恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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「まぁ……。そうだな……」

 気のない返事をしながら俺はスマホを取り出した。さっき澪へ送ったメッセージの返事をそういえば確認していない。恐る恐る開けてみると、少し前にその返事は返っていた。

『その日特に用事はありません。詳細が決まりましたらお知らせください』

 なんだよ、この業務連絡は……

 と思いながらも少し頰が緩む。そのまま『店決まったらまた連絡する』とだけ送り顔を上げると、ニヤニヤした颯太とニコニコした実樹がこっちを見ていた。

「な、……んだよ? 気持ち悪りぃな」

 引き気味にそう言うと、颯太は一段とニヤついた顔を見せた。

「兄貴~。水くさいなぁ、彼女できたんなら教えてくれてもいいんじゃね?」
「はぁ?」
「そうだよ、いち兄! いつのまに!」
「いや、何言ってんだよ?」

 真顔で弟たちに返すと、颯太は「またまたぁ!」なんて意味深に笑顔を浮かべていた。

「ちょっと世話になってる人とメシでも、ってなっただけだ。なんでそう話が飛躍するんだよ?」

 訝しげに顔を顰めると、実樹はポカンとした表情を見せる。

「え? だってさ、いち兄。さっきスマホ見ながら凄く嬉しそうな顔してたよ?」

 それを横で聞いていた颯太は腕を組んで大袈裟に頷いていた。

「マジでな。そのニヤケっつら、気づいてないわけ?」
「気づくも何も、別に仕事の付き合いの一貫だ。とにかく、日曜は昼間に家帰る。与織子にもそう言っといてくれ」

 ワザと険しい表情で颯太にそう言うと、「はいはい。与織にはサプライズパーティーは昼食でって言っとく」と肩をすくめながら返ってきた。

「サプライズになってねぇだろ……」

 俺は呆れながら炭酸水を流し込む。颯太はまたスマホを手にすると、早速与織子に返事をしているようだ。

 にしても……。そんなに顔に出てたか? 

 そんなつもりはさらさら無いが、俺のことをよく知る弟だからわかったのかも知れない。

 相手が澪だって知られると面倒なことになりそうだよな、と颯太を眺めながら思う。なんせ、澪の父の経営する会社で働いているんだから。

 そしてやって来た、日曜日午後6時。
 待ち合わせは店の近くにあるわかりやすい場所にしておいた。予約したのは、この前弟たちと行ったばかりの店だ。こっそり予約状況を確認すると、まだまだ空いているとすんなり予約できた。

 にしても、さすがに今日は忙しかった。実家まで車を飛ばして1時間半。早めに出て向こうで与織子の作った飯とケーキを食って、夕方近くにまたこっちに戻った。それから今度は電車を使ってここまで出てきたわけだ。

 日曜の夕方の、人で溢れる繁華街。待ち合わせくらい、何度もしたことあるはずなのに、相手が澪だと思うと柄にもなく緊張する。手にしたスマホの画面に視線を落とすと、時間は6時を少し過ぎたところだった。

 そろそろ……来るよな?

 そう思いながら顔を上げると、真っ先に目に入った見知った顔。

「ちょっ! なんで……」

 思わずそう口に出した俺を見ながら、そいつはすこぶる笑顔で手を振り始めた。

「一矢さ~ん!」

 ただでさえ背が高いんだから、そんな大声で呼ぶのは止めてくれ、と顔を顰めると、その後ろにもう一人、この場に呼んだ覚えのない人物の顔が見えた。

「お待たせしましたぁ!」

 俺の元まで真っ先に辿り着くと、萌は明るくそう声を上げる。

「いや、呼んでねぇ……」

 唖然としたまま俺が答えると、萌はまた笑った。

「澪さんの付き添いですよ! 付き添い!」

 いい年した大人なんだから、付き添いなんかいらねぇだろ、と心の中でつっこむ。

「いやぁ、ごめんね、朝木君。どうしても萌が着いていくって聞かなくて」

 萌の後ろから顔を出したのは、謝りつつも、全く悪びれた様子のない戸田さん。そしてその隣には、一番申し訳なさそうな表情の澪が立っていた。

「その。どうしても撒けなくて……」
「あ、澪さん! 私たちのこと撒くつもりだったの? ひどいなぁ。一緒に帰ろうって言っただけなのに!」

 どう見ても興味津々で着いてきたんだろうが……

 俺は呆れながら溜め息を吐く。

「萌も、戸田さんも、飯まだなら一緒に行きませんか?」

 ここは誘ったほうが身のためだ。俺はそう計算した。
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