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ー第八章ー
森悠斗
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『悠斗ぉ!どう?』
『うーん、可愛いとは思うけど、ちょっと大人し過ぎるかなって…。ほら、俺って基本テンション高めだからさ正直、合うかなぁって不安だわ。』
『あら、珍しい。あの女ったらしの悠斗の口から、そんな言葉が出て来るなんて。』
『女ったらしじゃねぇわ!俺は、誰よりも一途に惚れた女の子の為に…。』
『はいはい。ま、よく考えてみてよ。歩実は、正直、悠斗には勿体無いくらい良い子なんだから。』
『分かったよ。みなみ様のご期待に添えられる様に前向きに検討致します。』
『ん!宜しい!あははは!』
入学当初から仲の良かったみなみから、歩実の事を持ちかけられたのは、高二の春だった。勿論、歩実の事は知っていた。いつも、みなみと一緒にいる大人しい子。可愛い顔してるけど明らかに人見知りで俺は、まだ喋った事がなかった。
『…ホント!?』
『ああ、ホント!』
『んん、さっすが!悠斗ならオッケーしてくれると思ってた。歩実はね、人見知りで最初は中々、心開くまで時間かかるけど悠斗の社交力なら直ぐに打ち解けると思うの。だから、ホント宜しくお願いね?』
『ああ、頑張るよ。まぁ、歩実は正直、顔はタイプだからな。やる気は出ると思うよ。』
『よしよし!頼むぞ!たらし!』
『だから、たらしじゃねぇから!』
実は、みなみからお願いされたんだ。歩実を口説き落として欲しいって。歩実の心と体を開くのは、女子じゃなくて男子の方が力が大きいからって。みなみは、ホントに歩実の母親みたいな存在で歩実の為になると何よりも必死になる。
でも、いくら心配するのは良いけど、初めての男まで斡旋するかな…。ま、斡旋とは違うか…。俺も、悪い気がしないのは本音だし、何より歩実の事が気になり出していたのは事実だし。
『歩実!』
『…悠斗君。』
『歩実、今日は、みなみが用ありだから一人だろ?一緒に帰ろうぜ!』
『うん…。』
『あれ…、なんか嫌そう。』
『ううん、そんな事ないけど…。最近さ、悠斗君、何でこんなに私に構ってくるの?』
『え?』
『だって、二年になって急にでしょ?一年の時は、ろくに目も合わせてくれなかった気がするけど。』
『それは、誤解だよ。もう言っちゃうけど俺、実は、ずっと歩実の事が気になってたんだ。』
『ええ?』
『みんなさ、俺のこと誤解してんだよ。スゲェ女好きで、しょっちゅう取っ替え引っ替えしてるとかさ。』
『違うの?』
『もう、ほら歩実まで!違うんだって!俺は、今までの人生でいた彼女は一人だけ!何でこんなふざけた噂が流れてんだか知らないけど俺は一途なんだ。取っ替え引っ替えなんて冗談じゃねぇよ。俺、前の子と去年の暮れに別れて以来、ずっと歩実の事を見てたんだ。』
『悠斗君…。』
『実は、みなみには、もう許可を貰ってるんだ。ま、許可って可笑しいけどさ、前から相談乗ってもらっててさ今日も、ホントは、みなみに言ってこの時間を譲って貰ったんだ。』
『そうなの?』
『そうなんだ。だから、このチャンスをもう逃したくないんだ。歩実は、人に心を開くまでに時間かかるから大変だよって、みなみから言われてる。でも!だから、ちょっとずつで良いから、ホントにちょっとずつで良いから俺にも心を開いて欲しい!そんで、俺の事を好きになって欲しい!』
『悠斗君…。ありがとう。私ね、そんなこと言ってもらったの初めて。凄く嬉しい…。』
『歩実…。』
『良いよ。』
『え?』
『良いよ、私。悠斗君にだったら何でも晒け出せると思うの。』
『歩実…。』
『悠斗君、ホントにホントに私なんかで良いの?』
『歩実が!良いの!歩実が!好きなの!』
『悠斗君…。ありがとう。私も好き!』
『歩実…。』
正直、驚いた。歩実って結構、単純なんじゃねぇのって。たった数回の接触と、ちょっと本気めいた言葉だけで、こうも簡単に落ちるなんてね。
『悠斗ぉ!聞いたよ!やるじゃん!まさか、こうも簡単に落として付き合うとは!歩実、凄い喜んでたよ。』
『なぁ、みなみさぁ、歩実って実は、バカなの?』
『バ、バカって何よ?』
『い、いやさ、俺もさ、こうも簡単に付き合うとこまで行くとは思わなかったからさ。もしかして、誰がいっても落とせたんじゃねぇかなって。』
『バカなのはあんたよ!歩実は、バカなんかじゃないわよ。』
『で、でもさ…。』
『歩実は、バカなんかじゃない!ただ、寂しがり屋なのに自分からは行けないから温かい言葉をかけられれば、そりゃ嬉しいに決まってるじゃない!それを、バカだの単純だのって!あんたは言葉を知らな過ぎ!もっと違う表現出来ないわけ?あー男子ってこれだから嫌だ!ガサツと言うか何と言うか!それこそただのバカ!歩実を何だと思ってんのよ!』
