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ー第十二章ー
≪理想≫
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春ー。
私は、大学を卒業した。そして、キーちゃんと結婚した。理想の男、キーちゃんと結婚した。私の全てを受け入れ、残りの人生の伴侶として迎えてくれた。私は、そんな、キーちゃんに、キーちゃんの為に、キーちゃんの為の女になろう。そう思った。
まさに、その名の通り、新生活が始まった。私たち夫婦は、新しく部屋を借り、新婚生活をスタートさせた。同時に、社会人1年目の始まり。着慣れないスーツに身を包み、満員電車に揉まれて通勤する毎日。仕事が出来る大人な女。憧れだった。でも、現実を思い知る。理想はね、やっぱり、いつまでも理想なんだ…。
『…優里、どうなん?仕事は?順調?』
『キーちゃん。うん。順調!…な訳ないじゃん!もう、毎日ぶちのめされてるよ。』
『そうなん?優里って、どっちかって言ったら、デキル女じゃないの?』
『うーん…。正直、私も、そう思ってた。でも、全然、知らない事だらけだし、出来ない事だらけだった。実際、経験してみて初めて分かる事って、いっぱいあるよね。何も知らないくせに、知った風な口きいてたのが今思えば、ホント恥ずかしいよ。』
『ホントな。ま、優里の場合は、仕事だけじゃなくて、他の事でも、そうだけどな!』
『他の事?』
『そう。セックスは、知って正解だったべ?』
『うん…。そうだね。良かったのかな…。』
『でも、もう他の男は、知らせない。』
『うん。もう、知らなくて良い!キーちゃんだけで良い!』
『良かったよ。その言葉を聞けて。あの時は、勢いで言っちゃっただけかもしれないと思ったから。もう、余計な心配は、いらないかな。』
『うん。もう、心配しないで。ってか、キーちゃんこそ、裏切らない…か。キーちゃんは。』
『うん。キーちゃん、裏切らない。ま、単純に俺には、そんな勇気ないから。そう言う下心が沸いたとしても、実行に移す勇気がないから。情けないけどな。あはは。』
『キーちゃん…。情けなくないよ。そんな勇気なくていい。』
キーちゃんは、理想の男。理想は、あくまで理想…、じゃない本物の理想通りの男。だから、私は、全てを捧げるの。決して、裏切る事のない理想の男。だから、私は結婚したの。
『…よう、清彦!』
『お!来たな!拓!』
新居に越してから、初めて拓くんが来た。キーちゃんは、嬉しそうに新居を案内してる。そんなに広い訳でもないのに。嬉しそうにね。二人は、笑ってる。楽しそうに、笑ってるの。あんな事があったのにね。噓みたいに笑ってるの。ホントに、二人は、強力な何かで結ばれてるんだね。ちょっとやそっとじゃ解けない、それが固い絆ってやつなのかな。ちょっとだけ嫉妬…。私にも欲しいな、その固い絆ってやつ。
『…でも、良かったな。俺は安心した。二人が無事に結婚して。』
『良く言うよな。ぶち壊そうとした張本人のくせして。』
『それに関しては、何も言葉はありません。』
『だろうな!だろうな!』
『拓くんも、千夏と、もう結婚しちゃえば良いのに!』
『ホントだよ。さっさと、しちゃえよ。せっかく、やり直したんだし。もう結婚するしかねえべ!』
『まー、そう簡単に言うなよ。色々、段階を踏まなきゃダメなんだよ。俺たちの場合。』
『段階?そんなんあった?』
『あった。俺たちは、って言うか、俺は、先ず千夏に懺悔しなきゃ。実は、まだ、許してもらってないんだ。』
『そうなん?だって、やり直したんだべ?なのに?許してくれないのか?』
『そうなんだよ。やり直してくれたって事は、許してくれたって思うよな?でも、違うんだと。今は、執行猶予期間なんだとさ。』
