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あと少しで日付けも変わろうとしている8月終わりの夜。
少し外を歩いただけでじっとりと汗が滲むなか、手を繋いで澪の家に向かっていた。
「楽しかったぁ~!」
そう言いながら歩く澪の足取りはかなりフラフラしている。気がつけば相当飲んでいたようだ。
うちの冷蔵庫に入っているのはほぼ飲み物のうえ、その9割がアルコール。渋々颯太が取ったピザを肴に、またゲームをしながら4人で呑んだ。
さすがに今度は澪でもできそうなものに変え、ワーワー言いながら遊んでいたらこんな時間になっていた。
「大丈夫か? 転ぶなよ?」
「ん~?」
俺の手を引っ張るように歩く澪は、千鳥足のまま振り返った。その顔は、ほんのり紅く染まった頰を緩め、ニコニコと笑っていた。
ここまで酔っている澪を見るのは初めてかも知れない。温泉に行ったときもこんな感じだったが、あれはどちらかと言えば寝ぼけていた。だが、今日は完全に酔っ払いだ。
「着いたぞ。もうちょっとだけちゃんと歩いてくれよ?」
なんとか辿り着いたマンションのエントランスの自動扉に向かいながら言うと、澪は「歩いてるよぉ~」と間の抜けた返事をした。
マジで可愛い……。けどこれ、家に帰り着いたら速攻寝落ちか?
気を許した相手にしか見せないだろうその姿に、つい口元を緩めてしまう。しっかりした姉御肌に見えて、実は澪は甘えたがりなんだと思う。でもそれを知っているものは少ないはずだ。
ニヤニヤしたままエントランスを抜けエレベーターホールに進むと、ちょうど1基降りて来て、その扉の向こうから人影が現れた。
その相手は俺たちを見て、一瞬驚いたようだが、すぐにいつもの無表情に戻っていた。
「創っ!」
澪は手を離すとそのまま創一に抱きついた。
「はっ?」
いくら、なんとも思ってないただの従兄弟だと聞いていても、さすがにこれは面白くない。だが、面白くないのは創一も同じだったようだ。
「誰だ、澪にこんなに飲ませたのは」
眉間に皺を寄せた創一に、睨まれるように尋ねられ、「颯太」と答える。
「颯太に、今度会ったときは覚悟しておけと言っといてくれ」
ぶっきらぼうに言う創一に、澪は抱きついたまま話し出す。
「さっきね、一矢の家でゲームしてたの。楽しかったよ? 今度創も一緒にやろぉ?」
完全に酔っ払いと化した澪に、呆れたように息を吐くと、創一は澪の肩を持ち引き剥がした。
「抱きつくな」
「いいじゃなぁい。電信柱に抱きついてるみたいなものよぉ」
むちゃくちゃな言い分だが、さすがに俺は面白くないままで、澪の腕を引いて自分に引き寄せた。
「電信柱なら俺でもいいだろ」
おぼつかない足取りのまま引き寄せられた澪は、前を向いた状態で俺の腕に収められていた。
それを見た創一は、思い切り顔を顰めている。そう言えば、付き合っていると伝え忘れている気がしないでもない。
「澪。お前は酔うと面倒くさいんだから気をつけろ……」
「そんなことないもん!」
「今度からはあんま飲ませねぇよう気をつける」
澪の代わりに俺が言うと、「そうしてくれ」と創一は呆れたように言った。
「ねぇねぇ、創! 言ってなかったけど、一矢と付き合い始めたの。創も片想いの相手とうまくいくといいね!」
悪気なく言う澪に、創一は面食らったような表情になった。だがなぜか俺の顔を見て、今日一番の深い溜め息を吐いたと思うと「……そうだな」とだけ言い残し、エントランスから出て行った。
結局、伝えようとしていた話ができたのは、翌日夕方になってからだった。
「これが……仕事になる、の?」
紙の資料に目を通した澪は、そこに視線を落としたまま呟いた。
「ま、今やってることとそう変わらねぇし、そう思うのも無理はないだろうな。だからこそローモデルの資料を付けたんだ」
澪は何枚かの資料をめくり、熱心にそれを読んでいた。こんな顔を見ると、ソレイユで打ち合わせをしていたときを思い出す。
「で、ここからが俺からの提案」
澪がそれを読み終わるころ、俺は切り出す。澪は黙って顔をあげ、真剣な表情を見せた。
「まずは、トライアル期間。1か月間で採算が取れるか試して欲しい。顧客は、創一と俺。つうか、俺の家。弟たちの分も増えるから、今までより分量は増える」
俺の話を聞いて、澪はまた資料に目を落とした。
俺が澪に提案した仕事。それは、料理代行サービス。ネットの情報では忙しい共働きの家庭や高齢者だけの世帯にニーズがあるらしい。
「ただ、これからは商売として成り立つような価格設定と収支報告が必要だな。あと、契約書も」
「そこまで?」
「当たり前だ。じゃなきゃ枚田社長も納得しないだろ? あとは、他にも数人、顧客が欲しいがそれは追々だな」
俺が言うのを、澪は唖然としたような顔で眺めていた。
「何? なんか変だったか?」
訝しげに尋ねると、澪はおずおずと口を開いた。
「改めて思ったけど……。やっぱり一矢って仕事ができる男なんだなって」
「あのな……。これでも俺、若手で一番出世してんだけど?」
溜め息を吐きながら言うと、俺は続けた。
「社長令嬢の相手がただの平社員じゃ格好つかないだろ? 俺はもっと上目指すからな?」
そう言って俺は笑った。
少し外を歩いただけでじっとりと汗が滲むなか、手を繋いで澪の家に向かっていた。
「楽しかったぁ~!」
そう言いながら歩く澪の足取りはかなりフラフラしている。気がつけば相当飲んでいたようだ。
うちの冷蔵庫に入っているのはほぼ飲み物のうえ、その9割がアルコール。渋々颯太が取ったピザを肴に、またゲームをしながら4人で呑んだ。
さすがに今度は澪でもできそうなものに変え、ワーワー言いながら遊んでいたらこんな時間になっていた。
「大丈夫か? 転ぶなよ?」
「ん~?」
俺の手を引っ張るように歩く澪は、千鳥足のまま振り返った。その顔は、ほんのり紅く染まった頰を緩め、ニコニコと笑っていた。
ここまで酔っている澪を見るのは初めてかも知れない。温泉に行ったときもこんな感じだったが、あれはどちらかと言えば寝ぼけていた。だが、今日は完全に酔っ払いだ。
「着いたぞ。もうちょっとだけちゃんと歩いてくれよ?」
なんとか辿り着いたマンションのエントランスの自動扉に向かいながら言うと、澪は「歩いてるよぉ~」と間の抜けた返事をした。
マジで可愛い……。けどこれ、家に帰り着いたら速攻寝落ちか?