『そ、そない言います?』
『言うわ!悠斗!あんたホントにちゃんと付き合う気あんの?歩実のこと泣かしたら、私マジで許さないからね!』
『分かった!分かったよ!そんなバカバカ言うなよ!ちゃんと!ホントに、ちゃんと付き合うから!な!みなみ様、お鎮まり下さいませ!』
『ったく、もう!バカ悠斗!』
みなみは、ホントに歩実の事になると人が変わる。まぁ、それがホントの愛情なんだろな…。そう考えると俺の愛情なんて、ただの勘違いなんだろうな…。まぁ、良いさ。それでも女は落ちるんだから。好きだって言って来るんだから。やっぱ、女の方がバカじゃねぇか。まぁ、歩実とは、ちゃちゃっと処女だけ奪っておさらばしよう。そう決めていた。
歩実と付き合ったのは結局、半年かな。あっさりと浮気したのがバレて、みなみから激ギレされた。歩実は、ただ泣いてたな…。そりゃそうか。歩実は、ホントに俺のこと信じてたからな。ま、でも俺にとっちゃ数いる女の内の一人だから、それ程、気に留めるまでもなかった。それ以来、みなみとも、勿論、歩実とも接触する事は無かった。ま、避けられてたんだろうな。当然か。でも、気になる事があった。ある時から突然、歩実が学校に来なくなったって話を聞いたんだ。かなり生徒数の多いマンモス校だったとは言え、いくら女を取っ替え引っ替えしていたとは言え、元カノが突然、学校に来なくなったって話は、さすがに心配になった。
『おい!悠斗!聞いた?歩実ってレイプされたらしいぞ!』
『え?マジで?』
『俺も聞いた話なんだけどさ、今ニュースになってる連続強姦魔の被害者なんだってよ。』
『マジかよ…。だから、急に学校来なくなったって事?』
『そうなんじゃん?ってか、もう来れねぇだろ学校なんか。』
『だよな。もし、それが本当なら来れないよな…。』
『どうなっちゃうんだろうな。さすがに可哀想だな…。どうよ元カレ?』
『まぁ、さすがにな。それは可哀想だわ。さすがにな…。』
俺は、思い切ってみなみに問い質そうとした。でも、みなみは一切、取り合ってくれなかった。歩実なら、絶対その真相を知ってるはずだから確認したかったけど、何故かみなみは、歩実が、学校に来なくなってから人が変わった様にツンケンしていた。あれだけ誰とでも打ち解けて明るい奴だったのに、まるで話しかけるなとばかりに不機嫌オーラを出していた。当然とばかりに俺の付け入る隙は無かった。
歩実の家は学校から大分離れていた上に、学校側からも歩実の事は、一切の説明が無かった。だから結局、歩実の真相は、"噂"のまま時間と共に流され、卒業を迎えた。
俺が音楽に目覚めたのは、大学に入ってからだ。軽音サークルに入って、今までの女、女の生活が嘘の様に朝から晩までギターに明け暮れた。
真司さんと出会ったのは、四年生の夏。就活もしないで路上に出てギター片手に駅前で叫んでた時だった。
『兄ちゃん、カッコいいね!まさに魂の叫びだったよ!色んなもん抱え込んでるなぁって感じがスゲェ響いたよ!あははは!』
俺の抱える日々の葛藤と共に叫ばれた大声が、同じくミュージシャンを目指していた真司さんの心を激しく揺さ振ったらしい。
真司さんは、同じ志しを持つ後輩として凄く可愛がってくれた。俺も、同じ目標に進む信頼出来るアニキに何でも話す様になっていた。
『…そう言えば、友達から聞いたんすけど、この間、俺が高校の時の元カノが子供を連れて歩いているのを見たって言うんすよ。しかも今度、小学校に上がるとか。だって俺、二十三すよ?って事は、高校の時に出来てるって事じゃないですか?』
『悠斗。それ、完全にお前の子じゃん。』
『真司さん。や、やっぱり、そう思います?』
『んー、誰が聞いてもそう言うと思うわ。だって、その元カノって悠斗の同級生なんだべ?ほれ、タイミング的に調度じゃんか。』
『で、でもでも!だって…、って事は高二の時の彼女って事ですよ?高二の時の彼女って言ったらねぇ…!いやいや!俺!中出しした覚え無いっすよ!』
『お前が、覚えてないだけじゃね?』
『えー?いやいや!無い!無い!無いっすよ!』
『悠斗、悪い事は言わねぇから覚悟を決めな。』
『えー!だって俺、今、彼女もいるし、結婚も考えてるのに!無理っすよ!』
『って言われてもなぁ、現実を受け止めないと…。』
『ちょ、ちょっと!やっぱり、やめましょう!この話!怖くなって来た!忘れましょう!忘れましょう!何も無かった事に!』
『あーあ。悠斗、お前、やっちゃったな。』
『え?何の事すか?俺、何も知らないっすよ?あはははは!』
正直、焦った。歩実に子供がいる?あの歩実に?小一になる子供?マジかよ…。
俺の子なのか…?
