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3.お見合い相手はいったい誰?
7
この高級ホテルに相応しい、見事な高級ランチがテーブルに並べられると、スタッフさんは部屋をあとにしていった。
「冷めないうちに食べろよ?」
緊張ではなく混乱で固まっていた私に、主任はナイフとフォークを手に声を掛ける。
「……はい」
しばらくは2人して無言で食べた。まだ会社にいる時のほうが会話が弾むのに、いったい何から聞いていいのかわからない。けど、やっぱり順を追って聞いて行かないことには何も解決しない。
「主任も……うちの山狙ってるんですか?」
まず一番最初にそれを聞いてみる。何故か何人かに狙われているあの山。主任ならその山の価値を知っているはずだ。
けれど主任は「山?」と、いっちゃんと同じように不思議そうな顔をした。
「私、父から言われたんです。うちの山を狙ってる御曹司とお見合いしろって。それって主任のことなんですよね?」
真っ直ぐに主任に向いて尋ねると、面食らったような表情を見せて手を止めた。
「俺は……全く違うことを聞かされている」
「違うこと?」
「そうだ。俺は、とにかく朝木与織子と見合いして、そして結婚しろと」
「へっ?」
確かに、普通ならお見合いは結婚を前提として行われるものだ。けど、私はお見合いしろとは言われたけど、結婚のけの字も聞かされていない。
「結婚⁈ 主任が、私と、結婚するんですか⁈何で!」
そこで主任は、はぁーっと深く息を吐いた。
「おそらくだが、朝木の言う、山を狙うやつが横取りしてくる前に、なんとか囲い込めということだろう」
「…………。専務……」
私は心当たりのある人をポツリと口にする。どう考えても専務の態度はおかしい。それに、『困る』って言っていたのは、山が手に入らないと困る、じゃないだろうか?
私が神妙な顔をして考えていると、主任は訝しげに「何かされたのか?」と私に尋ねた。
こうなったら全部話すしかない。謎だらけの専務より、いっちゃんの友達だって言う主任のほうがよっぽど信用できる。
「あの、主任。じつは……」
私は顔を上げ、主任を見据えると昨日あったことを話し出した。
「──と言うわけなんです」
全部話し終わると、主任は鋭い目つきを私に向けた。
「セクハラを通り越してパワハラだな……。このことは誰か知っているか?」
私は無言で首を振った。この話は、いっちゃんにすらしていない。
「そうか。なら……。朝木」
まるで仕事中みたいに真面目な顔で主任は続ける。
「俺と……結婚しよう。いや、まずは婚約が先だな」
と。
ポカンと口を開けたまま主任の顔を眺めてから、私はようやく言葉を発した。
「えっ、と。じょ、う……だん……ですよね?」
切れ切れに尋ねると、主任はいつもの愛想のない顔を私に向けた。
「俺が冗談を言うように見えるか?」
「…………。いえ。見えません」
「だろうな。俺は本気だ。と言うより、本気じゃないと敵の目は欺けない」
主任は至って真面目ない顔でそう言った。敵……とは、たぶん専務のことなんだろう。けれど、私にとっては敵かも知れないけど、主任には何の関係もないんじゃないだろうか。こうなったら気がすむまで聞いてやろうと私は深呼吸して主任に尋ねた。
「いったい何のメリットがあるんですか? 主任は別に山を狙ってるわけじゃないんですよね。私と婚約して、主任に利益があるとは思えません」
「メリット、か。……それなら俺にもある。まず俺は、この見合いが上手くいかなければ、会ったこともないどこかの令嬢と結婚させられる」
不愉快そうに眉を顰め主任はそう言うと続けた。
「その上、今の会社は辞めて親の会社に入れられる」
なんか、唐突に次元の違う話を聞かされて、私は無言で主任の顔を見ていた。
令嬢と結婚? 親の会社? やっぱり、御曹司と言うのは間違いじゃなかったのか……
「でも、私と結婚すればそうじゃなくなるってこと、なんですよね?」
「そうだ。それに朝木にもメリットはある。俺と婚約すれば山を狙う輩は現れない。専務もしばらくは大人しくなるだろう。だが、口先だけで婚約したと言ったところで、すぐにバレるだろうがな」
未だに私と山に何の関係があるのか、よくわからない。でも何かしら関係があって、私と結婚する人間に山が渡るのは何となく理解できた。
「他の人にとってはただの山かも知れないけど、私、あの山が好きなんです。小さい頃からずっと見てて、麓には私の作った畑もあって。そのまま大事にしてくれる人にしか渡したくありません」
真っ直ぐに顔を上げて主任を見ると、主任は私を真剣な眼差しで見つめ返していた。
「主任は山に興味はないんですよね?」
「あぁ」
「わかりました。では、お受けします。私と婚約してください」
私が真剣な顔をしてそう言うと、主任は少し驚いたように目を開いた。けれどそれはほんの少しの間だけで、フッと息を吐くと表情を和らげた。
「あぁ。利害関係は一致したな。じゃあ、よろしくな。朝木。いや、与織子」
「へっ! あの、そのっ!」
