どろぼうさん

杉本けんいちろう

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どろぼうさん

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どろぼうさん、どろぼうさん。今日も、また、私のものを盗って行きましたね。

どうして?どうして、そんな事するの?私の事が嫌いだから?私を困らせたいの?

今日は、私の目を盗って行きました。もうこれで、私は、何も見えません。どうして?どうして、そんな事するの?

今日は、私の手を盗って行きました。もうこれで、私は、何も触れません。どうして?どうして、そんな事するの?

今日は、私の体温を盗って行きました。もうこれで、私は、凍えてしまいます。どうして?どうして、そんな事するの?

ねぇ、どろぼうさん。私は、あなたに盗られてばかりで、その内、私は、失くなってしまいます。それでも、まだ、盗って行くの?そんな事して、一体何になるの?

今日は、私の頭の中まで盗って行きました。もう、これで、私は、何も考えられません。どうして?どうして、そんな事するの?

今日は、ついに私の心まで盗って行きました。もう、これで、私は、何も想う事が出来ません。どうして?どうして、そんな事するの?

もう、私には、何も分かりません…。

『はるちゃん、どうしたの?何か元気ないね?』

『だいちゃん…。私もね、よく分からないんだけど、色んな所が失くなって行くの。だからかな…。』

『大丈夫?色んな所って、どこ?失くなって行くってどういう事?』

『もう、私には、心も頭の中も体温も手も目も無いの、みんな、盗られちゃったの。』

『盗られちゃったって、一体、誰に?』

『どろぼうさん。』

『どろぼうさん?』

『そう。どろぼうさんに、みんな盗られちゃった。だから、私は、もう…。』

『じゃあ、僕が、心を分けてあげるよ。頭の中も、体温も、手も、目も。そうすれば、また元気になるよね?僕は、いつも元気で明るい、はるちゃんが好きなんだ。』

『だいちゃん…。ありがとう。だいちゃんの心は、優しいね。頭の中は、私の事でいっぱいだ。体温は、あったかいね。手は、大きいな。目は…。目は、私の事しか見えてないね。』

『あははは。そうなんだ。実は、僕も、この前、どろぼうさんに盗られたんだ。だから、僕の目は、もう、はるちゃんしか見えないし、手は、はるちゃんとしか繋がないし、はるちゃんの体温を感じれるから嬉しいし、頭の中は、はるちゃんでいっぱいだし、心は、完全にはるちゃんに奪われちゃったよ。』

どろぼうさん、どろぼうさん。今日も、また、私のものを盗って行きましたね。

どうして?どうして、そんな事するの?私の事が嫌いだから?私を困らせたいの?

違うよね…?

『どろぼうさんは、だいちゃんだったんだね。』

『僕のどろぼうさんは、はるちゃんだったよ。』

『私も、知らないうちに、どろぼうさんだったんだ…。あはは。盗ったもの、返して欲しい?』

『うーうん。もういらない。はるちゃんは?』

『私も、いらない。だいちゃん、手つないで。』

『あったかいね。』

『あ!やっぱり、だいちゃんの目の中には、私しか映ってないね。』

『だって、頭の中にも、はるちゃんしか いないもん。』

『私たち、二人とも、どろぼうさんだったんだね。お互いの心を盗っちゃった…。』


                                  ー完ー
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