子供が出来たのが分かったから、学校に来なくなったのか?だったら何で俺に何も言って来ないんだ?俺の存在は無かった事にしようとしてるのか?何だってんだよ…。
『真司さん、俺、行って来ようと思います。』
『そうか。うん、それが良い。悠斗、行って来い!覚悟決めて確かめて来な!』
『はい!』
正直、めちゃめちゃ怖かった。歩実の前に現れる事も。真実を知ってしまう事も…。でも、もう後には引けなかった。二十三歳。結局、就職もせず、バイトとストリートに明け暮れる日々。親への罪悪感とちゃんと就職して社会へと羽ばたいて行った同級生達への劣等感。毎日の葛藤は、心を傷だらけにしてくれる。男として、もしかしたら父親になるかもしれない男として。これまでの人生の良いケジメとして、どうしても知らなければならない事実。そう決意したんだ。
まだ肌寒い春の夕暮れ。俺は、子供と仲睦まじく手を繋いで、買い物袋をぶら下げて歩く、歩実の前に悠然とその足を止めた。
『歩実…。』
『え…?』
『久しぶりだな。俺のこと分からないか?』
『え…、悠斗…君…?悠斗君!?』
『歩実、突然ごめんな。歩実に聞きたい事があるんだ…。』
『うーん、可愛いとは思うけど、ちょっと大人し過ぎるかなって…。ほら、俺って基本テンション高めだからさ正直、合うかなぁって不安だわ。』
『あら、珍しい。あの女ったらしの悠斗の口から、そんな言葉が出て来るなんて。』
『女ったらしじゃねぇわ!俺は、誰よりも一途に惚れた女の子の為に…。』
『はいはい。ま、よく考えてみてよ。歩実は、正直、悠斗には勿体無いくらい良い子なんだから。』
『分かったよ。みなみ様のご期待に添えられる様に前向きに検討致します。』
『ん!宜しい!あははは!』
入学当初から仲の良かったみなみから、歩実の事を持ちかけられたのは、高二の春だった。勿論、歩実の事は知っていた。いつも、みなみと一緒にいる大人しい子。可愛い顔してるけど明らかに人見知りで俺は、まだ喋った事がなかった。
『…ホント!?』
『ああ、ホント!』
『んん、さっすが!悠斗ならオッケーしてくれると思ってた。歩実はね、人見知りで最初は中々、心開くまで時間かかるけど悠斗の社交力なら直ぐに打ち解けると思うの。だから、ホント宜しくお願いね?』
『ああ、頑張るよ。まぁ、歩実は正直、顔はタイプだからな。やる気は出ると思うよ。』
『よしよし!頼むぞ!たらし!』
『だから、たらしじゃねぇから!』
実は、みなみからお願いされたんだ。歩実を口説き落として欲しいって。歩実の心と体を開くのは、女子じゃなくて男子の方が力が大きいからって。みなみは、ホントに歩実の母親みたいな存在で歩実の為になると何よりも必死になる。
でも、いくら心配するのは良いけど、初めての男まで斡旋するかな…。ま、斡旋とは違うか…。俺も、悪い気がしないのは本音だし、何より歩実の事が気になり出していたのは事実だし。
『歩実!』
『…悠斗君。』
『歩実、今日は、みなみが用ありだから一人だろ?一緒に帰ろうぜ!』
『うん…。』
『あれ…、なんか嫌そう。』
『ううん、そんな事ないけど…。最近さ、悠斗君、何でこんなに私に構ってくるの?』
『え?』
『だって、二年になって急にでしょ?一年の時は、ろくに目も合わせてくれなかった気がするけど。』
『それは、誤解だよ。もう言っちゃうけど俺、実は、ずっと歩実の事が気になってたんだ。』
『ええ?』
『みんなさ、俺のこと誤解してんだよ。スゲェ女好きで、しょっちゅう取っ替え引っ替えしてるとかさ。』
『違うの?』
『もう、ほら歩実まで!違うんだって!俺は、今までの人生でいた彼女は一人だけ!何でこんなふざけた噂が流れてんだか知らないけど俺は一途なんだ。取っ替え引っ替えなんて冗談じゃねぇよ。俺、前の子と去年の暮れに別れて以来、ずっと歩実の事を見てたんだ。』
『悠斗君…。』