『執行猶予?』
『そう。とりあえず、やり直すけど、ちょっとでも疑わしい行動をとったら、その時点でサヨナラなんだと。とにかく誠意を見せろだとよ。』
『なるほどね。ってかさ、千夏ちゃん何様なん?だって、お前らの関係って、どっちかって言ったら、千夏ちゃんが拓を追っかけていたんじゃなかったっけ?』
『そうなんだよ。こんなこと言ったら、アレだけど、俺、割と千夏の押しに折れたって感じで付き合い始めたんだよな。今回の事で、完全に俺が悪者になったから、立場が逆転したみたいな錯覚に陥ってるけど、俺、別に、千夏とやり直さなくても良かったんだよな。ホントは。』
『お前、マジで言ってんの?』
『んー、なんかさ、とりあえず、謝まらなきゃいけない空気だったから、謝ったんだよな。でも、それが、いつの間にか、やり直したいみたいな感じに変わってて、千夏が主導権を握ってたんだよ。そしたら、執行猶予付きで、やり直してあげる、だってよ。ま、その時に、反論しなかった俺も俺なんだけど。』
『じゃあ、拓くん、どうするの?別れちゃうの?』
『うーん、どうしようね…。ま、正直言えば、別れても別に良いかなって。だって、他にもっと良い子がいるかもしれないしさ。それに、千夏が、ホントに理想の女かって言われたら、やっぱり、そうじゃないしな。』
『拓、お前、結婚出来ねぇな。千夏ちゃんとも終わりだな。だって、もはや、続ける気がねぇじゃん。』
『ホントよね。あーあ、千夏が可哀想。また、泣かしちゃう。』
『まー、俺たちも別に、どうしても千夏ちゃんと、どうこうしろって強制させる訳じゃないけどさ。とりあえず、もう、優里には、手ぇ出すなよな。』
『キーちゃん!それは、私が、自分で守るから大丈夫です!』
『だってさ。』
『拓、俺は、お前の将来が心配だよ。なんか急に、親目線になって来たな。』
『ホントね。私も、同じだわ。急に親目線。たぶん、この子は、また色んな女の子に手を出すわね。』
『ちょっと!俺、なに?そんなヤバイ感じ?なんか、悲しくてなって来たわ!』
拓くんの実情。でもね、本音を言うと、今の私も、割と近い所にいるよ。いた?うーうん。まだ、いるよ。進行形だよ。みんな忘れてるけど拓くんを誘ったのは、私なんだよ?キーちゃんの前じゃ、あー言うけど、私は、まだ改心しきれていない。いつ蘇るか分からない、あの欲求…。悔しいけど、私は、まだ進行形…。
それから、直ぐに、拓くんと千夏は別れた。それも、ただ単に、拓くんが言葉だけで終わりにしたんじゃない。執行猶予中の身である事を逆に利用して、他の子に手を出して、千夏を呆れさせた。わざと千夏からフラせて、終止符を打たせたの。つまりは、自分からフる労力さえ使わずに、千夏から逃げた…。
『あの二人は、そういう運命だったんだよ。』
私も、キーちゃんも、そう言って自分を納得させていた。
『…にしても、拓のヤツ。あいつ、こんなに女癖悪かったっけ?実は、俺は、拓の事、知ってる様で、全然、知らなかったのかな。知ってたのは、上部だけだったのかな。拓の裏側には、何も気付いてなかったのかな…。』
『キーちゃん…。』
『優里さぁ、拓と二人でいた時、どんな会話してたんだ?あいつ、女の前だと、どんな風になるんだ?』
『うーん…。』
『何、うーん、て?何か言いづらいのか?』
『うーん、拓くんてさ…。』
私は、拓くんと一緒にいた時の事を、キーちゃんに話した。躊躇したのは、キーちゃんが知らない間に、拓くんと一緒に過ごした時間の話しだから、何か申し訳なくって…。
やっぱり、知る事で傷になるくらいなら、知らなくて良い事は、知らないままで良いって思ってたから。拓くんと一緒にいた時間の事を話すのは、罪悪感しかなかった。だって、その空間を作ったのは、私なんだもん…。
