恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 また酒に手を伸ばした俺を見かねたのか、創一は取り皿に料理を適当に乗せると俺に差し出した。

「次はこれを食ってからにしろ」

 渋々その皿を受け取ると、自分の前にそれを置く。その上には、小海老のフリッター、ローストビーフ、ピクルスの盛り合わせ、ラタトゥイユ、具入りの卵焼きなどが、ところ狭しと乗せられていた。
 創一は、俺が食べるのを見守るように、じっとこちらを見ていた。

 しかたねぇ……。さすがに飲んでばかりなのも体には良くねぇか……

 諦めて箸を持つと、なんとなく卵焼きを口に放り込む。

「…………。美味……い」
「なら……よかった」

 無意識に俺は口にしていた。ハッとして顔を上げると、創一は少し口角を上げたような気がした。
 また残りの卵焼きを口に運び、俺は視線を下に向けると続けた。

「それに……。なんか懐かしい気がする」

 どこがどう、と言われると説明はできないが、なんとなく感じたことを口に出すと、創一は訝しげに「懐かしい?」と言っている。

「いや、なんでもねぇ。最近まともなもん食った記憶ねぇしな。すげえ美味い」

 久しぶりに感じる空腹感が、さっきの一口が引き金になったように一気に押し寄せてくる。俺はしばらく酒を飲むのも忘れ、食べることに熱中していた。
 取り留めもない話をしながら、腹を満たす。いつのまにか創一がワインを開け、それも2本目となっていた。創一は酔った様子もなくいつものように淡々とした表情で俺の話に相槌を打っている。昔からそうだ。俺ばかりが喋って、創一はいつも聞く側だった。

「俺さ、お前に話してないことがあってさ……」

 だんだんとふわふわしてきた頭で、そう切り出す。

「話してないこと?」

 未だに姿勢を崩すことなく、まっすぐこちらを見て、創一は不思議そうな顔をした。

「あぁ。……俺、今……っつうか、去年の4月から、ソレイユの担当してんだよ」
「ソレイユの?」
「そ。だから、お前の従姉妹とも顔見知り。まぁ、あいつはキャプテンだったし、それなりに接点はあった」
「なんで言わなかった?」

 今更すぎて決まりは悪い。なんとなく創一を見れず視線を外し俺は答える。

「お前の友人だって知ったら気を使うかもなって思ったから。だからあいつにも言わなかった」
「そう、か」

 創一はそれだけ言うと、持っていたグラスをコトリと置いた。

「あいつは元気にしてるか? 連絡もとってねぇし、それだけが気がかりでな」

 そう言うと俺は、気を紛らわせるように残っていたワインを一気に呷った。

「あぁ。元気だ。今はもう普通に歩き回ってる」
「そっか。……よかったな」

 俺はホッと肩で息を吐く。

 澪の話は、萌ともしない。最初こそ不安そうにしていた萌も、この頃はキャプテンとして自覚も出てきたのか顔つきも変わってきた。そんな萌は、俺と話すときは澪の話題をあえて避けているような気がした。

「全く連絡も取ってねぇし、チームのやつにも話聞かねぇから、ちょっと心配してた。元気なら……それでいい」

 創一は何も答えず、しばらく沈黙が訪れる。それを破るように、どこからか携帯の着信音が聞こえてきた。

「悪い、電話だ」

 創一は立ち上がると、背後にあるキッチンカウンターに手を伸ばした。

「遠慮なく出ろよ?」

 画面の表示を見て一瞬躊躇したように見えた創一に、俺はそう言った。

「あぁ」

 それだけ言うと創一はその場で電話を取った。

「……俺だ」

 短くそう言うと、その後創一からは短い相槌しか聞こえてこない。聞き耳を立てているわけじゃないが、その素っ気なさに、仕事か? なんて思う。
 俺はその間に、すでに綺麗さっぱり平らげた皿を片づけ始めた。まだそう遅い時間じゃないが、早めに飲み始めたからか、今度は眠気が襲い始めている気がする。

「──わかった。今から行く」

 創一はそう言って電話を切ると軽く息を吐き出した。

「仕事か?」
「いや……。知人が、困っているから今から来てくれないか、と」

 創一はそう答えながら、またカウンターにスマホを置く。

「俺のことは気にせず行ってくれば? 先に皿片付けとくし」

 立ち上がり残りの皿を重ねながら俺はそう促す。創一は少し考えてから俺に言う。

「お前も手伝ってくれないか? 重い荷物を運んで欲しいらしい」
「俺? いや、結構酔っ払ってるし、役に立たないぞ?」
「大丈夫だ。来てくれればそれでいい。相手は同じマンションの違う階に住んでるんだ。今から向かう」

 珍しく、有無を言わせない口調で創一は言い、俺はそれに従った。エレベーターで上の階に向かい、創一の背中を追いかけながら廊下を進む。

「あっ、創! ごめん、急に呼び出しちゃって。張り切ってお水頼んだのはいいけど、中まで運べなくて」

 たどり着いた先。創一の背中越しに聞こえきたその声に、俺は耳を疑った。

「俺が家にいなかったらどうするつもりだったんだ」

 全身が強張り動けなくなった俺を置いて、創一はその人の元へ向かう。荷物を確認するように屈んでいたその人は体を起こすと、俺の姿を確認したのか、驚いた表情を見せていた。
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