恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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「僕が……どんな気持ちで君たちのことを見守っていたのか、わかってもらえなかったのは残念だよ」

 心の底から落胆したように言うトレーナーに、戸田さんは唇を噛んでいる。
 本当に長い間、戸田さんは2人をどんな気持ちで見ていたのだろう? きっと、2人の恋がうまくいくことを願っていたはずだ。
 目の前で繰り広げられるやり取りに、そんなことを思う。

「私が……こんなことを言う筋合いは、ないのかも知れないんですけど……」

 私が切り出すと、トレーナーはこちらを向いた。

「言わずに後悔するなら、言って後悔するほうがスッキリすると思うんです」

 それに、ずっと俯いていた沙希さんが顔を上げた。そして、涙の跡が残るその顔を私に向けた。

「私も……結果的にはこうやって付き合えることになりました。けど、本当は言うつもりも、と言うより、もう二度と、会えないんだって勝手に思ってました」

 私が真っ直ぐ前を向いて語りかけると、隣から一矢の手がスッと伸びてきて、私の固く握った拳を包んでくれた。

「もし、今も会えないままだったら、私は今こうしてないと思います。ずっと家に引きこもって誰にも会わず、ネガティブなことばかり考えてたんだろうなって」

 想像するだけでゾッとしてしまう。でも、今はそうじゃない。重ねられた手の温もりと、穏やかに私を見ているその人が、私を変えてくれた。

 軽く息を吸うと、それを吐き出し私は続ける。

「沙希さん。何でこんなことになったのか、私にはわかりません。でも、これから先、自分の気持ちに嘘を付いて戸田さんのそばに秘書として立つ覚悟はあるんですか?」

 10年もの長い間、隠し通してきた気持ち。でも、もう知られてしまったのだ。それを今更、無かったことになんて出来るはずはない。

「覚悟なんて……ありません。私は……匡樹様のお側を……離れるつもりだったので」

 辿々しくそう沙希さんが言うと、戸田さんは立ち上がった。

「何勝手なこと言ってるんだ! そんなこと許さない!」

 声を荒げた戸田さんを、トレーナーが「匡樹。落ち着きなさい」と嗜める。戸田さんはイライラしたように頭を掻くと乱暴にまた座った。

「私の実家は……田舎の古い家です。周りはまだまだ古風な考えのものが多くいます。私はその中で、本家と言われる家の一人娘。父からは、今まで自由にさせてやったのだから、30になる前に帰って婿養子を取りなさい、と言われています」

 思いもしなかった答えに私は息を飲む。それはトレーナーも同じだったようで、驚いたように沙希さんを見つめていた。

「……ですので、私は匡樹様のお気持ちを受け取ることはできません」

 目の前に座る人が、自分に見えた。
 もし、父に同じことを言われたとき、私は一矢の隣に立っていられるだろうか……。

 急に怖くなり拳を握ると、それを掌に包み込んだまま、一矢が口火を切った。
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