恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 灼熱の太陽が降り注ぐ午後。待ち合わせた駐車場で車に乗り込むと、私はシートベルトをしながら欠伸を噛み殺していた。

「ずいぶんと乱れた生活をしているようだな、澪」
「なっ……に、言ってるのよ! 創!」

 こんなに慌てていては肯定しているも同然なのに、不意打ちをくらいそんな返しをしてしまう。

「……みんなの前でそんな姿を晒さないよう気をつけろよ」

 どちらが年上かわからない物言いに、私は「はぁい……」と小さくなりながら返した。

 今日は土曜日。一矢も創も明日まで休み。けれど一矢は、『さすがに実家に帰らないとマズイ』と今日から実家だ。そして私も今日は、川村の家で親戚が集まって食事をすることになっていた。
 次に一矢に会うのは早くて次の金曜日。だからなのか、昨日、と言うより今日の朝方まで散々求められた。ジョギングでへたばってた人とは思えないくらいに。

 私、まだ初心者マークは外れてないんだけど……

 そんな小言を言いたいくらい、今は身体中がダルい。

 創には改まって話はしてないけど、きっと色々察してはいると思う。でも、やっぱり何も言ってこないし、誰かに言うこともないだろう。ましてや親戚、と言うか、川村と枚田の両親が揃っている場で空気を読まずそんな話をしたりはしないはずだ。

 さすがに……様子を見てからじゃないと親には話せないし。相手の名前を出そうものなら、すぐに本社に乗り込まれそう……

 そんなことを考えて、私は溜め息を吐いた。

「お帰りなさいませ、坊っちゃん。いらっしゃいませ、澪お嬢様」

 川村の家で真っ先に出迎えてくれたのはこの家に古くから仕える仁美ひとみさんだ。

「ご無沙汰しています。これ、先日出かけた先のお土産。小さいほうの箱は仁美さんのだからね」
「まぁまぁ。お気遣いありがとうございます」

 祖母と言っていいこの人のことが、私は大好きだ。子どものころ、ここに訪れると出してくれる料理やお菓子。それを作り出す仁美さんが魔法使いに見えた。そしてそれが、私が料理するきっかけにもなった。

「皆さま客間にお揃いですよ」

 そう言って仁美さんは奥へ消えていく。私たちはその手前にある客間に向かった。

「帰りました」

 まず創が客間に入り言う。私もそのあとに続いた。

「お招きありがとうございます。伯父様、伯母様」
「お帰りなさい、創一さん。澪ちゃんも、お元気そうでなにより」

 まずは伯母様が穏やかに微笑みながらそう言ってくれた。

「はい。おかげさまで。皆さまもお変わりありませんか?」
「えぇ。さ、2人とも座って?」

 女子大で教授をしている伯母は昔から穏やかでまったりした雰囲気だ。その伯母の前に座っているのは母だ。うちの母もタイプは同じ。川村家に生まれた母は筋金入りのお嬢様で、伯母とは女子高時代からの友人だ。

 その女性陣の向こう側では伯父と父がいつものように囲碁に興じている。顔を合わすと毎回こうで、よく飽きないなと思ってしまう。

 一局終わるまではそっとしておこう……

 盤面を難しい顔で眺めている二人を横目にそんなことを思った。

 お夕食はもちろん仁美さんが作ったものだ。私もいただくのは久しぶりで、その美味しさを噛み締めた。

 食事中に話すのは、だいたい近況から。とは言え、暗黙の了解で難しい仕事の話はNG。となると、途端に男性陣は話すことがなくなるようで、おしゃべりするのはもっぱら女性陣になってしまう。……いつもなら。

「そうそう。この春にね、朝木家のお嬢さんがうちの大学に入学したのよ。とても可愛らしいお嬢さんなのよ?」

 唐突に伯母の口から朝木の名が出て、食べ物を喉に詰まらせそうになった。

「あぁ、あの子もそんなに大きくなったのか」

 創にそっくりの顔で、感慨深そうに伯父は言う。私は会ったことはない一矢の妹さんを、伯父は知っているようだ。

「えぇ。入学式には一矢さんもいらして、楽しそうにされていましたよ」

 そこで唐突に一矢の名前が出て、私はピクリと箸を止めた。

 創の友人だから、伯母様も知ってるのか……

 動揺を隠しながら、素知らぬふりで私は黙々と箸を動かした。

「そう言えば、澪も一矢君は知っているんだな。どうだった、彼の仕事ぶりは?」

 まさか伯父からそんな振りがくると思わず、私は「は、はいっ!」と慌てて顔を上げた。
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