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1.いざ煌めく世界へ
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「あ、与織姉! やっと帰ってきた~!」
私の部屋の前で、寝間着代わりのスエットに何故か枕を抱えた双子の弟の片われ、いっくんこと逸希がそう声を上げた。
「遅かったね。父さんなんだった?」
心配そうに私にそう言ったのはりっちゃん、理久だ。そしてやっぱり枕を持っている。
双子だけど二卵性だから似ていない弟達は、4月から高3。いっくんはスポーツ万能、勉強は二の次で、ちょっとチャラいんじゃないかと心配になる。りっちゃんは頭が良くて、名前の通り理系の学者タイプかな。どちらも贔屓目じゃなく顔の造りがいいからよくモテる。ちなみに私はいたって普通の顔だ。
「えっとぉ……。都会生活、満喫してこいって……」
視線を泳がせながらそう言って、私は部屋のドアを開ける。
「本当に? 父さん、与織姉が家出るの寂しがって泣き落とししてるのかと思った」
背後にいっくんの声を聞きながら、私はドアの横の壁を探り電気を付ける。
現れたのは、古びた自分の部屋。小学生の頃から使っている学習机に、ベッド。作り付けの棚にはお気に入りの本と小物が並んでいる。小学生の頃から変わり映えしないこの部屋の床に、いつもと違うものが置かれていた。
「いつの間に⁈」
私が驚いているのを気にすることなくいっくんはその敷かれた3組の布団の左側に腰を下ろす。
「与織姉と最後の夜だし、小さい頃みたいに3人で寝ようかって」
りっちゃんもそう言いながら右側の布団に向かう。
「もう! いい加減姉離れしなさい!」
そう言いながらも、やっぱり可愛い弟達だ。今日くらい願いを叶えてあげようと、私は真ん中の布団に向かった。
朝。どこからともなく鶏が叫ぶ声が聞こえる。そんな田舎に私の家はある。周りは山だらけで、「見える範囲の山は全部うちのものだ!」なんてお父さんは言うけど全く嬉しくない。山はただの山でしかないのだから。
目を覚ますと、私は天井からぶら下がる蛍光灯の常夜灯を消し起き上がる。
今日からは、憧れ続けた都会の生活が待っていると思うとワクワクしてしまう。と言っても……ここも同じ都内のはずなのに。
『就職するまでは都会には出さない』と言う、私だけに対するお父さんの方針で、私はこの山の中にあるポツンと一軒家的な木造平屋建の家で暮らしていた。土地が安いからか庭は無駄に広く、家もそれなりには広かったが、とにかく古い。それでも長年住んでいた家なのだから、愛着はあるのだけど。
「おはよ~。与織姉、起きるの早くない?」
いっくんが布団の中からモゾモゾ動きながらそう言う。
「おはよ。最後の荷物用意しとかないと、いっちゃん来ちゃうでしょ?」
「兄ちゃん何時に来るの?」
「お昼前だって。こっちでご飯食べてから出発しようって」
「兄さんとご飯食べるのも久しぶりだ」
反対側から声がして振り返ると、りっちゃんが枕元に置いた眼鏡を探りながらこっちを見ていた。
「だね」
私は笑って短くそう返事をする。
『いっちゃん』とは、私達の一番上の兄、一矢のことだ。
そして、私達にはあと2人兄がいる。私は6人兄弟の紅一点なのだ。
新居に持って行く荷物はそう多くない。家具はもちろん、家電も全部揃っていて、本当に自分の物だけ荷造りすればいいだけだった。それに、その気になればいつでも取りに来られるから、これからの季節に必要な服だけでいい。
まぁ新居からここまで、電車で2時間程かかるし、結局誰かに車を出してもらわないと取りに来られないんだけど。
「あ、兄ちゃん来たみたい」
荷物の箱を運んでいたいっくんがそう声を上げる。外に面している廊下からは、舗装もされてない砂利道を上がってくる白い車が見えた。
「て言うか、兄さんまた車変えた?」
りっちゃんは箱を両手で持ったまま呆れたように言っている。
確かに、私と7つ歳の離れたいっちゃんは、仕事も忙しいらしく滅多に家には帰ってこないが、帰るたびに車が違う気がする。今度のは6人乗れそうなSUV車だ。そしてその車が庭先に停まると、そこからいっちゃんは颯爽と降りてきた。
これを一度大学の前でやられて黄色い悲鳴が上がったんだよなぁ……
と私はその時のことを思い出す。
たまたまこっちに帰る用事があったから『家まで一緒に帰ろう』と大学の前で待ち合わせしたのだが、女子大の前に現れたいっちゃんに、周りが騒然としたのだった。それからは、大学近隣で待ち合わせはしないことにした。
にしても何で私だけ、両親の平凡パーツを集めた顔してるのかなぁ……
