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ー最終章ー
≪責任≫
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千夏は、俺の目を見て言った。それでも、俺を信じていたとばかりに、潤んだ瞳で俺を見て言った。千夏との最後の会話。俺は、それが俺の全てを物語っている。そう感じた…。
世間は、新生活に慌しくも、どこか希望に揺れる春。俺は、千夏との別れを選んだ。街でナンパした女の子をホテルに誘い、それを意図的に千夏にバラし、千夏の心を引き裂いた。
もう、31歳?いや、まだ、31歳。俺は、男だ。残りの人生、誰か一人の女と一生を添い遂げよう。まだ、そんな気には、なれない。清彦には、さっさと結婚して、子供作って、若い父ちゃんでいたい。そう言っている。でも、本音を言えば、まだ自由でいたい。誰にも干渉されずに、好きな事を好きなだけやっていたい。だから、家庭を築くなんて、そんな責任めいた事、出来るはずがない。俺は、優里ちゃんが、あの時、言っていた言葉が、未だに心に響いてるんだ…。
『…拓くんは、上手いの?』
『え?何が?』
『何がって、エッチが…。』
『そーねぇ…。まぁ、一応それなりに経験値はあるから、下手なつもりはないかな。』
『そうなんだ。じゃあ、イカせられる?私、イッてみたいの。』
『優里ちゃん、ホントに、ちょっと前まで、頑なにロストバージンを拒んでた子だとは思えないね。たった一回のセックスで、そこまで変わるんだね。人って分からないもんだ。』
『うん、それに関しては、私自身もびっくりだもん。こんなにも興味が湧くなんて思わなかったよ。』
『あの頃の清彦が、何か可哀想だわ。あいつが、どんだけ辛い思いをしてたか、知らないでしょ?たった数ヶ月先に、こんなにも別人的発想になってるなんて、思いもしないだろうね。』
『でも、私だって、なりたくて、こうなった訳じゃないもん。事故なんだから、仕方ないの。ってか、そんな事より、早くしようよ!』
『分かったよ。とりあえず、俺、先に風呂入りたいんだよね。』
『えー、じゃあ、私も一緒に入る。』
『マジ?別に、良いけどさ…。』
『けど?何?』
『優里ちゃん、清彦と一緒に入った事あんの?』
『無いよ?何で?』
『無いの?それこそ何で?』
『だって、裸見たら、さすがのキーちゃんだって抑えられなくなると思って。それは、可哀想かなって。だから、ホントにチューまでしかしてないの。』
『そ、そうなんだ。でも、お風呂、電気付いてるよ?明るいよ?良いの?』
『うん、別に大丈夫。私、実は、裸見られる事に対して、そこまで抵抗ないみたい。』
『そ、そうなのね…。ホント怖いわぁ、女って…。とりあえず、先に、心の中で清彦に謝っとく。』
『私も、謝っとく。ゴメンね、キーちゃん…。』
『お、もう良い感じ!さすが、ホテルのお湯は、溜まるのが早い!』
『ホントだ!ってか、私、初ラブホだからね。良い思い出で終わらせてね。はい!拓くんも、脱いで!脱いで!』
『早いな!何の躊躇いも無し!?俺より先に脱ぐかね。』
『熱ッ!ちょっと、熱いよ!拓くーん!』
『俺、熱いのが好きなんだよね。』
『にしたって、これは熱すぎでしょ!?あー、この辺は、やっぱり、キーちゃんとは違うなぁ。まだ、私の事、分かってない。』
『そら、知らんがな!聞いてねーし!』
『拓くーん、じゃあ、聞こうよ。そこよ!そこ!拓くん、イマイチ優しさに欠けるんだなぁ。キーちゃんは、ちゃんと聞いてくれたよ?』
『へいへい。えろーすんまへんのう。気がきかない男で。はい!もう、早く入ろ入ろ!』
