恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 あれは今年の初め。俺は社長に内々に呼び出されていた。

「一矢君、君を部長にしようと思っているんだ」

 秘書すらいない2人きりの社長室。社長の顔は創一に似ているのに、醸し出す雰囲気はまるで違う。どちらかといえば柔和でとっつきやすいかも知れない。
 その社長が俺に笑顔で言ったとき、なんの冗談ですか、と聞き返しそうになった。昇進するなら次は課長代理。それでも俺の年齢では相当早いほうだ。

「仕事ぶりは逐一耳にしている。もちろん多方面からの情報だ。それで私の気持ちも固まった」

 唖然としている俺をそのままに、まるで世間話をするように社長は続けた。

「しかし、いくらなんでも部長とは。前例がありません」

 思わずそう返した俺に、社長は声を出して笑い出した。

「意外なことを言うな。仕事では前例を覆してばかりなのに」
「それは……そうですが」

 痛いところを突かれ思わず口籠る。俺はずっと、周りと同じことをしていても人並み以上の出世なんてできないと思っていた。だから最初こそ周りとぶつかることはあっても、根気強く根回しして新しい旭河を構築していこうと、それを目指してやってきた。

「それに……」

 社長は穏やかな表情で続けた。

「気持ちを固めたのは、部長にすることじゃない。それはすでにほかの役員に伝えてある」

 ただただ無言で社長の顔を眺めていると、社長はフッと息を漏らした。

「私の……あとに続いてくれないかい?」
 
 おそらく、相当間抜けな顔をしていただろう。社長はともかく、創一にすら笑われそうなくらいに。ようやく我にかえると、俺は社長に思いの丈をぶつけた。

「なっ、何言ってるんですか! 俺は将来トップに立つ創一の右腕になるつもりでっ!」
「まぁいいじゃないか。それが逆になっても。私は創業者朝木の人間だから言ってるんじゃない。君だからこんなことを言うんだよ。一矢君」
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