のような形になっている。その後は有志で二次会へ行く社員もいるようだ。

「少しだけでいいなら、お邪魔させてもらうよ」
「よかった。部長となかなか話す機会がないやつらが、楽しみにしてるんで。お願いしますね!」

以前よりもっと二人の仲は深まっているようだ、砕けた口調で話す伊東さんと、ほんのりと笑みを浮かべる智臣さんの距離感が羨ましいと思いながらその様子を見つめる。

「あ、残念ながら今日、女性陣は欠席です」

伊東さんが付け加えると、そこに坂田さんが手を挙げながら、話に割って入った。

「私たち、今日はみんなで女子会なんです! 部長をお誘い出来なかったのは残念ですが、またの機会にお願いします!」

彼女の物おじしない勢いに、智臣さんは少し驚いたように目を見開いている。

「そうか。ではまた、そのときには声を掛けてくれ」

社交辞令だと思うが、真面目にそう返す智臣さんに、坂田さんは「絶対ですよ!」と食いついていた。
そんな雑談をしているうちに、昼休みを告げるチャイムが鳴った。
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