『もう!あ、私こっちが良い!ふーっ…。拓くんて、部屋も汚いんでしょ?一人じゃ生きて行けないね。でも、その辺が母性本能をくすぐるのかなぁ。』
『だね!それが、俺の売りだから!一人じゃ何も出来ないダメ男くん。母性をくすぐられる女の子を幾らでもお待ちしております。』
『幾らでもって!あら?拓くんて、もしかして大分、遊び人なの?キーちゃん、そんな事、一言も言ってなかったけど。』
『清彦は、知らないかもな。何て言うか、清彦は、真面目だからさ、ある程度、清彦に合わせてたとこはある。あんま、女にダラシないとこ見せたら、あいつ怒りそうなんだもん。だから、清彦の知らない所で、コソコソとね。』
『そうなんだ。何か、キーちゃんには言えない事を今日で一気に抱え込んじゃったな。』
『もう遅いよ。優里ちゃんが自分で蒔いた種だよ。自分の責任ね。』
『ね。ま、もう今更だよね。よし!そろそろ出よっか!』
『え?まだ、体洗ってないんですけど…。』
『はいはい。もう、洗ってあげるから!おいで!拓ちゃん!』
『わ!ホント?じゃ、お言葉に甘えて!』
『拓ちゃん、どっか痒いとこある?』
『うーん、もうちょい右のねぇ…、あーそこそこ!』
『拓くんて、甘え上手だよね。何か、悔しいけど、母性本能をくすぐられる感じが分かっちゃった。』
『でしょう?その内、病み付きになるよ!』
『冗談に聞こえないから怖いよね…。』
『うん。冗談じゃないからね!あははは!』
『拓くんには、まだ、"責任"なんて言葉は早いね。でも良いと思う。拓くんは、まだ、このままで…。』
優里ちゃんからの言葉は、正直、刺さった。分かっちゃいたけど、本当に、そうなんだと思うと自分の、お子ちゃまっぷりに、頼り無さに、さすがに愕然とする。責任なんて言葉は、確かに大嫌いだ。責任ある行動なんて、そんな大人めいた事、まだ、知らなくて良い。
俺は、まだ、31歳…。
『…ったく、31にもなって、何やってる訳?いつまで、こんな事やってんのよ!良い加減、大人になんなさいよ!』
千夏には、そんな俺が、激昂させたみたいだ。
『うるせーなぁ。そんなに言う?』
『言うわよ!どんだけ、私を裏切れば気が済むのよ!バカにするのも良い加減にして!』
『別に、バカにしてる訳じゃ、ね…。』
『バカにされてるとしか思えないわよ!何なの!?ホントに何なの!?拓は、私とやり直したいんじゃなかったの!?優里と清彦くんみたいに結婚するんじゃなかったの!?』
『いや、そんな事、一言も言ってねぇし!勝手に千夏が、そう思い込んでただけだろ?』
『何よそれ!?だったら、何で謝んのよ!やり直したいって思いがあるから謝るんじゃないの!?やり直す気もないのに、謝らないでよ!あの時、そのまま終わりにしてくれれば良かったじゃない!無駄に喜ばせないでよ!』
『千夏…。』
『私は、まだ戻って来てきたいんだって、私と、やり直したいんだって、凄い嬉しかったのに。私は、拓が、まだ好きなのに…。』
『千夏…。いや、でも俺は…。』
『分かった。もう、良いよ。何か一気にバカバカしくなった。』
『千夏…。』
『終わりだね、私たち。でも、何か拓のクソガキっぷりに幻滅したって言うより、私の寛容の足りなさに気付いた事がショックだったな…。私も、自分で思ってた以上に、器は小さかったんだなって…。』
『千夏、ゴメンな…。』
『だから、謝らないでって言ってるでしょ!?謝るんだったら、戻って来て!まあ、もう遅いけど!』
『千夏、正直に言う。俺は、まだ色んな子と遊びたい。だから、誰か一人の為に責任は取れない。ゴメンな…。』
