恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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番外編

観察日記 1

 俺は朝木颯太。大学4年生、21だ。6人兄弟の上から2番目。俺の上には2つ上の兄貴がいる。
 今日はその、兄貴の話をしようと思う。

 まず、兄貴はむちゃくちゃモテる。俺だって、モテないわけじゃない。と言うか、彼女に不自由したことはない。兄貴もそうだと思う。改まってそんな話しはしたことないから、俺の想像だけど。


「あっ、来た来た! 颯太~!」

 今日はゼミの飲み会。夏真っ盛りのビアガーデン。今日は一段と暑かったから、さぞかしビールが美味いだろう。
 めんどくさくて適当な時間にやって来たからか、もう結構出来上がっているやつもいる。そのうちの一人が俺の姿を見つけて手を振っていた。

「お待たせ~。何? 俺がいなくて寂しかった?」

 冗談めかして言いながら席に着くと、「なわけないじゃん!」と、ジョッキ片手の女子に背中を叩かれた。

「痛えな、酔っ払い」

 俺が顔を顰めていると、目の前に並々注がれたビールジョッキが現れた。

「まぁ飲みなよ~」

 別の女子に差し出され、「サンキュー」とそれを受け取る。

「じゃあ、颯太の第二希望の就職先内定を祝して乾杯~!」

 周りに座るやつからそんな声が上がると、一斉にジョッキが上がり、あちこちでぶつけあっている。

「いや……もう2ヶ月前に決まってんだけど?」

 呆れながらもジョッキを持ち上げると、一気にビールを流し込んだ。

「あ~! うめぇ! 最高!」

 半分くらいに減ったジョッキをテーブルにドンっと置くと俺はしみじみと言った。

「だよねぇ。夏はやっぱりビールでしょ!」

 周りの女子はそんなことを言いながら笑い合っている。

「にしてもさあ、颯太。やっぱダメだったんだ? 旭河」

 赤い顔をしてジョッキを持つ隣の女子は、俺に体を寄せながら尋ねる。

「あ~。知らなかった? にしても、俺の良さがわからないなんて。旭河も大きな人材を失ったっつーの」
「何言ってんのよ。旭河は安泰じゃん!」

 気がつけば女子に取り囲まれている俺に、反対側からそんな声が聞こえた。

「なんでだよ?」

 残りのビールをまた流し込みながら尋ねる。

「だって……」

「「一矢さんがいるじゃん!」」

 何人かでハモりながらそんなことを言われ、俺は空になったジョッキをまた勢いよくテーブルに置いた。

 兄貴は、俺と同じ大学で学部も一緒。2学年差だから、2年間同じだった。大学に入って思ったのは、兄貴は有名人だったってことだ。特に女子たちのあいだでは。

「いいな~。一矢さんいるなら私も旭河行けばよかったぁ」
「何言ってるのよ。行けるわけないじゃん」

 そんな会話を繰り広げる目の前の女子たち。こんなのは日常茶飯事だ。

「何でそんなに兄貴がいいんだよ。別に俺でもいいじゃん」

 テーブルに乗っていたフライドポテトをつまみながら言うと、残念なものを見るような目を向けられる。

「え~? 颯太はダメだよ~。二股も三股もかけるじゃん!」
「いや、かけてねぇし。だいたいあれも、別に付き合ってたつもりねぇから!」

 最近起こった修羅場を知っているコイツらは、一斉に非難するように俺をみる。

「だから、そう言うところでしょ! 気を持たせるようなことするからあんなことになるんじゃない」
「そうそう。それに、きっと一矢さんなら、一途に溺愛してくれそうじゃない?」
「わかる~!」

 マジでなんだよ、これ……

 俺は溜め息を吐きながら、誰かが持ってきてくれた二杯目のジョッキに口をつけた。

 そりゃあ、兄貴にだって付き合ってた相手くらいいる。ただし俺は知っている。すっげえ美女と付き合って、その後振られたのは、兄貴が超絶シスコンってバレたからだ。あと、社会人になってからの彼女は、仕事忙しくて放置してたらいつのまにか連絡こなくなったらしい。

 どーこが一途に溺愛だ。そんな相手がいるなら、こっちのほうが見てみてぇよ、と俺は思った。


「え~? 颯太、帰るの?」

 そんなことを言いながら、腕にしがみつく女子。すでにもう二次会も終わり、終電は近い。

「帰るっつーの!」
「まだいいじゃん。それとも私といいとこ行く?」

 ちょっとばかり目の据わった女子は俺を見上げてニッコリ笑う。

「行かねぇよ」

 呆れたように返す俺に、今度は周りにいた男から声が上がる。

「まぁた、颯太かよ。同じゼミ内で修羅場はごめんだぞ~」

 そう茶化してくるのは、俺が同じゼミ内の女には絶対に手を出さないのを知っているからだ。出してたら、マジで血を見ている気がする。

「とりあえず、俺は帰る。じゃ~な~!」

 掴まれていた腕をするりと抜くと、俺は駆け出し後ろ手に手を振った。
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