恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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「え! デートのお邪魔なんじゃ?」
「デートじゃねぇから……。普段世話になってるし、飯でもどうだって誘っただけだ」
「やった! 一矢さんともっと話してみたいと思ってたんですよ! 行きましょう、澪さん」

 はしゃいでいる萌はそう言って澪の腕を引く。

「あ、うん……。戸田さんも……よかったら」

 澪はおずおずと戸田さんにそう言う。戸田さんのほうは、「いや、邪魔しちゃ悪いよ」と言いつつ、満更でもなさそうだ。

「戸田さんも是非一緒に。人が多いほうが楽しいでしょうし」

 助け船を出すように俺は笑みを浮かべる。
 もちろん内心は、全然、全く、楽しくねぇが仕方ない。きっと澪は人が多いほうがいいんだろう。さっき俺が2人を誘ったとき、なんとなくホッとしたように見えたから。

2人きりは……やっぱ嫌だったか……?

 多少落ち込みつつも、気持ちを切り替え「店は予約してあるんで。こっちです」と踵を返した。

 後ろから3人が来ているのを確認しながら、大通りから裏路地の、そのまた細い路地に入る。隠れ家的な店を狙っているのかも知れないが、隠れ過ぎてて、他人事ながら客足が心配になる。

「いらっしゃいませ」

 上部がガラス貼りのドアを開けると、白いシャツに黒いエプロン姿の店員に声をかけられる。

「予約してた……」

 まで言うと「朝木様、お待ちしていました」と向こうから言われる。

「一矢さん、こんなおしゃれなお店の常連さん? さすが……」

 感心したような萌に振り返り、「違うって。来たのまだ2回目だから」と言いわけがましく言う。

「1回目は誰と来たんですか? デート?」

 無邪気に尋ねる萌に「残念ながら弟だ。ほら行くぞ」と、進み始めた店員のあとを追いかけた。

 意外と客は入っていて、ほぼ席は埋まっている。女性グループが多く、あちらこちらから楽しそうな声が響くなか店の奥へ進んだ。
 
 それにしても、視線が凄い。俺もそれなりにデカいが、隣を歩くのが俺よりギリ背の低い萌だからか、それとも有名人だからか、周りの奴らが振り返ってまで見ているのがわかる。と言っても、当の本人はそれを気にすることなくニコニコと歩いていたが。

 にしても……。いったいこの並びはなんなんだ

 俺は気づかれないよう溜め息を吐いた。
 一番奥まった四角い四人掛けのテーブル。それなりに大きさがあり、ゆったり座れるのはよかった。が、なぜか俺の横に萌、向かいには戸田さん。もちろん澪は斜め前。そんな並びで座ることになってしまった。

「澪さん、どれにします? これも、あっ、これも美味しそう!」

 萌はメニュー表を広げ、澪にあれこれ話しかけている。澪もはしゃぐ萌に釣られるように明るい表情になると、「そうね。どれにしようか?」と答えていた。
 そんな2人を、頬杖を突いてチラ見していると、視界を遮るようにメニュー表が現れた。

 「朝木君。本当、ごめんね」

 メニュー表をパーテーションのように横に立て、戸田さんは俺に顔を寄せると小声で言う。

「なんで謝るのか、よくわからないですけど?」

 仏頂面で、同じように小声で返す俺に、何食わぬ顔で戸田さんは続けた。

「デートじゃないのはわかってたけど、それでも邪魔だったかなって」

 爽やか、と言う言葉がぴったりの笑顔を見せる戸田さんに、思わず顔を顰めてしまう。そんな俺を見て、「ハハハ」と笑い声を口にして、メニュー表をテーブルに置いた。
 
 くそっ、完全に俺の負けかよ

 悔しいが、全部見抜かれているらしい。俺が澪をどう思っているのかも、それが進展していないのも。

 この人はいつもそうだ。颯爽としているようで、飄々ともしている。まさに風のように、つかみどころが無くて何考えてるのか俺には全く読めない。初めて会ったときから、俺が苦手とするタイプって印象は変わっていなかった。
 
「2人とも、考えてます?」

 頬杖をつき、ぼんやりと違うほうを眺めていた俺と、メニュー表に視線を落としていた戸田さんに、萌から声がかかる。

「料理は任せるよ。おじさんにはよくわからないし。ね? 朝木君?」

 なんで俺に同意を求める……

「そうですね。おじさんではないですけど。まだ俺は27です」

 不貞腐れ気味で答えると、澪が顔を上げてこう言った。

「えっ? 27?」
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