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この人しかいない。

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『ねぇ美紀ぃ。誰か気になる人いた?』

『うーん。今日も失敗かなぁ。あー肌が荒れてる。』

『やっぱり?だよねぇ!早々、良い男なんて現れないよねぇ。』

『ま、次に繋げるために、テキトーに相手して今日は、もう飲もう!』

『ちょっと美紀!アンタ、まつ毛取れそうよ!』

『え!?ホントに?ヤバイヤバイ!』

今日も、合コン…。最近、男を求めてこんなんばっか。親友も結婚したし、会社の同僚も次々と…。考えもしなかったなぁ。私が〝売れ残る〟なんて…。

季節は春よ!桜も満開!
私の春はどこに咲いてるのかしら?

お!今日は、当たりかも!同僚の友達って聞いてたから、期待してなかったけど結構カッコイイじゃん!

『へぇ~!タケルさん広告代理店で働いてるんだぁ!ってことはCM作ってるんでしょ?』

『まぁ一応ね。まだまだ全然だけど。この間やっと指揮を取らしてもらったんだ。』

『へぇ、凄いなぁ!やっぱりさぁ、フレーズとか映像とか考えるわけでしょう?私そういうモノを創れる人って尊敬しちゃう!』

『そう?そんな大したことないよ!美紀さんだって編集の仕事大変でしょう!俺、仕事柄、情報集めるのに雑誌よく見るから見てて思うもん。この編集した人、大変だったろうなぁって。』

『そんなぁ!ま大変なトコは、お互い様ですよね!』

『…あれぇ。なんか、ここの二人、早くも良い感じなんですけどぉ。』

『ちょ、ちょっと、そんなことないよぉ!』

『え?俺は、もう結構その気だけど。美紀さん、俺ダメ?』 

『うわ!タケルさん積極的~!』

『やったじゃん!美紀!』

もしかして、この人が運命の人かしら!すっごく良い人だし、顔もカッコイイし、何より尊敬出来る。今までには無かったよね。これを逃したら次は、もう、無いかも!

『でも意外だったなぁ!タケルさんからディズニーランド行こうなんて!そんなかわいい一面も持ってるんですね!』

『そう?いやぁ俺、昔から遊園地とか好きでさ!もう俺、今日、超テンション高いから!何で?美紀さんディズニー嫌いなの?』

『ううん!私もディズニー大好き!…ねぇタケルさん、腕組んでもいい?』

『え、もちろん!もちろん!おわ、何か俺達、端から見たら間違いなくカップルだよね?』

『嫌だもー!恥ずかしい!。』

絶対、この人だ!この人しかいないよ!三十路に乗る前に決めてやるぅ!

『お、美紀ー!聞いたよぉ!タケルと上手く言ってるらしいじゃん!』

『耕ちゃん!そーなのぉ!ホントに耕ちゃんのお陰よ!』

『だべ?あれ、そう言えば、まだ何もお礼してもらってないなぁ!あぁ最近、肉食ってないなぁ…。』

『分かった!分かった!好きなだけ焼肉おごってあげるから!』

『ホントに?よーし!今日は食いまくってやる!』

耕ちゃんは、同い年の同期入社でホントに良い奴で…。耕ちゃんの悪口言ってる人なんて聞いたことないし。タケルさんからも、良い話しか聞かない。でも、なぜか女の話を全然聞かないから不思議で。何で彼女が出来ないんだろう。

『ねぇ、タケルさん。耕ちゃんて何で彼女出来ないんだろう?』

『え?美紀、聞いてないの?じゃあ言わない方が良いのかなぁ。』

『なに?私、何も聞いてないよ?良いじゃん!教えてよ!』

『うーん。ま、いっか…。実はさ、あいつ大学の時に付き合ってた彼女が交通事故で死んじゃったんだ。』

『ホントに?』

『ああ。一年の頃からずーっと付き合ってて、周りの俺らが呆れるくらい仲が良くってさ、でも就職も決まって、最後の四年の夏休みに、まさかの事故でさ…。今でこそ、あれだけ明るくなってるけど、当時は大変だったんだ。いつ後追いするんじゃないかって、俺ら皆して毎日心配だったんだから。』

