恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 料理は萌が、飲み物はそれぞれがオーダーし、まず飲み物が揃うと皆手に取った。

「じゃあ、乾杯しましょう! 一矢さんの誕生日にかんぱ~い!」

 チームでも、こういうときでもムードメーカーの萌が明るく声を上げると真ん中にグラスを掲げた。

「おめでとう、朝木君」
「あの、おめでとう……」

 口々にそう言うと、一矢は気恥ずかしそうに視線を外し「あ、り……がとうございます」と答えた。その照れくさそうな顔は、ちょっとかわいいかも、と私は一矢を盗み見ていた。

「さ、食べましょうよ! お腹、空きました!」

 思っていたよりどの皿もボリュームがあり、テーブルの上には所狭しと料理が並んでいた。
 私はまず、前菜の盛り合わせから、生ハムのマリネを口に運んだ。塩気と程よい酸味が相まって凄く良い。

「これ……美味しい……」

 思わずそう言うと、一矢は自分が褒められたように「だろ?」と笑った。

「このピザも美味しいです! 一矢さん!」

 本当に空腹だったようで、いきなりがっつりとピザに齧り付くと萌も笑顔で言っている。

「よかったな。たくさん食えよ?」

 優しい顔付きで萌に笑いかける一矢に、少しモヤモヤしてしまう。そんな顔、私には見せないのに、なんて、私は心が狭い。

「そういえば朝木君。さっき、昼間散々ケーキ食べた、なんて言ってたけど、誰と食べたんだい?」

 戸田さんは、白ワインの入ったグラスを傾けながら、ニコニコと尋ねている。

「その話し、蒸し返します?」

 一矢は、途端に嫌そうな顔で戸田さんを見た。

「あ、私も聞きたい! デートですか? デート!」

 恋バナをしたいのか、萌はワクワクした表情で一矢を見た。

「だからデートじゃねぇ。実家帰ってたんだ。日曜だし、久しぶりに兄弟全員集まって妹の作った飯とケーキ食っただけだ」
「へ~。一矢さん、妹さんいるんですね。兄弟全員って、他にもいるんですか?」

 さすがに、他のメンバーとそんな話しはしないみたいだ。私は何度も聞かされた兄弟のことを、萌は知らないようだった。一矢は簡単に2人に兄弟の説明をしていた。

「6人兄弟の長男! どおりですごくお兄ちゃん感あると思った」

 萌は納得したように言っている。

「確かにね。長男って感じする」

 戸田さんも萌に同意するように言ってから「僕もお兄ちゃんだけどね?」と笑った。

「……でしょうね」

 渋い顔して返す一矢に、戸田さんは「弟は朝木君と同じ年なんだ」と返し、一矢は一層渋い顔をしていた。

「はいっ! はいっ! 私は妹です! お兄ちゃんいます!」

 猛アピールするように萌は手を挙げる。私はもちろんそれを知っている。ちびちびとワインクーラーのグラスに口をつけながら、私は黙って向かいの様子を眺めていた。

「あ~。だろうな。で、そのお兄ちゃんとは結構歳離れてんじゃねぇの?」
「なんでわかったんですか⁈」

 目を丸くしている萌に、一矢は吹き出して笑っている。

「見りゃわかるだろ。スッゲェ妹感あるし。可愛がられたんだろうなって」
「いやぁ、お恥ずかしい」

 萌はわざとらしく頭を掻きながら続けた。

「ってことは、一矢さんも妹さんのこと可愛がってるんですか?」
「当たり前だろうが。妹はな、むちゃくちゃ可愛いんだ。まぁ、お前も可愛いぞ? 小さいころの妹見てるみたいで」

 一矢は少年のようにニカっと笑うと、萌に向かいそう言った。

「小さいころは余計だと思いますよ!」

 頰を膨らませて抗議する萌に、「悪りぃ悪りぃ」と一矢は笑いながら相手をしていた。私はそれを、遠くを見つめるように眺めていた。

 こんなふうに、一矢と話したことなんてない。可愛いなんて、言われたこともない。
 
 私は目の前で燥ぎ合う2人を、グラスを持ったままぼんやりと見つめていた。

「澪? 大丈夫? 元気ないけど」

 私に体を寄せた戸田さんに小さく尋ねられ我に返った。

「大丈夫です。あんまりお腹空いてないなぁって」

 取り繕うよう返す私を、戸田さんはまだ心配そう見ている。

「飲むなら食べたほうがいいよ? 澪、お酒あんまり強くないでしょ?」

 戸田さんは私の手からするりとグラスを抜くと、それをテーブルに置く。そんなに飲んでいたつもりじゃないのに、無意識に口に運んでいたのか、もうほぼ空だった。

「はは……。そうですね。また戸田さんに迷惑かけたら大変!」

 乾いた笑いを漏らしながら答えた。キャプテンになったばかりのころ、本社のお偉いさん方との懇親会で、勧められるがままにお酒を飲み、酔った私を介抱してくれたのは戸田さんだ。さすがにあんな醜態、二度と晒したくない。

「ピザでも食べようかな?」

 私は明るくそう言ってピザの乗る皿に手を伸ばす。

「悩み事があるなら、いつでも相談にのるよ?」

 前を向いている私の耳に、そんな言葉が届く。チーズがこぼれないよう持ち上げながら、「やだなぁ、ないですって。悩みなんて」と笑いながら答えた。

「そう? ならいいけど」

 素っ気なくそう言うと、戸田さんはワイングラスを持ち上げた。
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