恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

文字の大きさ
38 / 76
8

1

 「はぁ? なんで俺が運転手なんだよ!」

 眠すぎて思い切り顔を顰めて鍵を差し出す俺に、颯太は不満気だ。

「居眠り運転で死にたくなければお前が運転しろ」

 それに「へいへい」と渋々鍵を受け取ると颯太は運転席に向かった。

「いち兄、大丈夫? 昨日は仕事……じゃなかったよね?」

 後部座席に乗る俺に、助手席から振り返りながら実樹は言う。

「ハメ外しすぎたんじゃね?」

 俺が答える前に、颯太は笑いながら口を挟む。

「うるせぇ。お前は黙って運転してろ」
「お~こわっ。じゃ、出発するぞ~」

 颯太は軽い調子で前を向くとハンドルを握った。

 今日は弟たちと久しぶりに実家に帰る。そのまま泊まり、こっちに戻るのは明日。休みの最終日だ。
 朝まで澪の家にいた俺は、眠気と戦いながら家に帰った。なんせ、次に澪と会えるのは早くて来週末だ。だから、まぁ……無理はさせた、と思う。俺が家を出るときも、澪はベッドの上で気怠そうに『いって……らっしゃい……』と言っていたくらいだから。

 俺だって、一晩に何回やったかわからねぇなんて、初めてだっつうの……

 目を瞑り、腕を組んで扉に凭れ掛かる。実家に着くころには眠気も収まっているだろう、と思っていたら、颯太が俺に話しかけてきた。

「なあ、兄貴~。彼女できただろ?」

 それにいち早く反応したのは実樹だ。

「そうなの? いち兄!」

 このまま大人しく寝させて貰えるわけねぇか、と俺は深く息を吐いた。

 無視しようと黙っていたが、颯太はそのまま調子よく喋りだす。

「だってさ、6月終わりは死にそうな顔してたのに、今はどう? 肌ツヤ良くなった上に週末は毎週外泊。これが女じゃなきゃ何だって言うのさ」
「そう言えばいち兄、最近機嫌良いよねぇ。それに休みには全然家に帰ってこないし」

 当事者を放置して会話する弟たちに、俺は目を瞑ったまま返す。

「だからなんだよ。別に今までだってそれくらいいただろうが」

 いくら澪に片想いをしたと言っても、好きな芸能人がいるからと言って交際相手がいないわけじゃないのと同じで、そういう相手はいた。ただ、そのが身近な存在になってからはそんな気は起こらなかったが。

「まぁね。いたね。兄貴があんまりにも放置するから俺に代わりをしろって言ってきた女とか」

 そんな話を振られ、そういやそんなヤツがいたなと不快になり眉がピクリと動く。

「けどさ、今度の相手は違うだろ? 兄貴のほうが入れ込んでんの丸わかり!」

 颯太は運転しながら笑っている。こっちは全く楽しくない。颯太がどこまで察しているのかはわからないが、黙っているほうが身のためだ。

「ふぅん。そうなんだ。よくわかるね、ふう兄は」

 そんなら俺と颯太には中身が全く似ていない実樹の、ふんわりとした声が聞こえてきた。

「俺の情報収集能力、舐めんなよ?」

 颯太は得意げにそんなことを言っている。
 確かに颯太は、会社でもそんな仕事をしていて、そういうことには長けていた。昔から颯太の周りには男女問わず人がいて、いつのまにか颯太の虜になるヤツは多い。まぁ、それが元で修羅場に発展することも多々ある。いつか殺傷沙汰になるんじゃねぇかと心配はするが今のところ大丈夫だ。と言っても、平手打ちをされたのは一度や二度じゃないが。

「兄貴~。寝てんのか~? せっかくとっておきの情報話そうと思ったのに~」

 俺がずっと黙りこくっているからか、不満そうに颯太が声を上げている。

「なになに? とっておきって?」

 実樹が興味津々で尋ね、颯太は「あぁ……」と溜めたあと続けた。

「俺さ、社長秘書と仲良いんだけどさ。って言ってもだいたい愚痴聞くだけだけど。この前言ってたんだよな、その人が。うちのお嬢が今度お見合いするって」
「はっ? なんだそれ! 俺は聞いてねぇ!」

 さすがに飛び起きて声を上げると、バッグミラー越しにニヤニヤした颯太と目があった。

「なんで兄貴が驚くのさ~。もうお嬢とは関係ねぇじゃん」

 コイツ……やっぱりわかって言ってんな……

 俺は起こした体をまたシートに沈めると「うるせぇな。続き話せよ」とぶっきらぼうに尋ねた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。 同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…? 不定期更新です。 こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【完結】曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! ✽全28話完結 ✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 ✽他誌にも掲載中です。 ✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。 →表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──