恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 いつのまにかホテルの駐車場に停めてあった一矢の車に乗り込むと、私はまず深く息を吐いていた。

「なんか怒涛の展開すぎて……」

 精神的にはフルセットこなしたくらい疲れたかも知れない。助手席で、私は項垂れるように背中を丸めていた。
 戸田さんに会うためにこのホテルの近くて一矢と別れてから、まだ3時間ほどしか過ぎていない。けれど、真っ直ぐ家に帰りたいくらい疲労困憊だ。

「澪……。大丈夫か? その……今からが本番っつうか……」

 私を覗き込むように言う一矢は、なんだか決まり悪そうだ。

「えっと……。今から、どこ行くの?」

 あとで話すと言われて、まだ場所は聞いていない。そんな顔してまでいく場所に全く心当たりはない。

「その前に。確認しときたいことがある。澪。お前、俺と付き合ってるって、周りには言いたくないか?」

 不安気に尋ねられ、私は首を振る。

「ううん? その……。一矢のほうが仕事とかで困るかも知れないって思って……」

 立場的に、色々と噂されて困るのは一矢のほうだと思う。旭河の血縁である私が、その旭河の社員と付き合っている。それを面白く思わない人もいるかも知れないのだから。

「……悪かったな。余計な心配させて」

 少しだけホッとした顔をしたかと思うと、体を寄せて私を抱きしめた。

「俺は、誰に聞かれても、胸を張ってお前と付き合ってるって言いたいし、言って欲しい。だから……今から許可もらいに行こうと思って」

 耳元から聞こえるその声は、自分自身に言い聞かせているように聞こえる。私は左手で背中を摩ると尋ねた。

「許可って……誰に?」
「……枚田社長に……」

 何故か急に弱々しい声になると、一矢はそう言った。

 その言葉の意味を理解するのに十数秒かかったと思う。やっと理解した私は、「え! お父さん⁈」と声を上げていた。

「……そう。今日家にいるのは裏取れてる。っつうか、行くって連絡入れてある。また勝手なことしてって言うならまた日を改める……」

 急にしおらしくなった一矢は、らしくない弱気な発言をしている。私は励ますように背中を軽く叩いた。

「驚いたけど、いつかは言わなきゃと思ってたから気にしないで」
「……実は。むちゃくちゃ緊張してる。こんなことすんの初めてだし、相手はあの枚田社長だし」

 ゆっくり体を起こすと、一矢は殊勝な顔で言う。私はそれに笑って返す。

「心配しなくても、取って食ったりしないわよ。それに、私もついてるでしょ?」
「確かにそうだけどさ。ま、なるようになるか」

 顔を見合わせて、お互いくすりと笑う。かと思うと、その顔が近づいてきた。
 さっきまでの、なんか可愛いなぁと思う犬っぽい表情から、一転して色気のある表情に変わるのは反則だし心臓に悪い。

 何度もキスを繰り返され、無意識に腕にしがみつく。名残り惜しそうに唇が離れると、我に返ったように一矢が言った。

「やべっ。時間!」

 慌ててシートベルトをすると、一矢は車のエンジンをかける。

「ほら、お前もシートベルトしろよ?」

 シフトレバーを操作する一矢に、私はボーっとしたまま「はぁい」と返事をした。

「そんな顔すんなって。俺だって今すぐ家に帰りたいんだって。この続きはしばらくお預けだ」

 ハンドルを握る一矢に、そんなことを言われて顔から火が出そうだった。
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