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2.社会人はつらいよ?
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見ていた番組はそのあとすぐ終わり、私はいっちゃんのご飯を用意する。
鶴さんの作ったいっちゃん専用おかずは、ザ酒のつまみ。しかも、お母さんが作ったのかな?って感じのものが多い。
今日も、いっちゃんが一番気に入っているという筑前煮に、ピリ辛の枝豆、鯵の南蛮漬け。お酒を飲むからご飯は不要だ。
それをお皿に盛り付けていると、いっちゃんは早々と戻って来た。髪の毛は全く乾かしてなくて、肩からかけたタオルに時々雫が落ちている。
「いっちゃん風邪ひくよ!」
私がダイニングテーブルにお皿を運びながら言うと、「そのうち乾くって」と笑いながら残りのお皿を手にした。
こういうところは兄弟一適当だ。これがふう君やみー君なら、『変な癖ついたら嫌だ』と絶対ちゃんと乾かしているはずだ。
いっちゃんは一旦お皿をテーブルに置くと、そのまま冷蔵庫に向かう。もちろん出すのは缶ビール。ほんと、お父さんを見てるみたいだ。
「与織子も飲むか?」
冷蔵庫の扉を開けたままのいっちゃんに尋ねられるが、「私はいいよ。お茶にする」と返してテーブルに座った。
「与織子もまだまだお子様だな」
なんて言いながらいっちゃんは冷蔵庫から缶ビールとお茶のボトルを取り出して、お茶を注いで持って来てくれた。
「じゃ、初日お疲れ様!」
向かいに座ったいっちゃんは、プルタブを開けると上機嫌で缶を掲げた。
「うん。……思ってた以上に疲れた!」
私は笑いながらそう言って、お茶のグラスを持ち上げた。
そしてそれから、いっちゃんに今日あったことをひたすら聞いてもらった。入社式のみー君の話に、役員との懇親会。そして、清田さんのことを。
いっちゃんはせっせとおかずを口に運びながらも、ニコニコしながら聞いてくれていた。
「そうか。とりあえず良かったな、その、清田さんって人がいてくれて」
「うん。優しそうな人で本当によかったよ~。でも6月から産休に入るんだって。私、主任とやっていけるかな……」
私がそう愚痴めいたことを口にすると、途端にいっちゃんの顔が曇った。
「主任って……与織子の上司のことか? 何か言われたか?」
そう言うといっちゃんは険しい顔になる。なんでだろう? 直接話をしていたみー君も様子がおかしかったし、いっちゃんも難しい顔をしている。やっぱり怖くて有名とか……?
「ううん? 何も言われてないよ。むしろ何も言わないから、ちょっと怖そうだなぁって思っただけ」
私がそう言うと、いっちゃんは少しホッとしたようにまた箸を動かし始めた。
「なんだ。何かあったのかと思っただろ。それに、その主任ってやつも喋ってみたらいいヤツかも知れないぞ? 俺だって与織子の前じゃこんなだけど、職場じゃ鬼の部長とか言われてるみたいだしな」
筑前煮に視線を送り、せっせと箸で拾っては口に運びながらいっちゃんはそう言った。
………………。待って? 今なんて言った?
私はさっきの台詞の内容を頭の中で反芻する。私が呆然としていることに気づいていないのか、いっちゃんは筑前煮のカケラまで綺麗に食べてから、平然と顔を上げて缶ビールを手にした。
「? どうかしたか?」
そこでようやく私を見て、いっちゃんはそう尋ねる。
「今……部長……。部長って言ったよね? いっちゃん部長なの⁈」
私が大声を上げ、いっちゃんは自分が言ってしまったことに気づいたようで「あ。……」と声を漏らした。
「いや、その、あれだ。部活の部長みたいなものだ」
その場を取り繕うような台詞に「そんなわけないでしょ! みー君のことも知らなかったし、いっちゃんだって! まさか……ふう君も?」と最後に恐る恐る尋ねた。
まさか、社長ですとか言われたらどうしよう?
けれどいっちゃんは急に冷静な顔になると、「いや、あいつは普通だ。自分の力だけでのし上がるんだと」と返してきた。
そしてまた、いっちゃんは自分の失言に気づいていないようだ。
ふう君が自分の力だけなら、いっちゃんとみー君は違うの……?
