恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

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 ゲストからのフラワーシャワーで迎えられて降りた階段。下まで降り切る前に俺たちは止まった。
 スタッフに誘導されたゲスト、それもおそらく未婚女性たちは階段の先の広場に集まっていた。
 ほぼ知った顔。ソレイユで澪と戦った仲間たち。あとは、チームは違うが澪の学生時代の友人で、全日本で一緒にプレーしていた選手の顔もあった。

「澪ーっ! こっち、お願い!」
「澪さーん。こっちですよ! 頼みます!」

 ブーケを持ち替え下を見る澪にそんな声が飛ぶ。それを、試合中かよ、なんて笑いながら眺めていた。

「いい? 絶対そこから動かないのよ? ジャンプ禁止! もちろんアタックもね!」

 こっちも試合さながらに声を張ると、ゲストの顔を見渡した。

「じゃ、いくわよ?」

 澪はブーケを構える。ゲストも澪も、真剣勝負のような表情になると、風がピタリとおさまった。

 そして……。

「澪! 絶対狙ってたでしょ!」

 誰もが狙ってそこにブーケをトスしたことがわかったのだろう。受け取った相手をみな笑顔で取り囲んでいた。
 俺は澪の手を取りそこに向かうと、すっかり涙で濡れたその顔は笑顔を見せた。

「澪さぁん。嬉しいですっ!」
「もー! そんなに泣かないのよ? 次は萌が幸せになる番なんだからね?」

 狙い通りのトスを上げた澪は、満足そうに言う。澪が最後に上げた最高のトスを萌はちゃんと受け取っていた。

「はい。もちろんです。でも私、もう結婚しちゃったんで、申し訳ないと言うか……」

 一瞬、誰もが何を言われたか理解が追いつかず、その場は静まり返った。

「やだなぁ、萌ちゃん。バラしちゃった? あとで驚かそうと思ったのに」

 飄々と笑いながら登場した戸田さんに、ようやく周りから悲鳴のような声が上がった。

「えっ? 本当に? いつの間に……」

 澪は呆然と口を開けたまま尋ねている。と言うか、俺も同じ顔をしていた。

「ここに来る前に入籍してきたんだよね。だから式はこれから。良かったら来てね」

 ニッコリと笑う戸田さんに、一生この人には振り回されそうだよな、と溜め息で答えた。


 無事に披露宴も終わり、なんとなく色々と終わった気がするが、実際はここからだ。今はなんとか1セット目をもぎ取った。そんなところだ。これからもずっと続く人生に澪がいて、一緒に試合に臨み、そして点数を重ねて行くのだから。だが、このゲームに終わりはない。いったいどんな流れになるのか、楽しみではあった。

「さすがに結婚式のハシゴは疲れたね」

 式場近くのホテルの部屋。口ではそう言いながらも、澪はアルコールが入りフワフワした様子で楽しそうに笑った。

「ま、出発は明日の夜だし、それまではゆっくりできるな」
「だね。私たちだけ新婚旅行に行くの、なんか創と与織子ちゃんには申し訳ないけど」

 フォーマルスーツの上着を脱ぎソファの背にバサリとかけると、俺はそこに座る澪の横に腰掛けた。

「まぁ、しかたないだろ。俺は抜けてもなんとかなるが、あの2人が今職場抜けたら大惨事だろうしな」

 そうなのだ。俺たちは明日から1週間、新婚旅行に向かう。最初は俺もそんなに長く、と思ったが、『部長が旅行に行かなかったら、他の社員が誰も行けなくなる!』と周りの人間に叱られ、それもそうかと納得したのだ。
 だが、残念ながら色々あった創一と与織子の勤める会社は、今2人同時に抜けようものならたちまち回らなくなる。少し時期をずらして近場に旅行に行く、と与織子は楽しそうに話していた。

「お土産、いっぱい買ってこなきゃね!」

 あんなに笑わないと思っていた澪は、すっかり笑顔が普段の顔になった。
 俺はそんな澪を抱き寄せると、頰に唇を落とした。

「そんなことより。初めての夜を楽しまねぇ?」

 元から赤みのさしていた頰をより赤くした澪の顔を覗きこみ俺は言う。

「初めてって……。全然初めてじゃないじゃない」

 これから何をされるのか予想がつくのか、澪は瞳を揺らしながら俺を見ている。

「そんなことないけど? ……俺さ」
「何?」
「早く子ども欲しいなって、思ってんだけど……」

 澪は驚いたように目を開き、そしてそれを細めた。

「奇遇ね? 私も」

 そう言うと、スルリと俺の首に腕を回した。

「……よかった」

 小さく返すと、俺は澪の唇をゆっくり味わった。
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