断れないコ。

杉本けんいちろう

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断れないコ。

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私には、誰にも言えない影がある。

私は俗に言う断れないコ…。

自分一人じゃ何も出来ない、どうしようもない世間の言いなり。

でも、それでいいの。

だって、私は自分じゃ何も決められない。今の大学も、高校の時の担任からの勧めだった。決して、自分の意思じゃなくて、ただ流されるままに…。

地味だし人見知りだし、目標も無ければ理想も無い。

心から、何の為に生かされてるのか分からない。

ホントにつまんない、私…。

でも、不思議な事が一つだけある。
こんな私を、好きだって言い寄って来る男がいる事。

理想のかけらも無い私には、いちおう女の子である私の欲求を満たす、って言うか、最低限の経験はしてみたいっていう願望を預けるには、断る理由がまるで無い。

それが例え、加齢臭漂うオジサンだとしても、お金をくれたとしても…。

何にも無い私には、もの凄く心躍らす瞬間。

初めて知る事が出来た性癖や、単純に人と触れ合う温もりは、もし私のプライドが高慢ちきだったら一生、知り得なかった事。

『…へー、理沙ちゃんっていうんだ。俺、タクヤ。これから何か予定あんの?良かったら、このまま飲み行こうよ!ナンパとは言え、この出会いは運命だと思うんだよね!』

『タクヤくん…。うん、いいよ。』

たぶん私には、プライドが無い。
本音を言えば、そういうの良く分からないの。単純に自信の問題なのかもしれないけど。

友達もいない私にとって楽しいと思う瞬間は、やっぱり、そんな私を誘って来る男に口説かれてる時。

だって、それって少なくとも、この私を必要としてくれてるって事でしょ?

『理沙ちゃん、今日は理沙ちゃんちで宅飲みしない?家の方が、まったり出来るしさ。』

『ヤッちゃん…。うん、いいよ。』

私はバカだけど、その男が決して本気で私の事を好きじゃない、って言うか、ヤリ目だって事ぐらい分かってる。

『理沙ちゃん、今日このまま俺んち来ない?前から言ってたDVD買ったんだ。一緒に見ようよ。』

『シュンくん…。うん、いいよ。』

でも、この上ない瞬間は、何物にも変えがたい幸せなの。

『理沙ちゃん、俺と付き合わない?俺達だったら上手くやっていけると思うんだよね!』

『リョウくん…。うん、いいよ。』

私自身が、私の好きなトコを探せないのに他人に何が分かるの?…って、本心かな。

だから、不思議なの。
でもね、だから面白いの。

ホント、笑っちゃう。
誰か断る理由を教えて下さい。

『理沙ちゃんか…。三万でどうだい?』

『オジサン…。うん、いいよ。』

                                     ー完ー
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