恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 夏休み最初は3連休。日曜が祝日にあたり、月曜は振替休日だ。
 初日の土曜日。前日までの仕事の疲れと寝不足気味だったのがたたり、俺は昼間まで眠り込んでいた。

「おはよう。ちゃんと息してるのか心配になっちゃった」

 茶化されながら昼飯を取り、その後近場に買い物に出かけた。そして陽が落ちるころ、ジョギングに駆り出されたのだ。
 軽い、と聞いていたのに、そこはさすがに元アスリート。全然軽くない。平然と走る澪の横で、俺はみっともなくゼェゼェ言うだけだった。

「これでも、学生時代サッカーで鍛えてたんだけどな……」

 途中から散歩に変わったジョギングをしながら俺は言った。

「何年前の話? 運動しなきゃどんどん太っていくわよ?」
「だな。マジで最近やべぇ」

 どちらともなく手を繋ぎ、俺たちは夜の散歩を楽しむ。散歩が楽しいと大人になって思えるなんて、と美しい澪の横顔を盗み見た。

 ガキのころはよく妹や弟を連れて散歩に行ったよな……。と言っても、あれは散歩と言うより、山を探検だな

 昔を思い出し、思わずフッと顔を緩ませていると澪がこちらを向く。

「何? ニヤニヤしちゃって」

 引き気味にそう言う澪に、「悪いな。俺はむっつりスケベなんだ」と冗談で返す。澪はそれに、無言で顔を顰めていた。


◆◆


 「おはよう。忘れ物はないか?」

 澪の住むマンション近くで待ち合わせた俺は、助手席に澪が乗り込んだ途端に尋ねる。

「何? いきなり?」
「いや。その荷物……。少なくねぇか?」

 連休最終日の今日は遠方へ出かけ、そしてそこで1泊……の予定だ。だが、今澪の膝に乗るその荷物は、1泊するには少ないような気がする。ちゃんと泊まりだと伝わっているか心配になり思わず尋ねてしまったのだ。

「そう? 1日くらいならこれで充分じゃない?」
「俺と変わんねえ気がするんだが」

 エンジンをかけながらボヤくと、澪は「あぁ」と1人納得したように呟く。

「ほら、私、遠征も多かったから、旅慣れてると言うか。使うかわからないものは持たないの。だからじゃない?」
「たしかにそうかもな」

 澪の言葉に納得しながら俺はアクセルをゆっくり踏む。

「渋滞で時間かかるかも知れねぇし、休憩したくなったら早めに言えよ? あと眠くなったら寝ててくれていいからな?」

 世間はお盆休みで、テレビでは田舎へ向かう渋滞の様子が流れていた。今から向かうのも田舎で、途中の渋滞は覚悟していた。

「うん。でも、今寝ちゃったら夜眠れないかも」
「安心しろ。夜は寝かすつもりねぇし」

 自分の願望丸出しで言うと、澪は勢いよくこちらを向いた。

「なななっ! 何言ってるの⁈」

 と大慌てで。

 ハンドル操作を誤るんじゃないかと思うほど俺が笑っていると、澪は拗ねたように声を上げた。

「そんなに笑わないでくれる? 一矢が変なこといいだすから!」
「別に変なことは言ってねぇぞ? トランプする? それとも枕投げ?」

 笑いを噛み殺しながら尋ねると、澪はプイッと窓側を向いた。

「そんなつもりないくせに」

 そりゃぁ俺だって男だし、好きな女の全てが欲しいと思うのは自然なことだと思う。けれど、この小旅行を決めたとき、俺は澪に言った。

『下心はあるけど、ないからな? お前の気持ちを考えずに先走るような真似はもうしねぇから』

 それに澪は恥ずかしそうに頰を染め、コクンと頷いていた。

「ちゃんと約束は守る。だからそんなこと気にしねぇで楽しめよ?」

 いつもより車の少ない都内の道を走らせながら俺は言う。せっかくの旅行だ。楽しんでくれるのがなによりの土産になる。今まで、遠征で国内どころか海外の各地に行ったことがある澪が、『旅行らしい旅行って、小学生以来かも』と言っていたから。

「……うん。そうする」

 目の端に映る澪は、まだ窓を向いている。けれどその返事に、もう拗ねている様子はなかった。

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