53 / 76
10
2
「掛けたまえ。……澪も」
素っ気なくそう言うと、社長は先に応接セットに向かった。
「はっ、はいっ!」
澪のほうが慌てふためきながらメダルを外そうとしている。俺はそれを手伝い、決まりの悪そうな表情を浮かべる澪からメダルを受け取るとケースにしまった。
「……で? なんだね? 改まって」
向かいあって座ると、先に切り出したのは社長だ。
旭河の社長とはまるでタイプが違い、寡黙で妙に威圧感がある。こっちが創一の父親だと言われても信じてしまいそうだ。
さすが、旭河になんのコネもなく入社して、今じゃ本社を除けば一番力を持ってる会社の社長にまで登り詰めた人だよな……
張り詰めた空気の中、俺は思った。
「ご報告が……遅くなり申し訳ございません」
俺は、あえて報告という言葉を選んで話し出す。
「私、朝木と、澪さんは少し前から交際させていただいています」
真っ直ぐ社長に言う俺に対して、社長は余裕ありげにコーヒーカップを持ち上げていた。それを一口啜ると、「そうか」とだけ言ってそれをソーサーに戻した。
食器同士がカチャリとぶつかる音が静かな部屋に響くと、社長はこちらを見据えた。
「もういい大人同士の話だ。勝手にしなさい」
これと言った表情もなく、ただ淡々と社長は告げる。隣からは澪のホッとしたような「よかった……」と言う呟きが聞こえた。
しかしそれは束の間のことだった。社長が一息吐くと続けた言葉に、俺たちは凍りついた。
「ただし、私はこのままでは認めないがね」
やっぱり……そうきたか……
ある程度予想はしていた。すんなり認められることはないだろうと。だからはなから『認めてくれ』とは言わなかった。
「なっ……なんで? なんで認めてくれないの?」
澪が震えた声で社長に尋ねる。そんな澪を見て、社長は軽く息を吐いた。
「澪。足の調子はどうだ?」
「今、それは関係……」
「いいから答えなさい」
澪の言葉を遮り、社長はピシャリと言った。それにグッと言葉を飲み込むと、澪は口を開いた。
「日常生活を送るには問題ありません。選手としてはまだ難しいですが。けれど私はもう戻るつもりは……」
澪がそこまで言うと、社長の顔が少し険しくなった。
「では、この先君は、どう生きていくつもりだ? まさかこのまま家に篭ってばかりでいるつもりじゃないだろうね?」
「それは……」
一番痛いところを突かれ澪は唇を噛み締めて黙り込む。身内だからこその、遠慮のない厳しい言葉。もちろん社長も、澪がこのままずっとこんな生活を送るとは思っていないはずだ。
「澪。仕事を見つけなさい。ちゃんと君が続けられると思える仕事を。私は力を貸さないがね。その仕事が見つかったら、また2人で報告にきなさい」
そこまで言うと社長は立ち上がる。澪はそれを悲壮な顔で見上げていた。
「すまないがこれから所用があってね。これで失礼するよ」
そう言って背中を向ける社長を、俺は立ち上がって呼び止める。
「社長! ……私は、手伝ってもよろしいでしょうか」
立ち止まり少し振り向くと、社長は「あぁ。構わない」と答えた。
「わかりました。必ずご報告に参ります。そのときはよろしくお願いします」
深々と頭を下げていると、社長が静かに部屋から出て行った気配がした。
素っ気なくそう言うと、社長は先に応接セットに向かった。
「はっ、はいっ!」
澪のほうが慌てふためきながらメダルを外そうとしている。俺はそれを手伝い、決まりの悪そうな表情を浮かべる澪からメダルを受け取るとケースにしまった。
「……で? なんだね? 改まって」
向かいあって座ると、先に切り出したのは社長だ。
旭河の社長とはまるでタイプが違い、寡黙で妙に威圧感がある。こっちが創一の父親だと言われても信じてしまいそうだ。
さすが、旭河になんのコネもなく入社して、今じゃ本社を除けば一番力を持ってる会社の社長にまで登り詰めた人だよな……
張り詰めた空気の中、俺は思った。
「ご報告が……遅くなり申し訳ございません」
俺は、あえて報告という言葉を選んで話し出す。
「私、朝木と、澪さんは少し前から交際させていただいています」
真っ直ぐ社長に言う俺に対して、社長は余裕ありげにコーヒーカップを持ち上げていた。それを一口啜ると、「そうか」とだけ言ってそれをソーサーに戻した。
食器同士がカチャリとぶつかる音が静かな部屋に響くと、社長はこちらを見据えた。
「もういい大人同士の話だ。勝手にしなさい」
これと言った表情もなく、ただ淡々と社長は告げる。隣からは澪のホッとしたような「よかった……」と言う呟きが聞こえた。
しかしそれは束の間のことだった。社長が一息吐くと続けた言葉に、俺たちは凍りついた。
「ただし、私はこのままでは認めないがね」
やっぱり……そうきたか……
ある程度予想はしていた。すんなり認められることはないだろうと。だからはなから『認めてくれ』とは言わなかった。
「なっ……なんで? なんで認めてくれないの?」
澪が震えた声で社長に尋ねる。そんな澪を見て、社長は軽く息を吐いた。
「澪。足の調子はどうだ?」
「今、それは関係……」
「いいから答えなさい」
澪の言葉を遮り、社長はピシャリと言った。それにグッと言葉を飲み込むと、澪は口を開いた。
「日常生活を送るには問題ありません。選手としてはまだ難しいですが。けれど私はもう戻るつもりは……」
澪がそこまで言うと、社長の顔が少し険しくなった。
「では、この先君は、どう生きていくつもりだ? まさかこのまま家に篭ってばかりでいるつもりじゃないだろうね?」
「それは……」
一番痛いところを突かれ澪は唇を噛み締めて黙り込む。身内だからこその、遠慮のない厳しい言葉。もちろん社長も、澪がこのままずっとこんな生活を送るとは思っていないはずだ。
「澪。仕事を見つけなさい。ちゃんと君が続けられると思える仕事を。私は力を貸さないがね。その仕事が見つかったら、また2人で報告にきなさい」
そこまで言うと社長は立ち上がる。澪はそれを悲壮な顔で見上げていた。
「すまないがこれから所用があってね。これで失礼するよ」
そう言って背中を向ける社長を、俺は立ち上がって呼び止める。
「社長! ……私は、手伝ってもよろしいでしょうか」
立ち止まり少し振り向くと、社長は「あぁ。構わない」と答えた。
「わかりました。必ずご報告に参ります。そのときはよろしくお願いします」
深々と頭を下げていると、社長が静かに部屋から出て行った気配がした。
あなたにおすすめの小説
毎週金曜日、午後9時にホテルで
狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。
同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…?
不定期更新です。
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
【完結】曖昧な距離で愛している
山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──