恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

文字の大きさ
43 / 76
9

1

 昨日遊びにきた水族館の隣にあるホテル。その1階のラウンジで、私は一人溜め息を吐いていた。

 やっぱり……、伯父様は違うって言ってたけど、これってお見合いなんじゃないの?

 今更、ここまで来てそんなことを思い窓の外の景色を眺めた。

 川村の家で渡されたのは、どう見てもお見合い写真と身上書だった。私は慌てて『お見合いなら会いません』と口にしていた。その理由を問われたら、はっきりと言えないのに。
 でも伯父は『お見合い、と言うわけじゃないんだが、先方がどうしても澪に会ってみたいと言ってきてね。私の顔を立てると思って一度会ってみてくれないか?』と、私に頼んできたのだ。
 日頃からお世話になっていた伯父の頼みを無碍に断ることもできず、私は仕方なく了承した。

 相手は国内有数のスポーツ用品メーカーの関係者。スポーツ選手なら知らない人はいないだろうし、私もたくさん商品は持っている。それに、ソレイユでもお世話になっていた。

 もしかしたら、本当に会って話をしてみたいだけ?

 そんなことをあれこれ考えていると、スタッフに連れられスーツ姿の男性がやってきた。

「お待たせして、申し訳ありません」

 そう言って笑みを浮かべるその人の顔を見て、私はあれ……? と思う。
 『どこかでお会いしたことありましたか?』と聞きそうになり口を噤んだあと、一呼吸置いて口を開いた。

「……いえ。初めまして。枚田です」

 とよそゆきの顔をして。

 すぐにスタッフがオーダーを聞きにきて、私は紅茶を頼む。

「何かお召し上がりになりますか?」

 目の前の人に丁寧に尋ねられ、私はかぶりを振って「先程昼食を取ったばかりなので……」と断りをいれた。
 飲み物だけのオーダーを確認し、恭しく頭を下げたスタッフが席を離れると、その人は私に向いた。

「改めまして。戸田匡樹です。本日はお会いできて光栄です」

 作り物のような笑顔で私に言うその人を見て、ようやく気づいた。

 戸田さんに……似てる

 そっくりとは言えないが、なんとなく醸し出す雰囲気は似ている。それに名前も似ている。もしかして、ご兄弟? とも思ったが、貰った身上書の家族には父母しか記載されていなかった。

 私が心許なげに笑みを浮かべていると、戸田さんは表情を緩めた。

「肩の力を抜いてください。僕は枚田選手のファンの一人なんです。今回は地位を利用してしまい、申しわけありません。一度お話ししてみたかったものですから」
「そう……ですか。ありがとうございます」

 これは本当の話だろうかと戸惑っている私に、戸田さんは続けた。

「実は今までも何度か試合は拝見していたんですよ? たとえば……」

 そう言って語り出した内容は、過去の試合の話。自分でも印象に残っていたリーグでの話は、見る人が多いだろうオリンピックとは違い、本当に見ていないとわからない内容だった。

「──そうなんです。あのとき萌が……。あ、えっと」

 口籠った私に、戸田さんは笑顔を浮かべて「松下選手、ですよね?」と助け船を出す。

「はい。あのとき萌が凄く冴えてて、少し難しいセットでも決めてくれると信じてて……」

 気がつけば、私はうまく乗せられていたようだ。最初は話を聞くだけだったのに、いつの間にか今度は自分ばかり話していた。それにハッとして、私は顔を上げた。

「すみません、熱くなっちゃって」

 居た堪れなくなり謝ると、戸田さんはニッコリ笑う。

「いえ。むしろ貴重なお話しが聞けて嬉しいですよ?」
「それならいいのですが……」

 こんなにバレーの話をするのは久しぶりだ。私だって、嫌になって辞めたわけじゃない。長年私の一部だったバレーの話をするのは楽しかった。

「そういえば、ソレイユではうちの商品も結構使っていただいてましたが、どうでしたか? 使い心地は」

 人当たりの良い笑顔で尋ねられ、少し考えてからまた話を始める。

 やっぱり……本当に話をしてみたかっただけ?

 最初こそ構えていた私は、いつの間にか昔から知っている人だったみたいにうち解けて、話しに花を咲かせていた。

「あぁ。もう、こんな時間か」

 話が途切れたところで戸田さんは腕時計を確認する。

「まだまだお話は尽きませんね。どうです? よかったら、ドライブでもしながらもう少しお話ししませんか?」

 戸田さんはそう言って微笑んだ。

感想 0

あなたにおすすめの小説

毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。 同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…? 不定期更新です。 こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【完結】曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! ✽全28話完結 ✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 ✽他誌にも掲載中です。 ✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。 →表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──