キーちゃん、私まだ、いつ再発するか分からないよ。それが、怖いの…。
私は、まだ、キーちゃんの理想には、なりきれない…。
私は、大学を卒業した。そして、キーちゃんと結婚した。理想の男、キーちゃんと結婚した。私の全てを受け入れ、残りの人生の伴侶として迎えてくれた。私は、そんな、キーちゃんに、キーちゃんの為に、キーちゃんの為の女になろう。そう思った。
まさに、その名の通り、新生活が始まった。私たち夫婦は、新しく部屋を借り、新婚生活をスタートさせた。同時に、社会人1年目の始まり。着慣れないスーツに身を包み、満員電車に揉まれて通勤する毎日。仕事が出来る大人な女。憧れだった。でも、現実を思い知る。理想はね、やっぱり、いつまでも理想なんだ…。
『…優里、どうなん?仕事は?順調?』
『キーちゃん。うん。順調!…な訳ないじゃん!もう、毎日ぶちのめされてるよ。』
『そうなん?優里って、どっちかって言ったら、デキル女じゃないの?』
『うーん…。正直、私も、そう思ってた。でも、全然、知らない事だらけだし、出来ない事だらけだった。実際、経験してみて初めて分かる事って、いっぱいあるよね。何も知らないくせに、知った風な口きいてたのが今思えば、ホント恥ずかしいよ。』
『ホントな。ま、優里の場合は、仕事だけじゃなくて、他の事でも、そうだけどな!』
『他の事?』
『そう。セックスは、知って正解だったべ?』
『うん…。そうだね。良かったのかな…。』
『でも、もう他の男は、知らせない。』
『うん。もう、知らなくて良い!キーちゃんだけで良い!』
『良かったよ。その言葉を聞けて。あの時は、勢いで言っちゃっただけかもしれないと思ったから。もう、余計な心配は、いらないかな。』
『うん。もう、心配しないで。ってか、キーちゃんこそ、裏切らない…か。キーちゃんは。』
『うん。キーちゃん、裏切らない。ま、単純に俺には、そんな勇気ないから。そう言う下心が沸いたとしても、実行に移す勇気がないから。情けないけどな。あはは。』
『キーちゃん…。情けなくないよ。そんな勇気なくていい。』
キーちゃんは、理想の男。理想は、あくまで理想…、じゃない本物の理想通りの男。だから、私は、全てを捧げるの。決して、裏切る事のない理想の男。だから、私は結婚したの。
『…よう、清彦!』
『お!来たな!拓!』
新居に越してから、初めて拓くんが来た。キーちゃんは、嬉しそうに新居を案内してる。そんなに広い訳でもないのに。嬉しそうにね。二人は、笑ってる。楽しそうに、笑ってるの。あんな事があったのにね。噓みたいに笑ってるの。ホントに、二人は、強力な何かで結ばれてるんだね。ちょっとやそっとじゃ解けない、それが固い絆ってやつなのかな。ちょっとだけ嫉妬…。私にも欲しいな、その固い絆ってやつ。
『…でも、良かったな。俺は安心した。二人が無事に結婚して。』
『良く言うよな。ぶち壊そうとした張本人のくせして。』
『それに関しては、何も言葉はありません。』
『だろうな!だろうな!』
『拓くんも、千夏と、もう結婚しちゃえば良いのに!』
『ホントだよ。さっさと、しちゃえよ。せっかく、やり直したんだし。もう結婚するしかねえべ!』
『まー、そう簡単に言うなよ。色々、段階を踏まなきゃダメなんだよ。俺たちの場合。』
『段階?そんなんあった?』
『あった。俺たちは、って言うか、俺は、先ず千夏に懺悔しなきゃ。実は、まだ、許してもらってないんだ。』
『そうなん?だって、やり直したんだべ?なのに?許してくれないのか?』
『そうなんだよ。やり直してくれたって事は、許してくれたって思うよな?でも、違うんだと。今は、執行猶予期間なんだとさ。』
『執行猶予?』
『そう。とりあえず、やり直すけど、ちょっとでも疑わしい行動をとったら、その時点でサヨナラなんだと。とにかく誠意を見せろだとよ。』
