恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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「颯太。澪になんか飲み物だしてくれ。俺はちょっと部屋戻ってくる」

 俺がそう言うと、颯太は素直に立ち上がり「りょーかーい」と気の抜けた返事をした。
 実樹も同じように立ち上がると、澪のそばに寄って、子犬が尻尾を振っているような笑顔を見せた。

「初めまして。朝木実樹です。いち兄がいつもお世話になっています」
「枚田澪です。こちらこそいつもお世話になっています」

 なんだかよくわからない挨拶をする2人に颯太が割って入ると、「お嬢、何飲む? ビール? チューハイ?」などと自分本位な質問をしていた。

「おい。お前ら、澪を困らせるなよ?」

 とりあえず釘を刺し、俺はリビングをあとにした。

 先に着替えを済ますと、ライティングテーブルに無造作に置いていた資料を集める。そのうち澪に見せようとプリントアウトしてあったものだ。
 まだ作りかけの資料もパソコンに入れっぱなしで、そのノートパソコンをたたむと資料と共に適当なバッグに放り込んだ。

 メシ、どうするかな……

 時間はもうすぐ19時。どっかで食べてから澪の家に行くか、と部屋の扉を開け廊下に出ると、またゲームを再開したのか絶叫が聞こえてきた。
 威勢のいい颯太の声と、必死な実樹。そしてそこに、澪の叫び声も混ざっていた。

「ほーら、お嬢、かかってこいよ!」
「あっ、澪さん、避けて避けて!」
「えっ、えっ? どうすればいいの⁈」

 リビングのソファでは、澪を真ん中にして、今度は得意げに相手のライフを削る颯太と、必死で澪に指示を送る実樹がいた。
 だが、さすがに超が付くほど初心者だろう澪が勝てるわけもなく、あっさりとKOされていた。

「よっしゃあ! 俺の勝ちぃ~」
「ちょっと、ズルいわよ! 私、初めてなのよ?」
「そうだよふう兄。大人げないよ」

 そんなやりとりを見ながら声を出して笑っていると、澪は不服そうな顔をして振り向いた。

「もうっ! 一矢もなんとか言って? 颯太、本当に酷いんだから!」
「お嬢が下手すぎんだよ」

 元々顔見知りだっただけあって、お互い遠慮はない。と言っても数回会っただけだと思うが。

「じゃあ、今度はいち兄が勝負してみたら? ちなみに、夜ご飯かかってるからね!」
「一矢もゲームするの? じゃあ、リベンジしてもらおっか」

 誰とでもすぐ打ち解ける実樹に、澪はもう実の弟のように接していた。

「しかたねえなぁ」

 ソファを周り、澪と颯太の間を開けさせてそこに座る。澪からコントローラーを受け取ると、「で? 勝敗は?」と尋ねた。

「10回勝負で、僕が8回勝ち。ふう兄3回」
「いや、さっきので4回だろ!」
「今のはノーカンよ!」

 実家で兄弟たちとゲームをしていたころを思い出し微笑ましくなる。早く下の妹や弟たちとも、澪と一緒にこんなふうに過ごせたらいいのに、なんて一人思っていた。
 
「とりあえず瞬殺するか。覚悟しろよ? 颯太」

 隣に向かってニヤリと笑うと、颯太は「ぜってー負けねぇ!」と返していた。

 またリビングに皆の叫び声と笑い声が響く。澪はさっきまでの不安を忘れたようにずっと笑っていた。

「くっっそっっ!! 兄貴の腕鈍ってると思ったのに!」

 予告通りに瞬殺、しかも2回連続で、された颯太は悔しそうに叫んでいた。

「ま、俺には勝利の女神がついてるからな?」

 余裕で返すと、颯太から『うわぁ……』と聞こえてきそうな白けた視線が飛んできた。
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