『だから、謝らないでよ!もう…。分かったから…。どっか行っちゃってよ…。この無責任男!ウゥッ…。』
『千夏…。』
千夏は、俺の目を見て言った。それでも、俺を信じていたとばかりに、潤んだ瞳で俺を見て言った。千夏との最後の会話。俺は、それが俺の全てを物語っている。そう感じた…。
夏ー。
その知らせが届いたのは、茹だるようにクソ暑い8月の事だった。
『ついに、清彦も父親かぁ…。何か感慨深いわ』
『お前が、よく言えるな!だから!』
優里ちゃんが、妊娠したんだ。清彦が父親になるんだ。結婚したんだから、そうなるのが必然だと分かってはいたけど、いざ、現実になろうとしてる今に実感も無く、どこか絵空事に思えた。
『優里ちゃん、大丈夫?』
『え…?何が?』
『だから、母親になる覚悟出来てる?』
『うん…。大丈夫…。だと思う…。』
『そんな分かりやすい、自信の無さある?全然、覚悟出来てないじゃん。ホント、大丈夫?もう、だって3ヶ月過ぎたべ?もう堕ろせないべ?』
『堕ろさないわよ!誰かさんと違って、そんな無責任な事しません!キーちゃんの子だもん!堕ろす訳ないでしょ!』
『でも、じゃあ、その自信の無さは何?もう、ホントに遊べなくなるって思ってるからだべ?』
『もう!シッ!キーちゃんに聞こえたら、どうするのよ!』
『そんなに慌てるって事は、図星なんだ…。優里ちゃんも、なんだかんだで俺と変わんないなぁ。』
『拓くんとは、一緒にしないで!拓くんよりは、マシです!』
『そんな事もないんじゃない?大して変わらないよ。俺と。妊娠が分かった時、ホントに心の底から嬉しかった?』
『うん!嬉しかった!』
『ホントに?1mmの戸惑いも無かった?』
『う…。もう、ズルいよ、拓くん。』
『やっぱり!まだ、早いって思ったべ?あわよくば、もう一人くらい誰か、他の男とどうにか出来ないかなって、考えてたのにって?』
『もう!だから、そんな大きな声で言わないでよ!分かってるから!もう、認めます!その通りです!だから、もう言わないで!』
『あははは。でも、別に良いんじゃない?そんなもんだよ、みんな。別に、そんなの異彩じゃないよ。フツーだよ。』
『拓くん…。』
親になる責任はね、重いと思う。相当の覚悟とお金が必要だし。俺には、まだまだ見えない遠い未来。でも、親だって、所詮、人間だからね。
誘惑には、揺れるよね…。
『…誰だって、スキがあるんだよ。完璧な人間なんていないんだから。』
『そうですかね…。』
『ま、そんなに緊張?心配しなくても大丈夫だよ。優里ちゃん?だっけ?』
『あ、はい。』
『拓からの紹介で、色々、聞いてるけど、結構たくさんいるから、優里ちゃんみたいな子。』
『そうなんですか?』
『みんなさ、なんだかんだ言って、"あわよくば"を常に狙ってるんだよ。誰だって刺激が欲しいんだ。平穏なんて、つまんないだけじゃん。だから、何も心配しないで大丈夫だよ。旦那さんにもバレる事はないから。俺は、そういう子ばっかり相手にしてるからね。』
『分かりました。じゃあ、お願いします。』
俺は、優里ちゃんに、他の男を紹介した。普段から浮気相手ばっかりしてる、知り合いの小慣れた男を。このまま、不完全燃焼なまま、母親になる前に、少しでも、モヤモヤをスッキリした方が絶対に良い!そう思ったんだ。
『…優里ちゃん、感じやすいんだね。』
『はい…!』
『今だけは、全てを忘れて良いんだよ。何の責任もない、自由な一人の女の子だよ。』
『はい…!あっ!』
みんな、そうさ。誰だって、そうなんだよ。欲求が無い奴なんていないし、快楽だって欲しいんだ。少しも可笑しい事じゃない。だから、良いじゃん。無理に押し殺さなくても。自由に生きようよ。少なくとも俺は、そう生きる。
