13 / 76
3
1
プライベートの連絡先を貰ったその日。私は一人部屋のソファに転がり悩んでいた。
なんて送ったら……いいんだろ?
そういえば、27にもなるのに今まで彼氏はともかく、男友達すらいたことはない。男の人相手にプライベートでメッセージを送ったことなんてない。……いや、一人だけいる。
私はその相手とのメッセージのやりとりを遡って眺めてみた。一番最近、と言ってももう一月近く前のはこうだ。
『出張の土産を明日持って行く。叔母様に伝えておいてくれ』
私が送られてきたそれに、OKとスタンプを送り返しただけで終わっている。その前のやりとりはこうだった。
『北海道に出張に行くことになった。土産は何がいい?』
私は、『これ。よろしく』と、地域限定のお菓子の画像とURLを送りつけただけだった。
な……なんなの? このやりとり……
いくら相手が気心の知れた一つ年下の従兄弟、創だとしても、これはさすがに可愛げがなさすぎる。自分のことなのに、今更ながら愕然としてしまった。
だから私はもう数十分も、メッセージの画面を開いたまま何の文字も打てずにいた。
可愛くないと思われてもしかたないけど、今更可愛くみせるのも無理な話だ。そんなことをしたところで、気持ち悪がられるに違いないだろうし。
悩んでもしょうがない、と私は簡単に仕事のときと変わらないメッセージを送る。
なんとかやりとりをして、一矢とご飯を食べに行くのは日曜の夕方に決まった。ほんの、数日後だ。
そしてその約束の日。
練習はほぼ1日中だけど、終わるのは夕方4時だからまだ早いほうだ。
練習中気を抜くと浮き足立ってしまいそうで、今日のことは考えないようにしていた。でもそれも終わると途端に意識してしまう。
とりあえず、いったん頭もクールダウンしなきゃ
待ち合わせまで時間はある。できるだけ更衣室でみんなとかち合わないようにしたい。絶対に着替えたらツッコまれそうな服装。それに、ちゃんとメイクもしたい。さすがにいつものような、『あとは家に帰るだけだし』って言う適当な服装とメイクで向かう勇気はない。
私は、事務仕事残ってたはずと、着替えもせず事務所に真っ直ぐ向かった。
誰もいない……よね?
さすがにそろそろ用意しなきゃと更衣室に向かうと、時間を潰したのが功を奏したのか、最後に帰って行くメンバーとすれ違った。そこから身支度を整え、恐る恐る玄関に向かい辺りを見渡してホッと息を吐いた。
よかった。誰にも会わずにすんだ……
後ろめたいことをしているわけじゃないけど、普段と違う服装で帰る私を見て、茶化してくる人間は一人や二人じゃないはずだ。
後ろからくる人もいないことに安心して自動扉を抜け歩き出すと、背中側から耳馴染みのある声が飛んできた。
「澪さーん! 今帰り~?」
なんで……
頭を抱えながら振り返ると、自動扉出た反対側の奥に人影が見えた。もちろんそれは、今日一番遭遇したくなかった相手。萌は、跳ねながら私に手を振っていて、横には戸田さんが立っていた。
「まだいたんだ。気づかないうちに帰ったのかと思った」
立ち止まった私の元に駆けてくると、萌は屈託のない笑顔を浮かべた。
「ちょっと事務仕事片付けてて」
時間はあまりないから、歩き出しながら答えると、萌は私についてきた。
「大変ですねぇ、キャプテンって」
ちょっと待って! なんで着いてくるの?
と内心焦っている私を他所に、萌はしみじみとそんなことを言っている。
「それより萌は、戸田さんに用事があったんじゃないの?」
歩くスピードを少し上げると、萌は私の歩調に合わせた。
「もう終わりました。そろそろ帰ろうかって言ってたところです。ね? 戸田さん?」
歩きながら振り返り萌が言うと、後ろから「そうだね」と戸田さんの声が聞こえる。
なんで戸田さんまで着いてきちゃうのよ!
自分の間の悪さを呪いたい。見つかってしまうのは運命だったのだろうか、とため息を吐く。
けれど、ここで別れられるはずだ。通りに出て右に行くと最寄り駅。私は左に行きたい。待ち合わせは同じ路線の一駅先。電車に乗るより歩いたほうが早いからだ。
「じゃ、じゃあ……私、こっちだから」
一度立ち止まると、私はいつもと反対側を指さす。
「そうですか……」
一瞬、シュンとした顔になったかと思うとすぐに萌は笑顔になり言った。
「じゃあ私も今日はそっちです!」
なんて送ったら……いいんだろ?
