7 / 76
2
1
俺が『枚田澪』、と言う選手を知ったのは、7年ほど前の大学時代。
そのときからの友人、そして旭河の御曹司でもある川村創一に聞いたのが最初だ。
と言っても、名前までは聞かなかった。夏休みにオリンピックを見に行くのだと聞き、興味本位で何を見るのか聞いた答えが『女子バレー。従姉妹が出るんだ』だった。
俺はすでに、旭河に入社することを目標にしていて、創一の従姉妹が、枚田、と言う名だと言うことは知っていた。そう言えばゴシップ誌で、何かごちゃごちゃ言われていたが、特に気にも留めていなかった。
そして、その夏。
実家に帰省していた俺は、テレビで初めてバレーの試合を見た。親父は知っていたのだろう。川村の血縁がそれに出ていることを。
その時の澪はまだ21才。初めてオリンピック選手に選ばれた控えのセッターだった。
その試合は、メダルに届くかが決まる重要な一戦。フルセットまで持ち込んだ日本の流れが悪くなり、投入されたのが澪だった。
俺は、澪の何もかもに釘付けになった。美しいフォーム、相手を翻弄する度胸のあるセット。そして、決まっても決まらなくても変わらない表情。たった一つ上なだけの人間が、世界相手に戦っている姿に俺は魅せられていた。
その試合、一度は引き戻した流れに乗ったが、勝つことはできなかった。
その時映し出された、澪が悔しそうに唇を噛む姿を今でも思い出せる。
それから俺は、時々試合を見に行くようになった。自分が目指している会社の持っているチームに所属していたなんて、それまで知らなかった。
もちろん創一に言えるはずもなく、わざわざ相手チーム側を選んでまで、間近でそのプレーを見たいと思った。
ただそれだけの、ちょっとした憧れだと言い聞かせて。
それから数年が経ち、俺は旭河に入社した。
入社してすぐ、俺は社長に呼び出された。周りには知られないよう極秘扱いで。そして、社長に告げられたのは、こうだ。
『君には、人とは違う出世街道を走ってもらおうと思っている。そのスピードについていけるかは君次第だ』
社長が、いや、旭河の創業者一族が、同じ創業者一族である朝木を、また旭河の経営に加えようとしている、と言う話は親父から聞かされていた。だから、俺はその思いに報いるために、がむしゃらに頑張るしかなかった。
そして、1年前。
俺は営業部から広報部へ異動した。それなりに結果を出していたから、周りからは何事だと言われていた。けれど、俺にとってはそれは次の段階へのステップアップ。広報部は、営業とは違う角度で社内を知ることができるからだ。
けれど、まさかそれまで全く接点のなかったソレイユの担当になるなんて、これっぽっちも思っていなかったが。
『初めまして。ソレイユのキャプテン、枚田澪です』
画面の先でいつも見ていた、冷たくも見える表情で澪はそう言った。初めて手の届く場所で見る澪は、思っていたより背が高く、意外に華奢だった。自然な黒髪に、涼しげな二重の切長の瞳。女性ファンが多いのも頷ける、整ったクールな顔立ち。
その時俺は、柄にもなく緊張していた。勝手に憧れていた、まるで芸能人のような相手に、まともに顔を見ることができなかった。
『朝木……一矢です』
素っ気なくそう言って、名刺を差し出すので精一杯だった。
今思い出しても間抜けな姿だ。アイドルを前にした童貞かよ、と自分にツッコミたいくらい。付き合った相手くらいそれなりにいたが、その相手にこんな態度を取ったことなどもちろん無かった。
そのときからの友人、そして旭河の御曹司でもある川村創一に聞いたのが最初だ。
と言っても、名前までは聞かなかった。夏休みにオリンピックを見に行くのだと聞き、興味本位で何を見るのか聞いた答えが『女子バレー。従姉妹が出るんだ』だった。
俺はすでに、旭河に入社することを目標にしていて、創一の従姉妹が、枚田、と言う名だと言うことは知っていた。そう言えばゴシップ誌で、何かごちゃごちゃ言われていたが、特に気にも留めていなかった。
そして、その夏。
実家に帰省していた俺は、テレビで初めてバレーの試合を見た。親父は知っていたのだろう。川村の血縁がそれに出ていることを。
その時の澪はまだ21才。初めてオリンピック選手に選ばれた控えのセッターだった。
その試合は、メダルに届くかが決まる重要な一戦。フルセットまで持ち込んだ日本の流れが悪くなり、投入されたのが澪だった。
俺は、澪の何もかもに釘付けになった。美しいフォーム、相手を翻弄する度胸のあるセット。そして、決まっても決まらなくても変わらない表情。たった一つ上なだけの人間が、世界相手に戦っている姿に俺は魅せられていた。
その試合、一度は引き戻した流れに乗ったが、勝つことはできなかった。
その時映し出された、澪が悔しそうに唇を噛む姿を今でも思い出せる。
それから俺は、時々試合を見に行くようになった。自分が目指している会社の持っているチームに所属していたなんて、それまで知らなかった。
もちろん創一に言えるはずもなく、わざわざ相手チーム側を選んでまで、間近でそのプレーを見たいと思った。
ただそれだけの、ちょっとした憧れだと言い聞かせて。
それから数年が経ち、俺は旭河に入社した。
入社してすぐ、俺は社長に呼び出された。周りには知られないよう極秘扱いで。そして、社長に告げられたのは、こうだ。
『君には、人とは違う出世街道を走ってもらおうと思っている。そのスピードについていけるかは君次第だ』
社長が、いや、旭河の創業者一族が、同じ創業者一族である朝木を、また旭河の経営に加えようとしている、と言う話は親父から聞かされていた。だから、俺はその思いに報いるために、がむしゃらに頑張るしかなかった。
そして、1年前。
俺は営業部から広報部へ異動した。それなりに結果を出していたから、周りからは何事だと言われていた。けれど、俺にとってはそれは次の段階へのステップアップ。広報部は、営業とは違う角度で社内を知ることができるからだ。
けれど、まさかそれまで全く接点のなかったソレイユの担当になるなんて、これっぽっちも思っていなかったが。
『初めまして。ソレイユのキャプテン、枚田澪です』
画面の先でいつも見ていた、冷たくも見える表情で澪はそう言った。初めて手の届く場所で見る澪は、思っていたより背が高く、意外に華奢だった。自然な黒髪に、涼しげな二重の切長の瞳。女性ファンが多いのも頷ける、整ったクールな顔立ち。
その時俺は、柄にもなく緊張していた。勝手に憧れていた、まるで芸能人のような相手に、まともに顔を見ることができなかった。
『朝木……一矢です』
素っ気なくそう言って、名刺を差し出すので精一杯だった。
今思い出しても間抜けな姿だ。アイドルを前にした童貞かよ、と自分にツッコミたいくらい。付き合った相手くらいそれなりにいたが、その相手にこんな態度を取ったことなどもちろん無かった。
あなたにおすすめの小説
毎週金曜日、午後9時にホテルで
狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。
同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…?
不定期更新です。
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
【完結】曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──