弟達とはタイプの違う、精悍な顔つきのイケメンな兄を見ながら私は溜息をついた。
私の部屋の前で、寝間着代わりのスエットに何故か枕を抱えた双子の弟の片われ、いっくんこと逸希がそう声を上げた。
「遅かったね。父さんなんだった?」
心配そうに私にそう言ったのはりっちゃん、理久だ。そしてやっぱり枕を持っている。
双子だけど二卵性だから似ていない弟達は、4月から高3。いっくんはスポーツ万能、勉強は二の次で、ちょっとチャラいんじゃないかと心配になる。りっちゃんは頭が良くて、名前の通り理系の学者タイプかな。どちらも贔屓目じゃなく顔の造りがいいからよくモテる。ちなみに私はいたって普通の顔だ。
「えっとぉ……。都会生活、満喫してこいって……」
視線を泳がせながらそう言って、私は部屋のドアを開ける。
「本当に? 父さん、与織姉が家出るの寂しがって泣き落とししてるのかと思った」
背後にいっくんの声を聞きながら、私はドアの横の壁を探り電気を付ける。
現れたのは、古びた自分の部屋。小学生の頃から使っている学習机に、ベッド。作り付けの棚にはお気に入りの本と小物が並んでいる。小学生の頃から変わり映えしないこの部屋の床に、いつもと違うものが置かれていた。
「いつの間に⁈」
私が驚いているのを気にすることなくいっくんはその敷かれた3組の布団の左側に腰を下ろす。
「与織姉と最後の夜だし、小さい頃みたいに3人で寝ようかって」
りっちゃんもそう言いながら右側の布団に向かう。
「もう! いい加減姉離れしなさい!」
そう言いながらも、やっぱり可愛い弟達だ。今日くらい願いを叶えてあげようと、私は真ん中の布団に向かった。
朝。どこからともなく鶏が叫ぶ声が聞こえる。そんな田舎に私の家はある。周りは山だらけで、「見える範囲の山は全部うちのものだ!」なんてお父さんは言うけど全く嬉しくない。山はただの山でしかないのだから。
目を覚ますと、私は天井からぶら下がる蛍光灯の常夜灯を消し起き上がる。
今日からは、憧れ続けた都会の生活が待っていると思うとワクワクしてしまう。と言っても……ここも同じ都内のはずなのに。
『就職するまでは都会には出さない』と言う、私だけに対するお父さんの方針で、私はこの山の中にあるポツンと一軒家的な木造平屋建の家で暮らしていた。土地が安いからか庭は無駄に広く、家もそれなりには広かったが、とにかく古い。それでも長年住んでいた家なのだから、愛着はあるのだけど。
「おはよ~。与織姉、起きるの早くない?」
いっくんが布団の中からモゾモゾ動きながらそう言う。
「おはよ。最後の荷物用意しとかないと、いっちゃん来ちゃうでしょ?」
「兄ちゃん何時に来るの?」
「お昼前だって。こっちでご飯食べてから出発しようって」
「兄さんとご飯食べるのも久しぶりだ」
反対側から声がして振り返ると、りっちゃんが枕元に置いた眼鏡を探りながらこっちを見ていた。
「だね」
私は笑って短くそう返事をする。
『いっちゃん』とは、私達の一番上の兄、一矢のことだ。
そして、私達にはあと2人兄がいる。私は6人兄弟の紅一点なのだ。
新居に持って行く荷物はそう多くない。家具はもちろん、家電も全部揃っていて、本当に自分の物だけ荷造りすればいいだけだった。それに、その気になればいつでも取りに来られるから、これからの季節に必要な服だけでいい。
まぁ新居からここまで、電車で2時間程かかるし、結局誰かに車を出してもらわないと取りに来られないんだけど。
「あ、兄ちゃん来たみたい」
荷物の箱を運んでいたいっくんがそう声を上げる。外に面している廊下からは、舗装もされてない砂利道を上がってくる白い車が見えた。
「て言うか、兄さんまた車変えた?」
りっちゃんは箱を両手で持ったまま呆れたように言っている。
確かに、私と7つ歳の離れたいっちゃんは、仕事も忙しいらしく滅多に家には帰ってこないが、帰るたびに車が違う気がする。今度のは6人乗れそうなSUV車だ。そしてその車が庭先に停まると、そこからいっちゃんは颯爽と降りてきた。
これを一度大学の前でやられて黄色い悲鳴が上がったんだよなぁ……
と私はその時のことを思い出す。
たまたまこっちに帰る用事があったから『家まで一緒に帰ろう』と大学の前で待ち合わせしたのだが、女子大の前に現れたいっちゃんに、周りが騒然としたのだった。それからは、大学近隣で待ち合わせはしないことにした。
にしても何で私だけ、両親の平凡パーツを集めた顔してるのかなぁ……
弟達とはタイプの違う、精悍な顔つきのイケメンな兄を見ながら私は溜息をついた。
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