『そうだったの、そんな事が…。でも私、入社してから一度もそんな耕ちゃんの悲しげな姿見てないよ。』

『そこが、あいつの良い所なんだよ。会社じゃ表向きには明るく元気な耕一でいるんだよ。裏では一人の時には、結構辛い影を引きずってると思うんだ。』

『そっか。知らなかったなぁ。よしっ!じゃあ今度は、私が耕ちゃんのために一肌脱いでやろーじゃないか!』

『おいおい…、あんまそう気ぃ張るなよ!言っとくけど、俺達だって耕一のために随分頑張って来たんだから!女の子何人紹介したか!…でもダメだった。未だに、あのコが吹っ切れないんだよ。』

『そんなこと言ったって、もう何年?七、八年経ってんでしょ?もう、いー加減忘れなきゃ!あ!来月、確か耕ちゃん誕生日でしょう。もう三十路の大台に乗るのよ!良いキッカケだわ!私が全力をもって彼女を作ってあげるわ!』

『あんま無茶苦茶すんなよ。』

『大丈夫!任せてよ!』

過去をいつまでも引きずるのは、良くないって誰かが言ってた。前に進めないでずっと立ち止まってるなんて、そんなの絶対ダメ!

『耕ちゃん!今度は、私が耕ちゃんに、カワイイ子紹介してあげるよ!』 

『え?マジで?やった!頼むよぉ!ちょー期待してるから!』

『う、うん…。ま、任せてよ!』

あれ…?何で?全然乗り気だよ?なんか予想と違う。別にいーよぉって、突き返されると思ってたのに…。

ーーー。

『すいません!お待たせしました!』

『お、来た!来た!』

『どう?耕ちゃん?あなたには勿体ないくらいカワイイっしょ?』

『いやー、びっくりしたぁ!美紀の事だから、テキトーに誰か連れて来るのかと思ってたけど。めちゃめちゃ、カワイイじゃん!』

『でしょ!?愛っていうの!』

『え…?』

『愛です!初めまして!』

『…。』

『…ちょっと、どうしたの?耕ちゃん!』

『え?…あ、ごめん、ごめん!何でもないんだ。初めまして!愛ちゃんかぁ、よろしくね!』

ーーー。

『どうだった?耕一は?』

『うーん。』

『なに?上手くいかなかったの?その子めっちゃカワイくて、良い子なんだろ?』

『それがね、耕ちゃんあんま楽しそうに思えなかったの。一応ね、今度二人でデートする事には、なったんだけど…。何か引っ掛かるのよねぇ。愛がなんか変な事言ったのかなぁ。』

『え…?今何て言った?もしかして、愛って言うの?そのコ!』

『そうだけど。何かおかしい?』

『うわー、そりゃ痛いなぁ。』

『何でよぉ!?』 

『いや、耕一のその死んだ元カノ…。愛っていうんだ。』

『え?ホントに!?あちゃー、私やらかしちゃったかなぁ。』

『うーん。どんなに良い子でも名前が一緒ってマズイだろ!嫌でも思い出しちまう。』

『うわー、どうしよう。』

『…でも、今度デートすることになってんだろ?とりあえず、見守ってみたら?』 

『うーん…。』

愛は、ちょっと前に、たまたま飲み会で知り合った凄いカワイくて性格も良くって年下だけど私なんかより、よっぽどデキル子…。でも、なぜか一人。耕ちゃんと同じように長いこと彼氏がいない。だからこそ打ってつけだと思った。二人共、幸せになって欲しかった。デート上手くいかないかな。

ところが、予想だにしなかった事態ー。

『ちょっと耕ちゃん!何やってんの!今、愛から連絡来たよ!デートすっぽかして何やってんの?愛もう二時間も待ってんのよ!』

『…ゴメン。俺やっぱ行けないわ。美紀から謝っといてよ!』

『何言ってんの!?今更!そんなの許さないわよ!今からでも、とにかく来て!私も行くから!分かった?でないと耕ちゃん家まで押しかけるからね!』

『分かったよ…。』

(ドンドンドンドン!)

