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机の上に散らばった資料を集めながら「そう。合宿行くまでに、誰にするかまた連絡くれ」と一矢は言うと、それを無造作にファイルにしまった。
「わかった」
私も机の上を片付けながら返事をしてお弁当箱を持ち上げようとすると、横から攫われる。
「俺が食ったから洗っとく。流しに置いときゃいいんだろ?」
「いいわよ。私やるし」
「お前は戸田さんのところに行くんだろ? 気にすんな。それに、大家族の長男の家事能力なめんなよ? って言っても料理はできねぇけど」
一矢はそう言って笑う。
私は一人っ子だから想像でしかないけど、その顔はなんだかお兄ちゃんっぽい。
「じゃあ……。お願い」
私がそう返すと、一矢は「任せとけ」と、私が持っていたグラスの乗ったトレーもさりげなく手に取った。
「……あのさ」
部屋を出ようと私が先にドアノブに手をかけると、後ろから一矢がおずおずとした声がした。
「何?」
振り返ると、なぜか恥ずかしそうに視線を外したまま一矢は口を開いた。
「その……。いっつも飯食わせてもらってるし、近いうちに飯でも食いに行かねぇかと思って」
「……え?」
一矢と知り合って1年。今では遠慮なく言いたいことを言い合う間柄にはなった。けど、実のところ仕事だけの関係で、プライベートで会うどころか、連絡先も知らないのだ。
「嫌、なら……いいけど」
私があまりにも驚いたからなのか、一矢はいつもの自信ありげな態度とは打って変わって、殊勝な顔でそんなことを言う。
「そんなお誘いがあるなんて、思ってなかったから驚いただけ。いいわよ? いつ?」
本当は、物凄く嬉しい。でも、そんなことは悟られないよう、可愛げなく返す。
きっと私の想いを知っても、迷惑なだけだろうから。
「また連絡する。とりあえず、これ」
片手で差し出されたのは、見覚えのある名刺。ここに書かれているのは、社用携帯の番号とメール。初めて会ったときにもらって、ちゃんと取ってある。
「これなら持ってるけど?」
受け取りつつも不思議に思い尋ねると、一矢は眉を顰めた。
「裏だ、裏」
返して見ると、殴り書きのような手書きの電話番号に、メッセージアプリのものらしきIDが記されていた。
「俺の番号。登録だけしてくれたらこっちから連絡する」
素っ気なく一矢は言うが、私はなんだかモヤモヤして黙ってしまった。
いつもこんな風に女の子を誘ってる……の?
本社で働く一矢の周りなんて、煌びやかな女性たちでいっぱいだろう。たまに本社に行くけど、なんかドラマの中みたいだといつも思ってしまう。そんな職場で、ドラマのような恋愛なんて普通なのかも知れない。だから、こんなことだって……。
「何? 俺、変なこと言った?」
顔に出さないのは私の得意分野だったはずなのに、それでも、顔に出してしまっていたのだろうか。一矢は訝しげな表情を見せた。
「な、んでもない。今日帰ってからでいい?」
「あぁ。好きなときで構わねぇ」
「わかった」
その場で一矢と別れ、私はロッカールームに向かう。
「あ、澪さん。お疲れ様でーす! 戸田トレーナーがまだかなぁって言ってましたよ?」
練習前にストレッチに行っていたのか、着替えながら萌はそう言った。
「もうそんな時間か。早く行かなきゃね」
ロッカーを開けながら私は答えて、さっき貰った名刺を大事にバッグの中にしまった。
そんな私のところに、萌はシャツを半分着ながら、横歩きでやって来ると小さく言う。
「澪さん。いいことありました?」
伊達に何年も、私を間近で見ていない。自分ではそう感情を露わにしていないと思っていても、コンビを組んでいる萌の目は誤魔化せないのだろう。
「そう……見えるならそう、なのかも」
素っ気なくそう答えて私着替えを取り出す。隣ではようやく練習着に頭を入れた萌が、服を整えていた。
「世間では、クールビューティー澪様で通ってますが、私にはわかりますよ!」
私とは正反対の豊かな表情で萌は声を上げる。私はと言うと、長年セッターとして冷静でいることが染み付いてしまったからか、元からの性格なのか、特に喜ぶと言う感情を表に出せないでいた。だから、試合に勝ってもあまり嬉しそうに見えないみたいだ。そしていつのまにか、そんな呼び名で呼ばれるようになっていたのだ。
「何言ってるのよ。ちょっと美味しいランチ食べたからじゃない?」
ロッカーに顔を向けたままそう言うと、「またまたぁ!」と、萌は笑う。
この部屋に私たちしかいないからか、萌は遠慮することなく続ける。
「恋バナならいつでも付き合いますよ?」
その言葉に思わず萌の顔を見上げると、萌はニコニコと私を見ていた。
本当、高校生のころから変わってないんだから……
その顔を見て、昔を思い出す。バレーに打ち込んだ学生時代。彼女の息抜きは漫画を読むこと。特に恋愛ものが好きで、よく私にも貸して……と言うより押し付けられていた。結局私も同じように、自分とは縁遠い空想の世界を楽しんではいたんだけど。
「ないない。あるわけないじゃない」