もう私は頭がショートしそうで、深呼吸するように息を吐くと、もう考えないことに決めたのだった。
鶴さんの作ったいっちゃん専用おかずは、ザ酒のつまみ。しかも、お母さんが作ったのかな?って感じのものが多い。
今日も、いっちゃんが一番気に入っているという筑前煮に、ピリ辛の枝豆、鯵の南蛮漬け。お酒を飲むからご飯は不要だ。
それをお皿に盛り付けていると、いっちゃんは早々と戻って来た。髪の毛は全く乾かしてなくて、肩からかけたタオルに時々雫が落ちている。
「いっちゃん風邪ひくよ!」
私がダイニングテーブルにお皿を運びながら言うと、「そのうち乾くって」と笑いながら残りのお皿を手にした。
こういうところは兄弟一適当だ。これがふう君やみー君なら、『変な癖ついたら嫌だ』と絶対ちゃんと乾かしているはずだ。
いっちゃんは一旦お皿をテーブルに置くと、そのまま冷蔵庫に向かう。もちろん出すのは缶ビール。ほんと、お父さんを見てるみたいだ。
「与織子も飲むか?」
冷蔵庫の扉を開けたままのいっちゃんに尋ねられるが、「私はいいよ。お茶にする」と返してテーブルに座った。
「与織子もまだまだお子様だな」
なんて言いながらいっちゃんは冷蔵庫から缶ビールとお茶のボトルを取り出して、お茶を注いで持って来てくれた。
「じゃ、初日お疲れ様!」
向かいに座ったいっちゃんは、プルタブを開けると上機嫌で缶を掲げた。
「うん。……思ってた以上に疲れた!」
私は笑いながらそう言って、お茶のグラスを持ち上げた。
そしてそれから、いっちゃんに今日あったことをひたすら聞いてもらった。入社式のみー君の話に、役員との懇親会。そして、清田さんのことを。
いっちゃんはせっせとおかずを口に運びながらも、ニコニコしながら聞いてくれていた。
「そうか。とりあえず良かったな、その、清田さんって人がいてくれて」
「うん。優しそうな人で本当によかったよ~。でも6月から産休に入るんだって。私、主任とやっていけるかな……」
私がそう愚痴めいたことを口にすると、途端にいっちゃんの顔が曇った。
「主任って……与織子の上司のことか? 何か言われたか?」
そう言うといっちゃんは険しい顔になる。なんでだろう? 直接話をしていたみー君も様子がおかしかったし、いっちゃんも難しい顔をしている。やっぱり怖くて有名とか……?
「ううん? 何も言われてないよ。むしろ何も言わないから、ちょっと怖そうだなぁって思っただけ」
私がそう言うと、いっちゃんは少しホッとしたようにまた箸を動かし始めた。
「なんだ。何かあったのかと思っただろ。それに、その主任ってやつも喋ってみたらいいヤツかも知れないぞ? 俺だって与織子の前じゃこんなだけど、職場じゃ鬼の部長とか言われてるみたいだしな」
筑前煮に視線を送り、せっせと箸で拾っては口に運びながらいっちゃんはそう言った。
………………。待って? 今なんて言った?
私はさっきの台詞の内容を頭の中で反芻する。私が呆然としていることに気づいていないのか、いっちゃんは筑前煮のカケラまで綺麗に食べてから、平然と顔を上げて缶ビールを手にした。
「? どうかしたか?」
そこでようやく私を見て、いっちゃんはそう尋ねる。
「今……部長……。部長って言ったよね? いっちゃん部長なの⁈」
私が大声を上げ、いっちゃんは自分が言ってしまったことに気づいたようで「あ。……」と声を漏らした。
「いや、その、あれだ。部活の部長みたいなものだ」
その場を取り繕うような台詞に「そんなわけないでしょ! みー君のことも知らなかったし、いっちゃんだって! まさか……ふう君も?」と最後に恐る恐る尋ねた。
まさか、社長ですとか言われたらどうしよう?
けれどいっちゃんは急に冷静な顔になると、「いや、あいつは普通だ。自分の力だけでのし上がるんだと」と返してきた。
そしてまた、いっちゃんは自分の失言に気づいていないようだ。
ふう君が自分の力だけなら、いっちゃんとみー君は違うの……?
もう私は頭がショートしそうで、深呼吸するように息を吐くと、もう考えないことに決めたのだった。
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