それから、7ヶ月ー。
優里ちゃんは、元気な男の子の母親になった。清彦と二人で、それは嬉しそうに笑ってた…。
ー完ー
世間は、新生活に慌しくも、どこか希望に揺れる春。俺は、千夏との別れを選んだ。街でナンパした女の子をホテルに誘い、それを意図的に千夏にバラし、千夏の心を引き裂いた。
もう、31歳?いや、まだ、31歳。俺は、男だ。残りの人生、誰か一人の女と一生を添い遂げよう。まだ、そんな気には、なれない。清彦には、さっさと結婚して、子供作って、若い父ちゃんでいたい。そう言っている。でも、本音を言えば、まだ自由でいたい。誰にも干渉されずに、好きな事を好きなだけやっていたい。だから、家庭を築くなんて、そんな責任めいた事、出来るはずがない。俺は、優里ちゃんが、あの時、言っていた言葉が、未だに心に響いてるんだ…。
『…拓くんは、上手いの?』
『え?何が?』
『何がって、エッチが…。』
『そーねぇ…。まぁ、一応それなりに経験値はあるから、下手なつもりはないかな。』
『そうなんだ。じゃあ、イカせられる?私、イッてみたいの。』
『優里ちゃん、ホントに、ちょっと前まで、頑なにロストバージンを拒んでた子だとは思えないね。たった一回のセックスで、そこまで変わるんだね。人って分からないもんだ。』
『うん、それに関しては、私自身もびっくりだもん。こんなにも興味が湧くなんて思わなかったよ。』
『あの頃の清彦が、何か可哀想だわ。あいつが、どんだけ辛い思いをしてたか、知らないでしょ?たった数ヶ月先に、こんなにも別人的発想になってるなんて、思いもしないだろうね。』
『でも、私だって、なりたくて、こうなった訳じゃないもん。事故なんだから、仕方ないの。ってか、そんな事より、早くしようよ!』
『分かったよ。とりあえず、俺、先に風呂入りたいんだよね。』
『えー、じゃあ、私も一緒に入る。』
『マジ?別に、良いけどさ…。』
『けど?何?』
『優里ちゃん、清彦と一緒に入った事あんの?』
『無いよ?何で?』
『無いの?それこそ何で?』
『だって、裸見たら、さすがのキーちゃんだって抑えられなくなると思って。それは、可哀想かなって。だから、ホントにチューまでしかしてないの。』
『そ、そうなんだ。でも、お風呂、電気付いてるよ?明るいよ?良いの?』
『うん、別に大丈夫。私、実は、裸見られる事に対して、そこまで抵抗ないみたい。』
『そ、そうなのね…。ホント怖いわぁ、女って…。とりあえず、先に、心の中で清彦に謝っとく。』
『私も、謝っとく。ゴメンね、キーちゃん…。』
『お、もう良い感じ!さすが、ホテルのお湯は、溜まるのが早い!』
『ホントだ!ってか、私、初ラブホだからね。良い思い出で終わらせてね。はい!拓くんも、脱いで!脱いで!』
『早いな!何の躊躇いも無し!?俺より先に脱ぐかね。』
『熱ッ!ちょっと、熱いよ!拓くーん!』
『俺、熱いのが好きなんだよね。』
『にしたって、これは熱すぎでしょ!?あー、この辺は、やっぱり、キーちゃんとは違うなぁ。まだ、私の事、分かってない。』
『そら、知らんがな!聞いてねーし!』
『拓くーん、じゃあ、聞こうよ。そこよ!そこ!拓くん、イマイチ優しさに欠けるんだなぁ。キーちゃんは、ちゃんと聞いてくれたよ?』
『へいへい。えろーすんまへんのう。気がきかない男で。はい!もう、早く入ろ入ろ!』
『もう!あ、私こっちが良い!ふーっ…。拓くんて、部屋も汚いんでしょ?一人じゃ生きて行けないね。でも、その辺が母性本能をくすぐるのかなぁ。』
『だね!それが、俺の売りだから!一人じゃ何も出来ないダメ男くん。母性をくすぐられる女の子を幾らでもお待ちしております。』