『実は、みなみには、もう許可を貰ってるんだ。ま、許可って可笑しいけどさ、前から相談乗ってもらっててさ今日も、ホントは、みなみに言ってこの時間を譲って貰ったんだ。』
『そうなの?』
『そうなんだ。だから、このチャンスをもう逃したくないんだ。歩実は、人に心を開くまでに時間かかるから大変だよって、みなみから言われてる。でも!だから、ちょっとずつで良いから、ホントにちょっとずつで良いから俺にも心を開いて欲しい!そんで、俺の事を好きになって欲しい!』
『悠斗君…。ありがとう。私ね、そんなこと言ってもらったの初めて。凄く嬉しい…。』
『歩実…。』
『良いよ。』
『え?』
『良いよ、私。悠斗君にだったら何でも晒け出せると思うの。』
『歩実…。』
『悠斗君、ホントにホントに私なんかで良いの?』
『歩実が!良いの!歩実が!好きなの!』
『悠斗君…。ありがとう。私も好き!』
『歩実…。』
正直、驚いた。歩実って結構、単純なんじゃねぇのって。たった数回の接触と、ちょっと本気めいた言葉だけで、こうも簡単に落ちるなんてね。
『悠斗ぉ!聞いたよ!やるじゃん!まさか、こうも簡単に落として付き合うとは!歩実、凄い喜んでたよ。』
『なぁ、みなみさぁ、歩実って実は、バカなの?』
『バ、バカって何よ?』
『い、いやさ、俺もさ、こうも簡単に付き合うとこまで行くとは思わなかったからさ。もしかして、誰がいっても落とせたんじゃねぇかなって。』
『バカなのはあんたよ!歩実は、バカなんかじゃないわよ。』
『で、でもさ…。』
『歩実は、バカなんかじゃない!ただ、寂しがり屋なのに自分からは行けないから温かい言葉をかけられれば、そりゃ嬉しいに決まってるじゃない!それを、バカだの単純だのって!あんたは言葉を知らな過ぎ!もっと違う表現出来ないわけ?あー男子ってこれだから嫌だ!ガサツと言うか何と言うか!それこそただのバカ!歩実を何だと思ってんのよ!』
『そ、そない言います?』
『言うわ!悠斗!あんたホントにちゃんと付き合う気あんの?歩実のこと泣かしたら、私マジで許さないからね!』
『分かった!分かったよ!そんなバカバカ言うなよ!ちゃんと!ホントに、ちゃんと付き合うから!な!みなみ様、お鎮まり下さいませ!』
『ったく、もう!バカ悠斗!』
みなみは、ホントに歩実の事になると人が変わる。まぁ、それがホントの愛情なんだろな…。そう考えると俺の愛情なんて、ただの勘違いなんだろうな…。まぁ、良いさ。それでも女は落ちるんだから。好きだって言って来るんだから。やっぱ、女の方がバカじゃねぇか。まぁ、歩実とは、ちゃちゃっと処女だけ奪っておさらばしよう。そう決めていた。
歩実と付き合ったのは結局、半年かな。あっさりと浮気したのがバレて、みなみから激ギレされた。歩実は、ただ泣いてたな…。そりゃそうか。歩実は、ホントに俺のこと信じてたからな。ま、でも俺にとっちゃ数いる女の内の一人だから、それ程、気に留めるまでもなかった。それ以来、みなみとも、勿論、歩実とも接触する事は無かった。ま、避けられてたんだろうな。当然か。でも、気になる事があった。ある時から突然、歩実が学校に来なくなったって話を聞いたんだ。かなり生徒数の多いマンモス校だったとは言え、いくら女を取っ替え引っ替えしていたとは言え、元カノが突然、学校に来なくなったって話は、さすがに心配になった。
『おい!悠斗!聞いた?歩実ってレイプされたらしいぞ!』
『え?マジで?』
『俺も聞いた話なんだけどさ、今ニュースになってる連続強姦魔の被害者なんだってよ。』
『マジかよ…。だから、急に学校来なくなったって事?』
『そうなんじゃん?ってか、もう来れねぇだろ学校なんか。』
『だよな。もし、それが本当なら来れないよな…。』
『どうなっちゃうんだろうな。さすがに可哀想だな…。どうよ元カレ?』
『まぁ、さすがにな。それは可哀想だわ。さすがにな…。』
