偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月

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番外編: 煩悩の犬を飼い慣らす

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 そういえば大学生の頃、うちに友人たちが遊びに来たことがあった。もう成人していたからみんなそれぞれビールや酎ハイを持ち込み、つまみを広げてワイワイと騒ぐだけ。夜だったけど母は出かけていて、友人は遠慮することもなかった。
 そのうち一人が『いいもの手に入れたから見ようぜ~』なんて言い出し、勝手にDVDを操作し始めた。

 映画……かな?

 僕以外の三人はすでにほろ酔い。僕だけコーラをちびちび飲んでいるとそれは始まった。

 よそ見している間にタイトルが過ぎていて何かわからない。そのうち殺風景な部屋のソファに清楚な感じの女性が現れた。何か喋っているようだが友人たちがうるさくて聞こえない。

「ここはいいだろ、飛ばせ飛ばせ」

 なんて一人が言い出し、DVDを持ってきた友人がリモコンを操作している。少し進めると男が現れた。結構なイケメン。いったいこれはなんなんだと思って眺めていると、唐突にそれは始まった。

「……え?」

 凝視するほど約3分。握っていたはずの僕の手から持っていたコーラの缶が滑り落ち、派手な音を立てて床に転がった。そこから溢れた液体は、絨毯の上に褐色の水溜まりを作っている。

「うわっ! 冬弥何してんだよ~?」
「ご、ごめん。拭くもの取ってくる」

 慌てて立ち上がると雑巾を取りに洗面所に向かった。

 び……びっくりした……

 今頃になって顔が火照ってきて無意識に頰に手をやった。

 なんの前触れもなく始まったのはキスシーン。それはだんだん激しくなり、女性のブラウスに手が掛かったところで、固まったままの僕の手から缶が落ちたのだ。

 アダルト……ビデオってやつ、だよな?

 雑巾を手に戻りながら考える。見たのは初めてだ。存在は知っていたが、見ようと思ったこともないし、そんな機会もなかった。

 とりあえず平静を装いながら部屋に戻り、すっかり絨毯に染み込んだコーラを吹き始める。
 画面がチラッと目に入ると、ベッドに移動したのか、真っ白なシーツの上で早くも全裸になった男女が縺れあっていた。もちろん音量はそれなりで、初めて聞く女性の喘ぎ声にビクビクしてしまう。

 とりあえずあまり画面を見ないよう絨毯を叩いていると友人たちは話し出した。

「なぁ、これ。物足りなくねぇ?」
「だよな。つか、もしかして女性向けってやつじゃねえの?」

 アダルトビデオに女性向けなどというものがあること自体衝撃だ。僕は耳だけを友人たちに傾けた。

「実はさ~。彼女が、お前のHは猿だから、これ見てちょっとは勉強しろって押し付けられたんだよ」

 持って来た友人はそんなことを言っていた。

「まぁ、わかるけどさ。こんな紳士なHできねぇって。がっつくに決まってんだろ」
「マジでな!」

 違う友人たちが同意しつつそんなことを言っている。
 僕にはまったく未知の世界の話だ。

 とりあえず拭きおわり、仕方なくまた座り直す。僕の前にはテーブルに乗るスナック菓子に手を伸ばしつつ画面に向かう友人たちの後頭部が見える。
 そしてその向こう側の画面が目に入った。僕はただそれを喋ることなく眺めていた。時々友人たちの明け透けな会話を聞きながら。

「つうか、前戯長くねぇ? 一回いかせたんだからもう挿入いれていいじゃねぇ?」
「バカか。だから猿って言われるんだって。いかせてなんぼだろ」
「俺の彼女、なかなかさせてくれねぇ。痛いからヤダって」
「力強すぎだろ!」

 酒の入った男子大学生だけの会話などこんなものなのかも知れない。が、僕は何一つわからない。
 ただ一つわかったことは、女性には優しく丁寧に。それだけだった。
 と言っても、こんなことをする機会が僕に来るとは思えないけど……。
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