『幾らでもって!あら?拓くんて、もしかして大分、遊び人なの?キーちゃん、そんな事、一言も言ってなかったけど。』
『清彦は、知らないかもな。何て言うか、清彦は、真面目だからさ、ある程度、清彦に合わせてたとこはある。あんま、女にダラシないとこ見せたら、あいつ怒りそうなんだもん。だから、清彦の知らない所で、コソコソとね。』
『そうなんだ。何か、キーちゃんには言えない事を今日で一気に抱え込んじゃったな。』
『もう遅いよ。優里ちゃんが自分で蒔いた種だよ。自分の責任ね。』
『ね。ま、もう今更だよね。よし!そろそろ出よっか!』
『え?まだ、体洗ってないんですけど…。』
『はいはい。もう、洗ってあげるから!おいで!拓ちゃん!』
『わ!ホント?じゃ、お言葉に甘えて!』
『拓ちゃん、どっか痒いとこある?』
『うーん、もうちょい右のねぇ…、あーそこそこ!』
『拓くんて、甘え上手だよね。何か、悔しいけど、母性本能をくすぐられる感じが分かっちゃった。』
『でしょう?その内、病み付きになるよ!』
『冗談に聞こえないから怖いよね…。』
『うん。冗談じゃないからね!あははは!』
『拓くんには、まだ、"責任"なんて言葉は早いね。でも良いと思う。拓くんは、まだ、このままで…。』
優里ちゃんからの言葉は、正直、刺さった。分かっちゃいたけど、本当に、そうなんだと思うと自分の、お子ちゃまっぷりに、頼り無さに、さすがに愕然とする。責任なんて言葉は、確かに大嫌いだ。責任ある行動なんて、そんな大人めいた事、まだ、知らなくて良い。
俺は、まだ、31歳…。
『…ったく、31にもなって、何やってる訳?いつまで、こんな事やってんのよ!良い加減、大人になんなさいよ!』
千夏には、そんな俺が、激昂させたみたいだ。
『うるせーなぁ。そんなに言う?』
『言うわよ!どんだけ、私を裏切れば気が済むのよ!バカにするのも良い加減にして!』
『別に、バカにしてる訳じゃ、ね…。』
『バカにされてるとしか思えないわよ!何なの!?ホントに何なの!?拓は、私とやり直したいんじゃなかったの!?優里と清彦くんみたいに結婚するんじゃなかったの!?』
『いや、そんな事、一言も言ってねぇし!勝手に千夏が、そう思い込んでただけだろ?』
『何よそれ!?だったら、何で謝んのよ!やり直したいって思いがあるから謝るんじゃないの!?やり直す気もないのに、謝らないでよ!あの時、そのまま終わりにしてくれれば良かったじゃない!無駄に喜ばせないでよ!』
『千夏…。』
『私は、まだ戻って来てきたいんだって、私と、やり直したいんだって、凄い嬉しかったのに。私は、拓が、まだ好きなのに…。』
『千夏…。いや、でも俺は…。』
『分かった。もう、良いよ。何か一気にバカバカしくなった。』
『千夏…。』
『終わりだね、私たち。でも、何か拓のクソガキっぷりに幻滅したって言うより、私の寛容の足りなさに気付いた事がショックだったな…。私も、自分で思ってた以上に、器は小さかったんだなって…。』
『千夏、ゴメンな…。』
『だから、謝らないでって言ってるでしょ!?謝るんだったら、戻って来て!まあ、もう遅いけど!』
『千夏、正直に言う。俺は、まだ色んな子と遊びたい。だから、誰か一人の為に責任は取れない。ゴメンな…。』
『だから、謝らないでよ!もう…。分かったから…。どっか行っちゃってよ…。この無責任男!ウゥッ…。』
『千夏…。』
千夏は、俺の目を見て言った。それでも、俺を信じていたとばかりに、潤んだ瞳で俺を見て言った。千夏との最後の会話。俺は、それが俺の全てを物語っている。そう感じた…。
夏ー。
