婚約破棄男の不倫相手が浪費家だったようで泣きつかれています。

羽音やすみ

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第十話 姑息な金貸し、勇敢な騎士

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「ぐっ……!」

膝から崩れ落ちるカティサーク。
私は目にナイフの突き刺さった山賊を振り払って、車内を漁る。

何かないのか。
このままではカティサークがやられる。
剣でも槍でも何でもいい。
カティサークを助けられるなら、何だっていい!

「これは……剣っ……!」

座席の後ろの荷室に、簡素な短刀を見つける。
恐らく、御者が護身用に積んでおいたものだろう。

しかし当の御者が荷室に隠れて震えているのだから、本末転倒だ。

「これ、借りますね!」

震える背中に一声かけて、剣を抱える。
馬車から飛び出して、カティサークに駆け寄る。
山賊頭は短刀を天高く掲げ、頭蓋に止めの一撃を加えようとしている。

「カティサークさん! これを!」

鞘に収まった剣を投げる。
傷ついた私の勇敢な騎士、白蟻に向かって。

「刃物を投げて寄越すとは、不躾な部下もあったものだな」
「女にしては見上げた気骨だが、時間切れだ」

不適に笑うカティサークに、山賊の凶刃が襲いかかる。
同時に、空を舞う剣を騎士が手にする。
凶刃は剣の鞘に受け止められた。

「何だと!?」
「いい位置だ、カトレア!」

仰天する山賊と、満足げな金貸し。
カティサークは金貸しにあるまじき熟練の手さばきで抜刀すると同時に、山賊の腹部に蹴りを入れる。

「ぐがっ!?」

たまらず吹き飛ぶ山賊に、容赦なく追撃を加える。
が、その動きはやや鈍い。
傷が深いせいだ。

「遅いッ!」

カティサークの一撃は剣で捌かれた。
もはや剣を握る力すら残っていないのか、剣はそのまま弾き飛ばされた。
しかし、どうやらそれは狙い通りだったようだ。

空手になったカティサークはスーツの胸ポケットから二本のナイフを取り出す。

「チェックメイトだ」
「なん……だとっ……!」

虚を突かれた山賊の両肩を一対のナイフが薙いだ。
山賊はたまらず倒れ込む。

頭を討ち取られた山賊達は立ちすくむ。
目の前の手負いの狼はあまりに凶暴。
手を出せば殺される。
そう感じているのが見て取れる。

「で、君達はどうする。今すぐ退けば、頭はまだ助かるぞ」

その言葉が決定的だった。
残党は負傷者と死傷者を馬に乗せ、足早に退散した。

「カティサークさん!」

私はカティサークに駆け寄る。
命がけで戦い血を流す、世界で一番勇敢な金貸しに。

「すまない、カトレア」
「どうして貴方が謝るんですか」

私の声は涙で滲む。
嗚咽も混じって、うまく喋れない。

「君を危険に巻き込んだ。事前に説明しておくべきだった、こういうことに巻き込まれることもあると」
「どうして、私を助けたんですか。あの時、私を無視していればこんな怪我しなくて済んだはずです」

涙ながらに、半ば責めるように問う。
するとカティサークは笑って応えた。

「言っただろう。君の隣にいられる限りは、私は姑息な金貸しから勇敢な騎士になると」
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