謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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「――じゃあ、お疲れ様~! よいお年を!」
「お疲れ様でした。よいお年をお迎えください」

納会後の、二次会を兼ねた女子会。早めの時間から始まった、会社近くのレストランでのディナーも終わり、外に出ると手を振りながら口々に言葉を交わす。
さすがに年末とあって、風は冷たいが、アルコールで温まった体を冷ますには、ちょうどいいくらいだった。
数か所あるここの最寄り駅へ別れて歩き出す。同じ路線は坂田さんだけで、自然と二人で駅へ向かっていた。

「男性陣、まだ盛り上がってますかねえ。今からでも参加できないかな」

ゆっくり歩きながら、坂田さんはそんなことを口にする。いろんな人と腹を割って話せるから、飲み会は結構好きだと、前に坂田さんは言っていた。その延長で、男性陣に合流したいみたいだ。

「どうだろう。伊東さんに連絡してみたら?」

その場で立ち止まり、腕時計を見る。時間は午後九時を回ったところで、伊東さんなら三次会くらい行っているかもしれないと、提案してみた。

「そうしてみようかな。部長、まだいるといいなぁ」

よほど智臣さんと話してみたいのか、坂田さんは期待するように口にする。もしかしたら、好意があるのだろうかと思うと、胸の中がざわついた。

「そんなに部長と、話したいんだね」

あえて軽い口調で尋ねると、坂田さんは勢いよくこちらを向いた。

「だって、推しと仕事以外の話ができるなんて、そうそうないじゃないですか!」
「推し……?」

きょとんとする私に、坂田さんは矢継ぎ早に話し出す。

「そうです。めちゃめちゃイケメンだし、シゴデキだし。毎日、目の保養させてもらってますよ。そうそう、見ました? 最近部長が持ってるペン! カッコイイですよね。どこのブランドのだろ~?」

両手の拳を握り、訴えかけるように腕を振る坂田さんに、圧倒されて言葉に詰まる。

「え、あっと……。どこの、だろうね」
「もしわかったら教えてください。きっと私には買えないので、眺めるだけですけど」

照れたように笑う坂田さんが眩しい。けれど、その部長に向けた感情が、どんなものなのか、どうしても確認しておきたくなった。

「うん……。あの。変なこと聞くけど……。坂田さんは、部長のこと、好き、だったりする?」
これではまるで、「私も好きだけど」と言っているように聞こえて、口にしてからハッとする。けれど坂田さんは、私の質問に笑い出した。

「まさか! 芸能人みたいなものですよ。あわよくばお話ししてみたいな~とは思いますけど、恋愛感情ではないです。恐れ多すぎますって!」

そんな感情もあるのかと、ポカンとしながら坂田さんを見つめる。そしてどこか、ホッとしていた。坂田さんは、少し落ち着きを取り戻すと続けた。

「私、恋愛って、まだよくわからないんですよね。男友達はたくさんいますけど、好きだなって思える人に出会えてないっていうか。まだまだ子供みたいですよね」

そう言って頭を掻く彼女に、何も言えないでいた。ずっと年上なのに、自分も同じだなんて。
伊東さんに連絡してみるという坂田さんとその場で別れ、一人駅に向かう。智臣さんとは、結局何も話せていないまま。次に会うのは、年が明けてからになりそうだ。街の喧騒が、それとは真逆に寂しさを連れてくる。たった一週間ほど会えないだけ。
そう思うのに、その事実が心を冷えさせていた。
この気持ちはなんなのだろう。恋愛するのは、まだ怖い。好きだと思っていた人の裏の顔を知って、あんなに傷ついたのだから。でも、もうあれからずいぶん経つ。高校生だった自分は、もうすっかり大人になった。なのに、ずっとそこで立ち止まっていても、何も始まらないのではないだろうか。
駅を目の前にして、立ち止まると心を決めて顔を上げる。

(やっぱり、智臣さんに連絡しよう)

休みの間の、どこか一日、いや、半日でもいい。少しでも会えたら嬉しい。自分の気持ちを素直に伝えよう。そう思い、バッグからスマホを出そうと中を探る。

「あっ……!」

スマホはすぐに見つかった。けれど、大事なものが一つ、バッグに入っていないことに気が付いた。
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