27 / 69
3.お見合い相手はいったい誰?
8
私は揶揄われているんだろうか……。もしかしたら、このお見合い自体が盛大なドッキリ?
急に楽しそうな表情になった主任を見て私はそんなことを思った。
目の前のご馳走も無くなるころ、スタッフさんがデザートの飲みもののオーダーを聞きにやって来た。
「俺はホットコーヒーで。朝木は?」
「あ、アイスミルクティーで」
と言うか……。やっぱり揶揄われてたんだ。早くも朝木呼びに戻ってしまった主任を見て私は思う。
「ああ、そうだ。次に寄りたいところがあるんだが、一緒に来てくれるか?」
「はい……。私でよければ」
ようやく食べ終え、水の入ったグラスを持ち上げながら私は答える。
「じゃあ、悪い。ちょっと外で電話してくる。デザート、俺のぶんも食べてていいぞ?」
そう言って主任は立ち上がり、部屋を出て行った。
その姿が見えなくなったのを見届けると、私は「はぁぁ~……」と肩を落とすように息を吐き出した。
怒涛の展開とは、こう言う事態を言うのだろうか。
なんか勢い余って婚約を了承したけど、もちろん……偽装ってことでいいんだよね?なんて今更思う。でもさっき主任は、『口先だけだとすぐバレる』と言っていた。と言うことは……偽装じゃない?
考えすぎて、頭から煙が出そうだ。ちょっと落ち着こうと、私はバッグからスマホを取り出して通知を確認した。
ちょうど双子達からそれぞれメッセージが届いていて、私はそれを開けてみた。
いっくんは、合宿先の海をバックにピースする写真付きで『与織姉にもお土産買って帰るからな!』と書いてある。りっちゃんからは『与織姉、元気にしてますか。今回会えなかったのは残念だけど、また顔を見せに帰って来てください』と、らしい、文面だけのメッセージだ。
私は久しく会えていない弟達の顔を思い出しながら、少しほっこりしていた。そして、もう一人からのメッセージが目に留まった。
『何かあったらいつでも電話してこいよ』
これが届いたのは1時間ほど前だ。
それを見て、一言文句を言ってやろうと私は通話ボタンをタップした。
『お、与織子。どうだ見合いは。順調か?』
「いっちゃん! なんで相手が主任って教えてくれなかったのよ!」
勢いよく返す私に、いっちゃんは予想通りと言いたげに『どうだ。驚いただろう!』と答えた。
「驚いたじゃすまないわよ! それに、思惑通りなんだろうけど、婚約することになったんだからね!」
私がそう言うとしばらく静寂が訪れた。
「はぁぁ⁈」
そして、耳をつんざくようないっちゃんの叫び声が聞こえてきた。
「ちょっといっちゃん! 声大きいよ! なんで驚くの?」
てっきりいっちゃんも、とにかく婚約まで持ち込みたいのだと思っていた。けれどこの驚きよう。どうも違うらしい。
「俺はとにかく見合いさえすればいいって……。つうか、創一は? そこにいないのか?」
「ええと。主任のこと、だよね? 今はちょっと出てるよ」
電話の向こうではこちらまで息が届きそうな大きな溜め息が聞こえてくる。でも私は、全く別のことを考えていた。
下の名前で呼び合うほど仲良かったのか。……って、入社式のとき、みー君の様子がおかしかったのは、それを知っていたからじゃないんだろうか?