俺は、思い切ってみなみに問い質そうとした。でも、みなみは一切、取り合ってくれなかった。歩実なら、絶対その真相を知ってるはずだから確認したかったけど、何故かみなみは、歩実が、学校に来なくなってから人が変わった様にツンケンしていた。あれだけ誰とでも打ち解けて明るい奴だったのに、まるで話しかけるなとばかりに不機嫌オーラを出していた。当然とばかりに俺の付け入る隙は無かった。
歩実の家は学校から大分離れていた上に、学校側からも歩実の事は、一切の説明が無かった。だから結局、歩実の真相は、"噂"のまま時間と共に流され、卒業を迎えた。
俺が音楽に目覚めたのは、大学に入ってからだ。軽音サークルに入って、今までの女、女の生活が嘘の様に朝から晩までギターに明け暮れた。
真司さんと出会ったのは、四年生の夏。就活もしないで路上に出てギター片手に駅前で叫んでた時だった。
『兄ちゃん、カッコいいね!まさに魂の叫びだったよ!色んなもん抱え込んでるなぁって感じがスゲェ響いたよ!あははは!』
俺の抱える日々の葛藤と共に叫ばれた大声が、同じくミュージシャンを目指していた真司さんの心を激しく揺さ振ったらしい。
真司さんは、同じ志しを持つ後輩として凄く可愛がってくれた。俺も、同じ目標に進む信頼出来るアニキに何でも話す様になっていた。
『…そう言えば、友達から聞いたんすけど、この間、俺が高校の時の元カノが子供を連れて歩いているのを見たって言うんすよ。しかも今度、小学校に上がるとか。だって俺、二十三すよ?って事は、高校の時に出来てるって事じゃないですか?』
『悠斗。それ、完全にお前の子じゃん。』
『真司さん。や、やっぱり、そう思います?』
『んー、誰が聞いてもそう言うと思うわ。だって、その元カノって悠斗の同級生なんだべ?ほれ、タイミング的に調度じゃんか。』
『で、でもでも!だって…、って事は高二の時の彼女って事ですよ?高二の時の彼女って言ったらねぇ…!いやいや!俺!中出しした覚え無いっすよ!』
『お前が、覚えてないだけじゃね?』
『えー?いやいや!無い!無い!無いっすよ!』
『悠斗、悪い事は言わねぇから覚悟を決めな。』
『えー!だって俺、今、彼女もいるし、結婚も考えてるのに!無理っすよ!』
『って言われてもなぁ、現実を受け止めないと…。』
『ちょ、ちょっと!やっぱり、やめましょう!この話!怖くなって来た!忘れましょう!忘れましょう!何も無かった事に!』
『あーあ。悠斗、お前、やっちゃったな。』
『え?何の事すか?俺、何も知らないっすよ?あはははは!』
正直、焦った。歩実に子供がいる?あの歩実に?小一になる子供?マジかよ…。
俺の子なのか…?
子供が出来たのが分かったから、学校に来なくなったのか?だったら何で俺に何も言って来ないんだ?俺の存在は無かった事にしようとしてるのか?何だってんだよ…。
『真司さん、俺、行って来ようと思います。』
『そうか。うん、それが良い。悠斗、行って来い!覚悟決めて確かめて来な!』
『はい!』
正直、めちゃめちゃ怖かった。歩実の前に現れる事も。真実を知ってしまう事も…。でも、もう後には引けなかった。二十三歳。結局、就職もせず、バイトとストリートに明け暮れる日々。親への罪悪感とちゃんと就職して社会へと羽ばたいて行った同級生達への劣等感。毎日の葛藤は、心を傷だらけにしてくれる。男として、もしかしたら父親になるかもしれない男として。これまでの人生の良いケジメとして、どうしても知らなければならない事実。そう決意したんだ。
まだ肌寒い春の夕暮れ。俺は、子供と仲睦まじく手を繋いで、買い物袋をぶら下げて歩く、歩実の前に悠然とその足を止めた。
『歩実…。』
『え…?』
『久しぶりだな。俺のこと分からないか?』
『え…、悠斗…君…?悠斗君!?』
『歩実、突然ごめんな。歩実に聞きたい事があるんだ…。』
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