期待されても、いい年した大人がひっそりと片想いしてる言えるはずもない。最近萌が貸してくれる、目眩く大人の恋愛漫画のような恋など、私にはやってくるわけないのだから。
「わかった」
私も机の上を片付けながら返事をしてお弁当箱を持ち上げようとすると、横から攫われる。
「俺が食ったから洗っとく。流しに置いときゃいいんだろ?」
「いいわよ。私やるし」
「お前は戸田さんのところに行くんだろ? 気にすんな。それに、大家族の長男の家事能力なめんなよ? って言っても料理はできねぇけど」
一矢はそう言って笑う。
私は一人っ子だから想像でしかないけど、その顔はなんだかお兄ちゃんっぽい。
「じゃあ……。お願い」
私がそう返すと、一矢は「任せとけ」と、私が持っていたグラスの乗ったトレーもさりげなく手に取った。
「……あのさ」
部屋を出ようと私が先にドアノブに手をかけると、後ろから一矢がおずおずとした声がした。
「何?」
振り返ると、なぜか恥ずかしそうに視線を外したまま一矢は口を開いた。
「その……。いっつも飯食わせてもらってるし、近いうちに飯でも食いに行かねぇかと思って」
「……え?」
一矢と知り合って1年。今では遠慮なく言いたいことを言い合う間柄にはなった。けど、実のところ仕事だけの関係で、プライベートで会うどころか、連絡先も知らないのだ。
「嫌、なら……いいけど」
私があまりにも驚いたからなのか、一矢はいつもの自信ありげな態度とは打って変わって、殊勝な顔でそんなことを言う。
「そんなお誘いがあるなんて、思ってなかったから驚いただけ。いいわよ? いつ?」
本当は、物凄く嬉しい。でも、そんなことは悟られないよう、可愛げなく返す。
きっと私の想いを知っても、迷惑なだけだろうから。
「また連絡する。とりあえず、これ」
片手で差し出されたのは、見覚えのある名刺。ここに書かれているのは、社用携帯の番号とメール。初めて会ったときにもらって、ちゃんと取ってある。
「これなら持ってるけど?」
受け取りつつも不思議に思い尋ねると、一矢は眉を顰めた。
「裏だ、裏」
返して見ると、殴り書きのような手書きの電話番号に、メッセージアプリのものらしきIDが記されていた。
「俺の番号。登録だけしてくれたらこっちから連絡する」
素っ気なく一矢は言うが、私はなんだかモヤモヤして黙ってしまった。
いつもこんな風に女の子を誘ってる……の?
本社で働く一矢の周りなんて、煌びやかな女性たちでいっぱいだろう。たまに本社に行くけど、なんかドラマの中みたいだといつも思ってしまう。そんな職場で、ドラマのような恋愛なんて普通なのかも知れない。だから、こんなことだって……。
「何? 俺、変なこと言った?」
顔に出さないのは私の得意分野だったはずなのに、それでも、顔に出してしまっていたのだろうか。一矢は訝しげな表情を見せた。
「な、んでもない。今日帰ってからでいい?」
「あぁ。好きなときで構わねぇ」
「わかった」
その場で一矢と別れ、私はロッカールームに向かう。
「あ、澪さん。お疲れ様でーす! 戸田トレーナーがまだかなぁって言ってましたよ?」
練習前にストレッチに行っていたのか、着替えながら萌はそう言った。
「もうそんな時間か。早く行かなきゃね」
ロッカーを開けながら私は答えて、さっき貰った名刺を大事にバッグの中にしまった。
そんな私のところに、萌はシャツを半分着ながら、横歩きでやって来ると小さく言う。
「澪さん。いいことありました?」
伊達に何年も、私を間近で見ていない。自分ではそう感情を露わにしていないと思っていても、コンビを組んでいる萌の目は誤魔化せないのだろう。
「そう……見えるならそう、なのかも」
素っ気なくそう答えて私着替えを取り出す。隣ではようやく練習着に頭を入れた萌が、服を整えていた。
「世間では、クールビューティー澪様で通ってますが、私にはわかりますよ!」
私とは正反対の豊かな表情で萌は声を上げる。私はと言うと、長年セッターとして冷静でいることが染み付いてしまったからか、元からの性格なのか、特に喜ぶと言う感情を表に出せないでいた。だから、試合に勝ってもあまり嬉しそうに見えないみたいだ。そしていつのまにか、そんな呼び名で呼ばれるようになっていたのだ。
「何言ってるのよ。ちょっと美味しいランチ食べたからじゃない?」
ロッカーに顔を向けたままそう言うと、「またまたぁ!」と、萌は笑う。
この部屋に私たちしかいないからか、萌は遠慮することなく続ける。
「恋バナならいつでも付き合いますよ?」
その言葉に思わず萌の顔を見上げると、萌はニコニコと私を見ていた。
本当、高校生のころから変わってないんだから……
その顔を見て、昔を思い出す。バレーに打ち込んだ学生時代。彼女の息抜きは漫画を読むこと。特に恋愛ものが好きで、よく私にも貸して……と言うより押し付けられていた。結局私も同じように、自分とは縁遠い空想の世界を楽しんではいたんだけど。
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