「与織子……」
「何?」
「もしかして……創一と……。付き合ってたのか?」
落胆したような声で尋ねられ、私は「はいっ?」と変な声を上げる。
「なっ、わけないでしょう? 話し合いの結果そうなっただけで……」
いっちゃんは詳しい話を聞いてないのだろうか。経緯を話そうか、と口を開いたとき、ドアがノックされ、デザートを乗せたワゴンと共にスタッフさんが姿を現した。
「とにかく、家に帰ってから詳しい話はするから。とりあえず落ち着いて。じゃ、デザートきたし切るね」
私はそう言うと、電話の向こうで「おいっ! 与織子!」と慌てているいっちゃんを置いたまま電話を切った。
説明しだしたら長くなるから、ごめんね、いっちゃん。
心の中で謝りながら、私はお皿が置かれるのを眺めていた。
一口サイズのデザートで春らしく彩られたお皿は、見てるだけでワクワクする。ちょうどいいや、と持っていたスマホで写真を撮ると、フォークを手にした。
この前のアフタヌーンティーも美味しかったけど、ここのも絶品だ!なんて食べながら、この前の主任といっちゃんの会話を思い出す。
あの時主任は、『今日は疲れただろうから家でゆっくりされていると思ったのですが、こんなところに来る体力が残っていて何よりです』なんて言っていた。
それを思い出し、今更ながら腑に落ちた。主任はあの時、残業で疲れてるだろうからお見合いをキャンセルしたのに、私がノホホンと現れたからあんなことを言ったんだということに。
「だってしかたないじゃない。知らなかったんだもん」
つい愚痴めいた独り言を呟く。
知ってたら……ちゃんと行ったもん。
そんなことを思っていると、部屋のドアが開き、それはそれは不機嫌そうな顔をして主任は入って来た。
急に楽しそうな表情になった主任を見て私はそんなことを思った。
目の前のご馳走も無くなるころ、スタッフさんがデザートの飲みもののオーダーを聞きにやって来た。
「俺はホットコーヒーで。朝木は?」
「あ、アイスミルクティーで」
と言うか……。やっぱり揶揄われてたんだ。早くも朝木呼びに戻ってしまった主任を見て私は思う。
「ああ、そうだ。次に寄りたいところがあるんだが、一緒に来てくれるか?」
「はい……。私でよければ」
ようやく食べ終え、水の入ったグラスを持ち上げながら私は答える。
「じゃあ、悪い。ちょっと外で電話してくる。デザート、俺のぶんも食べてていいぞ?」
そう言って主任は立ち上がり、部屋を出て行った。
その姿が見えなくなったのを見届けると、私は「はぁぁ~……」と肩を落とすように息を吐き出した。
怒涛の展開とは、こう言う事態を言うのだろうか。
なんか勢い余って婚約を了承したけど、もちろん……偽装ってことでいいんだよね?なんて今更思う。でもさっき主任は、『口先だけだとすぐバレる』と言っていた。と言うことは……偽装じゃない?
考えすぎて、頭から煙が出そうだ。ちょっと落ち着こうと、私はバッグからスマホを取り出して通知を確認した。
ちょうど双子達からそれぞれメッセージが届いていて、私はそれを開けてみた。
いっくんは、合宿先の海をバックにピースする写真付きで『与織姉にもお土産買って帰るからな!』と書いてある。りっちゃんからは『与織姉、元気にしてますか。今回会えなかったのは残念だけど、また顔を見せに帰って来てください』と、らしい、文面だけのメッセージだ。
私は久しく会えていない弟達の顔を思い出しながら、少しほっこりしていた。そして、もう一人からのメッセージが目に留まった。
『何かあったらいつでも電話してこいよ』
これが届いたのは1時間ほど前だ。
それを見て、一言文句を言ってやろうと私は通話ボタンをタップした。
『お、与織子。どうだ見合いは。順調か?』
「いっちゃん! なんで相手が主任って教えてくれなかったのよ!」
勢いよく返す私に、いっちゃんは予想通りと言いたげに『どうだ。驚いただろう!』と答えた。
「驚いたじゃすまないわよ! それに、思惑通りなんだろうけど、婚約することになったんだからね!」
私がそう言うとしばらく静寂が訪れた。
「はぁぁ⁈」
そして、耳をつんざくようないっちゃんの叫び声が聞こえてきた。
「ちょっといっちゃん! 声大きいよ! なんで驚くの?」
てっきりいっちゃんも、とにかく婚約まで持ち込みたいのだと思っていた。けれどこの驚きよう。どうも違うらしい。
「俺はとにかく見合いさえすればいいって……。つうか、創一は? そこにいないのか?」
「ええと。主任のこと、だよね? 今はちょっと出てるよ」
電話の向こうではこちらまで息が届きそうな大きな溜め息が聞こえてくる。でも私は、全く別のことを考えていた。
下の名前で呼び合うほど仲良かったのか。……って、入社式のとき、みー君の様子がおかしかったのは、それを知っていたからじゃないんだろうか?