『ちょっと耕ちゃん!どういうつもり!?結局来ないなんて!耕ちゃん!いるんでしょ!?』

(ガチャ。)

『…ごめん。』

『私は、いーから愛に謝んなよ!ずーっと待ってたのよ!』

『ごめんね。愛ちゃん…。』

『いえ、私は別に大丈夫ですから。』

『とりあえず、さ上がって上がって!何もないけど。』

『お前が言うなよ。』

『はいはい、いーから、いーから!んじゃ、愛そこ座って!耕ちゃんそこ!私ここ!』

『だから、お前が決めんなよ!』

『はいはい、分かったから!じゃあ話してもらおうか!?何で来なかったのか!』

『…分かったよ。まだ美紀には言った事なかったけど俺、実はさ、昔付き合ってた彼女が…。』

『死んだんでしょ?だから何!?』

『え!?お前なんでそれ…!あ!そうか、タケルか…。』

『耕ちゃん!もう、いーじゃない!十分、苦しんだでしょう?寂しかったでしょう?早く吹っ切ろうよ!』

『美紀…。分かってる。俺だって分かってんだよ!そんなこと!タケル達もそうだけど、あの一件以来、みんな俺に気ぃ遣って女の子紹介してくれたり、合コン、セッティングしてくれたり、してくれたさ!だから、その為にも優しいみんなの為にも、早く吹っ切らなきゃって、次の子見つけなきゃって…。ノリノリでテンション上げて頑張って意気込むんだけど、やっぱりダメなんだよ。俺には愛しかいないんだよ!どうしても愛の顔が出て来ちゃうんだよ!』

『耕ちゃん…。』

『今回だって、そうだ!特に今回は俺も、もうすぐ三十路だし、今まで以上に意気込んで行ったさ!そしたら、ホントに俺なんかには、勿体ないくらい、めちゃめちゃ良い子が来た!でも、まさか同じ…。』

『名前だから何なの?!耕ちゃん!同じ愛でも全くの別人よ!亡くなった愛さんには愛さんだけの良いトコがあるし、この愛には全く違った良いトコがあるの!名前は名前よ!その人の全てじゃないわ!』

『…そうですよ。耕一さん。』

『愛…。』 

『黙ってたんですが、実は、私も元カレを亡くしてるんです…。』

『え…?』

『ホントに?私も知らなかった。』

『黙ってて、ごめんなさい。私も五年前、彼を交通事故で亡くしたんです。私も一緒に乗ってて、ドライブ中だったんです。そしたら急に対向車線から車が、はみ出して来て…。彼は私をかばって死んでいました。気付いたら動かなくなってた彼が私を包み込むように目の前に居ました…。私もそれ以来、彼が忘れられなくて苦しんでたんです。耕一さんと同じように、私の友達もいっぱい気遣かってくれました。だから、私もそれに応えようと頑張ってるんですが、やっぱり上手くいかないみたいで…。ホントに耕一さんと同じ境遇なんです。』

『そうだったの…。ごめんね!なんか私、強引にくっつけようとしてたから。』

『いや、良いんです!むしろ感謝してるんです!強引くらいじゃないと私達みたいな人間は、次に進めないですから。それに最初、美紀さんに耕一さんの事、聞いた時はチャンスだと思ったんです。全く同じ境遇の人が近くにいたなんてって…。同じ気持ちが分かる人がいるなんて絶対その人、逃しちゃダメだって。実は私も凄い意気込んでたんです。』

『愛ちゃん…。』

『だから耕一さん!私達、一緒に頑張りませんか?一緒に前へ進みませんか?私達だったら上手く支え合って歩く事が出来ると思うんです。』

『耕ちゃん!愛にこんだけ言わせといて嫌だとは言わせないわよ!』

『…。』

『耕ちゃん!』

『愛ちゃん、ありがとう…。二人で頑張って強く生きて行こう。』

『はい!よろしくお願いします。』

『いやー良かった!良かった!耕ちゃん!これで愛を泣かせるような事したら、私マジで許さないからね!』

『分かってるよ!怖ぁ!愛ちゃん!強くなるのは良いけど、こうはならないでね!』

『は?なんか言った?愛もねぇ意外に私に似てるかもよ!見つけた男を逃がさないっていう精神は私と一緒だもの!』 

『え、マジで!?』 

『あははは!美紀さんてば!あ!そうだ!もう一つ言い忘れてた事がありました!』

『え?なに…? 』

『私の元カレも、耕一って言うんです。』

『マ、マジで?』

『はい!だから、この人しかいないって…!』

                                    ー完ー
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