恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 トントン!と、部屋のドアが雑にノックされると、こちらが返事をする前に勢いよく扉が開いた。

「兄貴~! 飯行こうぜ~」

 薄手の白いパーカーにブラックジーンズ姿で遠慮なく入って来たのは、2つ下の弟、颯太ふうただ。

「あぁ、わかった。実樹みきは?」
「現地集合~。てか、いい店見つけたって実樹から連絡あってさ」

 颯太の下の弟は、5つ下の大学4年だ。俺たちは兄弟で3LDKの部屋を借りている。お互い干渉することもないし、気を使うことのない弟たちとのルームシェアは、まあまあ快適だ。唯一、食事、と言う面を除いて。

 俺達は誰も料理ができない。いや、しようと思えばできるんだろうが、帰宅して作り、出来上がったものが微妙な味ではテンションは下がる一方だ。結局、ほぼ外で食べることになってしまった。
 とは言え、俺も颯太も仕事関連で接待や飲み会が入ることもあるし、実樹も友人と出かけることも多く、3人で揃って出かけることは月に数えるほどだった。
 
「じゃ、兄貴。これ」

 部屋を出ると、早速颯太は目の前に車の鍵をぶら下げる。

「運転も俺かよ……。支払いも俺にさせるくせに」
「いいじゃん! いいじゃん!」

 調子よく笑う颯太に背中を押され、俺は渋々駐車場に向かう。2年前に買った車は俺の名義だが、これも弟たちは自由に使っている。もちろん、優先順位は俺が一番だが。それでも、駐車場代込みで家賃を折半しているからまぁ文句はない。

「あ、いちにい、ふうにいこっち~!」

 颯太の先導で待ち合わせた店に向かうと俺たちの姿を見つけた実樹が大きく手を振った。

「おっ? ここか? いい店って」

 見たところ、イタリアンバルという感じの店構え。颯太が実樹に尋ねると、「良さげでしょ? 昨日オープンしたて」と、俺と颯太には全く似てない、まったりした笑顔で答えた。

 少し奥まったところにあるからか、オープンしたてだからなのかはわからないが、席はまだ7割ほど埋まっているだけだった。

 よくよく話を聞くと、実樹は来たことがあるわけではなく、行きつけの店の美容師にここを教えてもらったらしい。しかも、その人も来たわけじゃなく、単にこの店のオーナーが自分の店の常連で、『行って話を聞かせて』と言われただけだったみたいだ。
 そんな話をニコニコと話す実樹に、俺も颯太も、一抹の不安を感じていたが、それはすぐに解消されていた。

「これ、マジで美味え、食べてみろよ」
「あ、本当だ。いち兄も食べてみて」

 適当に頼んだものを皆で摘みながら、弟たちはそんなことをいい合っている。

「確かに、結構いける……」

 前菜の盛り合わせからスモークサーモンを口に放りつつ答えた。

「俺、今度ここ合コンで使お」

 颯太は予定を確認しているのか、スマホの画面を眺めながらそんなことを言っている。相変わらず特定の相手はいないようで、遊び歩いているのが見てとれる。

「ふう兄、また合コン? この前もそう言ってなかった?」
「それくらいしか楽しみないっつうの! 実樹も社会人になればわかる!」
「それは……わかりたくないかな?」

 笑顔で答える実樹に、颯太の毒気も抜かれているようだ。渋い顔をしてまたスマホに視線を落とすと、颯太は「あ」と呟いた。

与織よりが、今度の日曜帰って来ないのかって。そういや兄貴、誕生日だっけ」
「そうだよね。与織ちゃん、きっとご馳走作ってくれるんじゃない?」

 与織子は、俺たちの妹。実樹の2つ下だ。そして、その2つ下には双子の弟がいる。俺は、6人兄弟の紅一点の妹を、とてつもなく可愛がっているのは自覚している。と言うか、うちの男どもはみんな与織子のことが可愛くてしょうがないのだ。
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