そういえば、27にもなるのに今まで彼氏はともかく、男友達すらいたことはない。男の人相手にプライベートでメッセージを送ったことなんてない。……いや、一人だけいる。
私はその相手とのメッセージのやりとりを遡って眺めてみた。一番最近、と言ってももう一月近く前のはこうだ。
『出張の土産を明日持って行く。叔母様に伝えておいてくれ』
私が送られてきたそれに、OKとスタンプを送り返しただけで終わっている。その前のやりとりはこうだった。
『北海道に出張に行くことになった。土産は何がいい?』
私は、『これ。よろしく』と、地域限定のお菓子の画像とURLを送りつけただけだった。
な……なんなの? このやりとり……
いくら相手が気心の知れた一つ年下の従兄弟、創だとしても、これはさすがに可愛げがなさすぎる。自分のことなのに、今更ながら愕然としてしまった。
だから私はもう数十分も、メッセージの画面を開いたまま何の文字も打てずにいた。
可愛くないと思われてもしかたないけど、今更可愛くみせるのも無理な話だ。そんなことをしたところで、気持ち悪がられるに違いないだろうし。
悩んでもしょうがない、と私は簡単に仕事のときと変わらないメッセージを送る。
なんとかやりとりをして、一矢とご飯を食べに行くのは日曜の夕方に決まった。ほんの、数日後だ。
そしてその約束の日。
練習はほぼ1日中だけど、終わるのは夕方4時だからまだ早いほうだ。
練習中気を抜くと浮き足立ってしまいそうで、今日のことは考えないようにしていた。でもそれも終わると途端に意識してしまう。
とりあえず、いったん頭もクールダウンしなきゃ
待ち合わせまで時間はある。できるだけ更衣室でみんなとかち合わないようにしたい。絶対に着替えたらツッコまれそうな服装。それに、ちゃんとメイクもしたい。さすがにいつものような、『あとは家に帰るだけだし』って言う適当な服装とメイクで向かう勇気はない。
私は、事務仕事残ってたはずと、着替えもせず事務所に真っ直ぐ向かった。
誰もいない……よね?
さすがにそろそろ用意しなきゃと更衣室に向かうと、時間を潰したのが功を奏したのか、最後に帰って行くメンバーとすれ違った。そこから身支度を整え、恐る恐る玄関に向かい辺りを見渡してホッと息を吐いた。
よかった。誰にも会わずにすんだ……
後ろめたいことをしているわけじゃないけど、普段と違う服装で帰る私を見て、茶化してくる人間は一人や二人じゃないはずだ。
後ろからくる人もいないことに安心して自動扉を抜け歩き出すと、背中側から耳馴染みのある声が飛んできた。
「澪さーん! 今帰り~?」
なんで……
頭を抱えながら振り返ると、自動扉出た反対側の奥に人影が見えた。もちろんそれは、今日一番遭遇したくなかった相手。萌は、跳ねながら私に手を振っていて、横には戸田さんが立っていた。
「まだいたんだ。気づかないうちに帰ったのかと思った」
立ち止まった私の元に駆けてくると、萌は屈託のない笑顔を浮かべた。
「ちょっと事務仕事片付けてて」
時間はあまりないから、歩き出しながら答えると、萌は私についてきた。
「大変ですねぇ、キャプテンって」
ちょっと待って! なんで着いてくるの?
と内心焦っている私を他所に、萌はしみじみとそんなことを言っている。
「それより萌は、戸田さんに用事があったんじゃないの?」
歩くスピードを少し上げると、萌は私の歩調に合わせた。
「もう終わりました。そろそろ帰ろうかって言ってたところです。ね? 戸田さん?」
歩きながら振り返り萌が言うと、後ろから「そうだね」と戸田さんの声が聞こえる。
なんで戸田さんまで着いてきちゃうのよ!
自分の間の悪さを呪いたい。見つかってしまうのは運命だったのだろうか、とため息を吐く。
けれど、ここで別れられるはずだ。通りに出て右に行くと最寄り駅。私は左に行きたい。待ち合わせは同じ路線の一駅先。電車に乗るより歩いたほうが早いからだ。
「じゃ、じゃあ……私、こっちだから」
一度立ち止まると、私はいつもと反対側を指さす。
「そうですか……」
一瞬、シュンとした顔になったかと思うとすぐに萌は笑顔になり言った。
「じゃあ私も今日はそっちです!」
あなたにおすすめの小説
毎週金曜日、午後9時にホテルで
狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。
同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…?
不定期更新です。
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
【完結】曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──