突然名前で呼ばれて慌てふためいていると、主任は肩を揺らして笑っていた。
「冷めないうちに食べろよ?」
緊張ではなく混乱で固まっていた私に、主任はナイフとフォークを手に声を掛ける。
「……はい」
しばらくは2人して無言で食べた。まだ会社にいる時のほうが会話が弾むのに、いったい何から聞いていいのかわからない。けど、やっぱり順を追って聞いて行かないことには何も解決しない。
「主任も……うちの山狙ってるんですか?」
まず一番最初にそれを聞いてみる。何故か何人かに狙われているあの山。主任ならその山の価値を知っているはずだ。
けれど主任は「山?」と、いっちゃんと同じように不思議そうな顔をした。
「私、父から言われたんです。うちの山を狙ってる御曹司とお見合いしろって。それって主任のことなんですよね?」
真っ直ぐに主任に向いて尋ねると、面食らったような表情を見せて手を止めた。
「俺は……全く違うことを聞かされている」
「違うこと?」
「そうだ。俺は、とにかく朝木与織子と見合いして、そして結婚しろと」
「へっ?」
確かに、普通ならお見合いは結婚を前提として行われるものだ。けど、私はお見合いしろとは言われたけど、結婚のけの字も聞かされていない。
「結婚⁈ 主任が、私と、結婚するんですか⁈何で!」
そこで主任は、はぁーっと深く息を吐いた。
「おそらくだが、朝木の言う、山を狙うやつが横取りしてくる前に、なんとか囲い込めということだろう」
「…………。専務……」
私は心当たりのある人をポツリと口にする。どう考えても専務の態度はおかしい。それに、『困る』って言っていたのは、山が手に入らないと困る、じゃないだろうか?
私が神妙な顔をして考えていると、主任は訝しげに「何かされたのか?」と私に尋ねた。
こうなったら全部話すしかない。謎だらけの専務より、いっちゃんの友達だって言う主任のほうがよっぽど信用できる。
「あの、主任。じつは……」
私は顔を上げ、主任を見据えると昨日あったことを話し出した。
「──と言うわけなんです」
全部話し終わると、主任は鋭い目つきを私に向けた。
「セクハラを通り越してパワハラだな……。このことは誰か知っているか?」
私は無言で首を振った。この話は、いっちゃんにすらしていない。
「そうか。なら……。朝木」
まるで仕事中みたいに真面目な顔で主任は続ける。
「俺と……結婚しよう。いや、まずは婚約が先だな」
と。
ポカンと口を開けたまま主任の顔を眺めてから、私はようやく言葉を発した。
「えっ、と。じょ、う……だん……ですよね?」
切れ切れに尋ねると、主任はいつもの愛想のない顔を私に向けた。
「俺が冗談を言うように見えるか?」
「…………。いえ。見えません」
「だろうな。俺は本気だ。と言うより、本気じゃないと敵の目は欺けない」
主任は至って真面目ない顔でそう言った。敵……とは、たぶん専務のことなんだろう。けれど、私にとっては敵かも知れないけど、主任には何の関係もないんじゃないだろうか。こうなったら気がすむまで聞いてやろうと私は深呼吸して主任に尋ねた。
「いったい何のメリットがあるんですか? 主任は別に山を狙ってるわけじゃないんですよね。私と婚約して、主任に利益があるとは思えません」
「メリット、か。……それなら俺にもある。まず俺は、この見合いが上手くいかなければ、会ったこともないどこかの令嬢と結婚させられる」
不愉快そうに眉を顰め主任はそう言うと続けた。
「その上、今の会社は辞めて親の会社に入れられる」
なんか、唐突に次元の違う話を聞かされて、私は無言で主任の顔を見ていた。
令嬢と結婚? 親の会社? やっぱり、御曹司と言うのは間違いじゃなかったのか……
「でも、私と結婚すればそうじゃなくなるってこと、なんですよね?」
「そうだ。それに朝木にもメリットはある。俺と婚約すれば山を狙う輩は現れない。専務もしばらくは大人しくなるだろう。だが、口先だけで婚約したと言ったところで、すぐにバレるだろうがな」
未だに私と山に何の関係があるのか、よくわからない。でも何かしら関係があって、私と結婚する人間に山が渡るのは何となく理解できた。
「他の人にとってはただの山かも知れないけど、私、あの山が好きなんです。小さい頃からずっと見てて、麓には私の作った畑もあって。そのまま大事にしてくれる人にしか渡したくありません」
真っ直ぐに顔を上げて主任を見ると、主任は私を真剣な眼差しで見つめ返していた。
「主任は山に興味はないんですよね?」
「あぁ」
「わかりました。では、お受けします。私と婚約してください」
私が真剣な顔をしてそう言うと、主任は少し驚いたように目を開いた。けれどそれはほんの少しの間だけで、フッと息を吐くと表情を和らげた。
「あぁ。利害関係は一致したな。じゃあ、よろしくな。朝木。いや、与織子」
「へっ! あの、そのっ!」
突然名前で呼ばれて慌てふためいていると、主任は肩を揺らして笑っていた。
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