その知らせが届いたのは、茹だるようにクソ暑い8月の事だった。
『ついに、清彦も父親かぁ…。何か感慨深いわ』
『お前が、よく言えるな!だから!』
優里ちゃんが、妊娠したんだ。清彦が父親になるんだ。結婚したんだから、そうなるのが必然だと分かってはいたけど、いざ、現実になろうとしてる今に実感も無く、どこか絵空事に思えた。
『優里ちゃん、大丈夫?』
『え…?何が?』
『だから、母親になる覚悟出来てる?』
『うん…。大丈夫…。だと思う…。』
『そんな分かりやすい、自信の無さある?全然、覚悟出来てないじゃん。ホント、大丈夫?もう、だって3ヶ月過ぎたべ?もう堕ろせないべ?』
『堕ろさないわよ!誰かさんと違って、そんな無責任な事しません!キーちゃんの子だもん!堕ろす訳ないでしょ!』
『でも、じゃあ、その自信の無さは何?もう、ホントに遊べなくなるって思ってるからだべ?』
『もう!シッ!キーちゃんに聞こえたら、どうするのよ!』
『そんなに慌てるって事は、図星なんだ…。優里ちゃんも、なんだかんだで俺と変わんないなぁ。』
『拓くんとは、一緒にしないで!拓くんよりは、マシです!』
『そんな事もないんじゃない?大して変わらないよ。俺と。妊娠が分かった時、ホントに心の底から嬉しかった?』
『うん!嬉しかった!』
『ホントに?1mmの戸惑いも無かった?』
『う…。もう、ズルいよ、拓くん。』
『やっぱり!まだ、早いって思ったべ?あわよくば、もう一人くらい誰か、他の男とどうにか出来ないかなって、考えてたのにって?』
『もう!だから、そんな大きな声で言わないでよ!分かってるから!もう、認めます!その通りです!だから、もう言わないで!』
『あははは。でも、別に良いんじゃない?そんなもんだよ、みんな。別に、そんなの異彩じゃないよ。フツーだよ。』
『拓くん…。』
親になる責任はね、重いと思う。相当の覚悟とお金が必要だし。俺には、まだまだ見えない遠い未来。でも、親だって、所詮、人間だからね。
誘惑には、揺れるよね…。
『…誰だって、スキがあるんだよ。完璧な人間なんていないんだから。』
『そうですかね…。』
『ま、そんなに緊張?心配しなくても大丈夫だよ。優里ちゃん?だっけ?』
『あ、はい。』
『拓からの紹介で、色々、聞いてるけど、結構たくさんいるから、優里ちゃんみたいな子。』
『そうなんですか?』
『みんなさ、なんだかんだ言って、"あわよくば"を常に狙ってるんだよ。誰だって刺激が欲しいんだ。平穏なんて、つまんないだけじゃん。だから、何も心配しないで大丈夫だよ。旦那さんにもバレる事はないから。俺は、そういう子ばっかり相手にしてるからね。』
『分かりました。じゃあ、お願いします。』
俺は、優里ちゃんに、他の男を紹介した。普段から浮気相手ばっかりしてる、知り合いの小慣れた男を。このまま、不完全燃焼なまま、母親になる前に、少しでも、モヤモヤをスッキリした方が絶対に良い!そう思ったんだ。
『…優里ちゃん、感じやすいんだね。』
『はい…!』
『今だけは、全てを忘れて良いんだよ。何の責任もない、自由な一人の女の子だよ。』
『はい…!あっ!』
みんな、そうさ。誰だって、そうなんだよ。欲求が無い奴なんていないし、快楽だって欲しいんだ。少しも可笑しい事じゃない。だから、良いじゃん。無理に押し殺さなくても。自由に生きようよ。少なくとも俺は、そう生きる。
それから、7ヶ月ー。
優里ちゃんは、元気な男の子の母親になった。清彦と二人で、それは嬉しそうに笑ってた…。
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