気を許した相手にしか見せないだろうその姿に、つい口元を緩めてしまう。しっかりした姉御肌に見えて、実は澪は甘えたがりなんだと思う。でもそれを知っているものは少ないはずだ。
ニヤニヤしたままエントランスを抜けエレベーターホールに進むと、ちょうど1基降りて来て、その扉の向こうから人影が現れた。
その相手は俺たちを見て、一瞬驚いたようだが、すぐにいつもの無表情に戻っていた。
「創っ!」
澪は手を離すとそのまま創一に抱きついた。
「はっ?」
いくら、なんとも思ってないただの従兄弟だと聞いていても、さすがにこれは面白くない。だが、面白くないのは創一も同じだったようだ。
「誰だ、澪にこんなに飲ませたのは」
眉間に皺を寄せた創一に、睨まれるように尋ねられ、「颯太」と答える。
「颯太に、今度会ったときは覚悟しておけと言っといてくれ」
ぶっきらぼうに言う創一に、澪は抱きついたまま話し出す。
「さっきね、一矢の家でゲームしてたの。楽しかったよ? 今度創も一緒にやろぉ?」
完全に酔っ払いと化した澪に、呆れたように息を吐くと、創一は澪の肩を持ち引き剥がした。
「抱きつくな」
「いいじゃなぁい。電信柱に抱きついてるみたいなものよぉ」
むちゃくちゃな言い分だが、さすがに俺は面白くないままで、澪の腕を引いて自分に引き寄せた。
「電信柱なら俺でもいいだろ」
おぼつかない足取りのまま引き寄せられた澪は、前を向いた状態で俺の腕に収められていた。
それを見た創一は、思い切り顔を顰めている。そう言えば、付き合っていると伝え忘れている気がしないでもない。
「澪。お前は酔うと面倒くさいんだから気をつけろ……」
「そんなことないもん!」
「今度からはあんま飲ませねぇよう気をつける」
澪の代わりに俺が言うと、「そうしてくれ」と創一は呆れたように言った。
「ねぇねぇ、創! 言ってなかったけど、一矢と付き合い始めたの。創も片想いの相手とうまくいくといいね!」
悪気なく言う澪に、創一は面食らったような表情になった。だがなぜか俺の顔を見て、今日一番の深い溜め息を吐いたと思うと「……そうだな」とだけ言い残し、エントランスから出て行った。
結局、伝えようとしていた話ができたのは、翌日夕方になってからだった。
「これが……仕事になる、の?」
紙の資料に目を通した澪は、そこに視線を落としたまま呟いた。
「ま、今やってることとそう変わらねぇし、そう思うのも無理はないだろうな。だからこそローモデルの資料を付けたんだ」
澪は何枚かの資料をめくり、熱心にそれを読んでいた。こんな顔を見ると、ソレイユで打ち合わせをしていたときを思い出す。
「で、ここからが俺からの提案」
澪がそれを読み終わるころ、俺は切り出す。澪は黙って顔をあげ、真剣な表情を見せた。
「まずは、トライアル期間。1か月間で採算が取れるか試して欲しい。顧客は、創一と俺。つうか、俺の家。弟たちの分も増えるから、今までより分量は増える」
俺の話を聞いて、澪はまた資料に目を落とした。
俺が澪に提案した仕事。それは、料理代行サービス。ネットの情報では忙しい共働きの家庭や高齢者だけの世帯にニーズがあるらしい。
「ただ、これからは商売として成り立つような価格設定と収支報告が必要だな。あと、契約書も」
「そこまで?」
「当たり前だ。じゃなきゃ枚田社長も納得しないだろ? あとは、他にも数人、顧客が欲しいがそれは追々だな」
俺が言うのを、澪は唖然としたような顔で眺めていた。
「何? なんか変だったか?」
訝しげに尋ねると、澪はおずおずと口を開いた。
「改めて思ったけど……。やっぱり一矢って仕事ができる男なんだなって」
「あのな……。これでも俺、若手で一番出世してんだけど?」
溜め息を吐きながら言うと、俺は続けた。
「社長令嬢の相手がただの平社員じゃ格好つかないだろ? 俺はもっと上目指すからな?」
そう言って俺は笑った。
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