『なるほどね。ってかさ、千夏ちゃん何様なん?だって、お前らの関係って、どっちかって言ったら、千夏ちゃんが拓を追っかけていたんじゃなかったっけ?』
『そうなんだよ。こんなこと言ったら、アレだけど、俺、割と千夏の押しに折れたって感じで付き合い始めたんだよな。今回の事で、完全に俺が悪者になったから、立場が逆転したみたいな錯覚に陥ってるけど、俺、別に、千夏とやり直さなくても良かったんだよな。ホントは。』
『お前、マジで言ってんの?』
『んー、なんかさ、とりあえず、謝まらなきゃいけない空気だったから、謝ったんだよな。でも、それが、いつの間にか、やり直したいみたいな感じに変わってて、千夏が主導権を握ってたんだよ。そしたら、執行猶予付きで、やり直してあげる、だってよ。ま、その時に、反論しなかった俺も俺なんだけど。』
『じゃあ、拓くん、どうするの?別れちゃうの?』
『うーん、どうしようね…。ま、正直言えば、別れても別に良いかなって。だって、他にもっと良い子がいるかもしれないしさ。それに、千夏が、ホントに理想の女かって言われたら、やっぱり、そうじゃないしな。』
『拓、お前、結婚出来ねぇな。千夏ちゃんとも終わりだな。だって、もはや、続ける気がねぇじゃん。』
『ホントよね。あーあ、千夏が可哀想。また、泣かしちゃう。』
『まー、俺たちも別に、どうしても千夏ちゃんと、どうこうしろって強制させる訳じゃないけどさ。とりあえず、もう、優里には、手ぇ出すなよな。』
『キーちゃん!それは、私が、自分で守るから大丈夫です!』
『だってさ。』
『拓、俺は、お前の将来が心配だよ。なんか急に、親目線になって来たな。』
『ホントね。私も、同じだわ。急に親目線。たぶん、この子は、また色んな女の子に手を出すわね。』
『ちょっと!俺、なに?そんなヤバイ感じ?なんか、悲しくてなって来たわ!』
拓くんの実情。でもね、本音を言うと、今の私も、割と近い所にいるよ。いた?うーうん。まだ、いるよ。進行形だよ。みんな忘れてるけど拓くんを誘ったのは、私なんだよ?キーちゃんの前じゃ、あー言うけど、私は、まだ改心しきれていない。いつ蘇るか分からない、あの欲求…。悔しいけど、私は、まだ進行形…。
それから、直ぐに、拓くんと千夏は別れた。それも、ただ単に、拓くんが言葉だけで終わりにしたんじゃない。執行猶予中の身である事を逆に利用して、他の子に手を出して、千夏を呆れさせた。わざと千夏からフラせて、終止符を打たせたの。つまりは、自分からフる労力さえ使わずに、千夏から逃げた…。
『あの二人は、そういう運命だったんだよ。』
私も、キーちゃんも、そう言って自分を納得させていた。
『…にしても、拓のヤツ。あいつ、こんなに女癖悪かったっけ?実は、俺は、拓の事、知ってる様で、全然、知らなかったのかな。知ってたのは、上部だけだったのかな。拓の裏側には、何も気付いてなかったのかな…。』
『キーちゃん…。』
『優里さぁ、拓と二人でいた時、どんな会話してたんだ?あいつ、女の前だと、どんな風になるんだ?』
『うーん…。』
『何、うーん、て?何か言いづらいのか?』
『うーん、拓くんてさ…。』
私は、拓くんと一緒にいた時の事を、キーちゃんに話した。躊躇したのは、キーちゃんが知らない間に、拓くんと一緒に過ごした時間の話しだから、何か申し訳なくって…。
やっぱり、知る事で傷になるくらいなら、知らなくて良い事は、知らないままで良いって思ってたから。拓くんと一緒にいた時間の事を話すのは、罪悪感しかなかった。だって、その空間を作ったのは、私なんだもん…。
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