恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 一矢は食後の片付けを全部すると、そのまま家に帰ると私に告げた。

「1時間ほどで戻ってくる。着いたら連絡するから創一の駐車場まで来てくれ」

 玄関先で当たり前のように言われ、私は戸惑いながら「……わかった」と答えた。一矢は明るく「またあとでな」と出て行く。どうしていいのかわからない私を残して。

 デート……。デート⁈ 私たち、付き合ってるの?

 こんなことに戸惑ってるなんて、一矢は想像すらしないだろう。
 お互い、どう思っているのかは伝えあった。でも、付き合ってなんて一言も言われていない。そもそも、男女交際と言うものが、どうやって始まるのか、私は全く知らないのだから。

 どうしたらいいのよぉ!

 私は一人悶々と考える。よくよく考えると、恥ずかしながら、一矢が私の初恋みたいなものだ。今まで出会いらしい出会いもなく、いや、あったのかも知れないけど眼中にはなく、こんな大人になるまで、恋らしい恋をしてこなかった。まさかそれが実るなんて思ってもいなかったから、この先、どうすればいいかわからない。

 試合を組み立てるほうが、よっぽど簡単よ……

 私は盛大に溜め息を吐いて時間を確認した。一矢が家を出てからすでに、20分が経過していた。

「早っ!」

 そこから私は、慌てて用意を始めた。
 デートと言われると、着るものにも悩む。けど悩んでる時間もない。私は、デートと言う名の買い出しよ! いつも創と出かけるときみたいな格好でいいじゃない! と自分に言い聞かせて着替えると、取り急ぎ簡単メイクを済ます。そうしているうち、本当に1時間ほどで一矢から電話がかかってきた。

「お、待た……せ……」

 創がいつも車を停めている駐車場に着くと、そこには創の車によく似た黒いSUVが停まっていた。そして、その横にはさっきとは違う姿の一矢が立っていた。

 やっぱり……すごく格好いい……

 うっかり見惚れてしまうその姿は、いつも見ていたスーツ姿とは違う格好よさがあった。ポロシャツとデニムというカジュアルな服装なのに。
 
「ん。乗って」

 一矢は流れるように助手席を開けると私を促す。なんか手慣れてるな、と思いながら私はそこに乗った。
 一矢も運転席に乗り込むと、シートベルトをしながら私を見た。

「そういやさ。足、大丈夫なのか?」
「あ、うん。普通に歩くぶんには。長時間歩いたり、重いもの持つのはまだキツイかな」
「そっか。よかったな。じゃ、どこ行きたい?」

 一矢は穏やかに笑みを浮かべると私に尋ねた。

「いつも行ってるスーパーは結構近くで……」

 そう返すと、即座に「先に買い物したら他寄れねぇだろ。食料以外に欲しいもんはないわけ?」と返される。

 デートはやっぱり本気? でも欲しいものなんて……と思ったとき、ふとそれが浮かんだ。

「実は、お鍋を買いに行きたくて……」
「鍋?」

 鍋はもちろん持っている。でも今欲しいお鍋があるのだ。ネットで注文できるけど、実物を見てから、と思っていたものが。

「これなんだけど……」

 私は自分のスマホで検索した画面を一矢に見せる。

「ちょっと見せて」

 一矢はしばらくその画面を見ると、「わかった。この中のどこの店でもいいよな?」と私にスマホを返す。

「連れて行ってくれるの?」
「お安い御用だ」

 一矢はニカっと笑うとエンジンをかけ、車は走り出した。

 そこからは無言だ。創が相手なら、勝手に曲を流したり、一方的に話しかけたりするけど、隣が一矢だと思うと緊張して何もできない。私は身を固くして助手席に座っているだけだった。
 そんな時間は長かったようですぐに終わり、ほんの20分ほど走ると車はコインパーキングに停められた。繁華街なのは車窓から見ていてわかったけど、ここがどこなのかはわからない。あちこち出かけるタイプでもないから、全く土地勘などなかった。

「降りねぇの?」

 エンジンを切るとシートベルトを外し、ドアに手をかけた一矢に尋ねられる。

「降りる」

 外を見てボサッとしていた私は慌ててシートベルトを外し外に出た。

 こんな街中まで来るなら、もうちょっとちゃんとした格好したのに……

 と思ってもいまさら遅い。かろうじて人前に出ても恥ずかしくない程度のゆるっとしたTシャツにスキニー。ちょっとそこまでお買い物にしか見えない。自分を残念に思いながら周りに立つ高層ビルを眺めた。

「じゃあ、行くか。と言うことで。はい」

 なんの掛け声? と一矢に視線を向けると、なぜか手を差し出していた。

「……何?」

 不思議に思いながら尋ねると、一矢も同じように不思議そうな顔をした。

「何って、手、繋いでくれねぇの?」
「…………。なっ、なんで⁈」

 駐車場に誰もいなくてよかった。自分でも聞いたことないくらい驚いた声を出してしまったから。
 そんな私を見て、一矢は腹を抱えるように笑い出す。

「本当! お前のどこがクールなんだか!」
「それは貴方がすぐ揶揄うからでしょ!」
「揶揄ってねぇよ。いいから手!」

 まだ可笑そうに声を漏らしながら、一矢は私の手を取った。
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