「与織子……」
「何?」
「もしかして……創一と……。付き合ってたのか?」
落胆したような声で尋ねられ、私は「はいっ?」と変な声を上げる。
「なっ、わけないでしょう? 話し合いの結果そうなっただけで……」
いっちゃんは詳しい話を聞いてないのだろうか。経緯を話そうか、と口を開いたとき、ドアがノックされ、デザートを乗せたワゴンと共にスタッフさんが姿を現した。
「とにかく、家に帰ってから詳しい話はするから。とりあえず落ち着いて。じゃ、デザートきたし切るね」
私はそう言うと、電話の向こうで「おいっ! 与織子!」と慌てているいっちゃんを置いたまま電話を切った。
説明しだしたら長くなるから、ごめんね、いっちゃん。
心の中で謝りながら、私はお皿が置かれるのを眺めていた。
一口サイズのデザートで春らしく彩られたお皿は、見てるだけでワクワクする。ちょうどいいや、と持っていたスマホで写真を撮ると、フォークを手にした。
この前のアフタヌーンティーも美味しかったけど、ここのも絶品だ!なんて食べながら、この前の主任といっちゃんの会話を思い出す。
あの時主任は、『今日は疲れただろうから家でゆっくりされていると思ったのですが、こんなところに来る体力が残っていて何よりです』なんて言っていた。
それを思い出し、今更ながら腑に落ちた。主任はあの時、残業で疲れてるだろうからお見合いをキャンセルしたのに、私がノホホンと現れたからあんなことを言ったんだということに。
「だってしかたないじゃない。知らなかったんだもん」
つい愚痴めいた独り言を呟く。
知ってたら……ちゃんと行ったもん。
そんなことを思っていると、部屋のドアが開き、それはそれは不機嫌そうな顔をして主任は入って来た。
あなたにおすすめの小説
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
咲妃-saki-
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』
三十歳:身長百八十五センチ
御更木グループの御曹司
創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者)
祖母がスイス人のクオーター
祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳
『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』
三十歳:身長百七十五センチ。
料理動画「即興バズレシピ」の配信者
御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが……
『咲山翠(さきやまみどり)』
二十七歳:身長百六十センチ。
蒼也の許嫁
父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授
『須垣陸(すがきりく)』
三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家
**************************
幼稚園教諭の咲山翠は
御更木グループの御曹司と
幼い頃に知り合い、
彼の祖父に気に入られて許嫁となる
だが、大人になった彼は
ベンチャー企業の経営で忙しく
すれ違いが続いていた
ある日、蒼也が迎えに来て、
余命宣告された祖父のために
すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる
お世話になったおじいさまのためにと了承して
形式的に夫婦になっただけなのに
なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で
ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、
絶体絶命のピンチに
みたいなお話しです
手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
【完結】曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
純真~こじらせ初恋の攻略法~
伊吹美香
恋愛
あの頃の私は、この恋が永遠に続くと信じていた。
未成熟な私の初恋は、愛に変わる前に終わりを告げてしまった。
この心に沁みついているあなたの姿は、時がたてば消えていくものだと思っていたのに。
いつまでも消えてくれないあなたの残像を、私は必死でかき消そうとしている。
それなのに。
どうして今さら再会してしまったのだろう。
どうしてまた、あなたはこんなに私の心に入り込んでくるのだろう。
幼いころに止まったままの純愛が、今また動き出す……。
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------