ビジネスヒール

杉本けんいちろう

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ビジネスヒール

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『ねぇ、どうして君は泣いてるの?』

『…え?』

『僕に、何か出来る事ないかな?君の助けになりたいたんだ。』

公園のブランコの上で泣いている一人の女の子。僕は、そんな子をほっとけない。

『…え?え?な、何!?ロボット!?』

『僕の名前は、アルバート。困ってる人を助ける為に作られたロボットさ。だから、僕に話してよ。どうして泣いてるの?』

『人を助ける為に…?』

『そう。君は、泣いている。悲しい事があったからでしょ?だから、僕は、君を助けたい。』

『助けたいって何をしてくれるの?』

『何でも。君の助けになる事だったら。』

『…。』

僕は、博士によって作られた感情を持つロボット。だから、泣いている人を見つけたら胸が痛くなる。だから、訳を話してよ。

『…じゃあ、一つお願いしてもいい?』

『いいよ!』

ーーー。

『おい!大変だ!みんな!逃げろぉー!』

『ど、どうしたんだよ!』

『ロボットが!巨大なロボットが、暴れてるんだ!』

『な、なんだと!?』

街中大騒ぎ。突然、巨大なロボットが出現し、街中で暴れて建物をなぎ倒し、目から光線を放ち人間達を追い回す。みんな、悲鳴を上げて逃げ惑う。

『アルバート!何でじゃ!何で、こんな事するんじゃ!わしは、こんな事をさせる為に、お前を作った訳じゃないぞ!』

博士が叫んでる。僕を止めようと必死で叫んでる。でも、ダメなんだ。いくら博士が止めてもダメなんだ。

リンとの約束だから…。

ーーー。

『…君の名前は?』

『…リン。』

『リンは、どうして一人なの?トモダチは?』

『そんなのいないよ。私は、いつも一人。』

『だから、泣いてるの?』

『違うよ。今更、一人だからって泣かない。私ね、お父さんもお母さんもいないの。二人とも私が小さい時に死んじゃった。だから、一人には慣れっ子。学校にも、ほとんど行ってないから、友達もいない。』

『じゃあ、どうして?』

『目にゴミが入ったからだよ。』

『目にゴミ?』

『そう。だから、痛くて泣いてたの!』

『じゃあ、この街が悪いの?目にゴミを入れた、この街が。』

『え?』

『この街が無くなれば、もう目にゴミが入る事なくなるよね?』

『うん!そう!そうだよ!失くして!この街が悪いの!こんな街があるからいけないの!何もかも、ぶっ壊して!』

『分かった。それが、リンの助けになるなら、僕が、この街を壊してあげる。』

ーーー。

『…えー、こちらが巨大なロボットが暴れている現場です!大変です!もう、既に街の半分ほどの建物が倒壊しています!この緊急事態に防衛軍も総動員して懸命に対抗していますが、30メートルは有ろうかという巨大なロボットは、ビクともしません!これは、非常に危機的状況です!』

『住民の方は、急いで避難を!急いで!急いで!』

『防衛軍からの必死の呼びかけが虚しく響き渡っています!あの巨大なロボットを止めるには!一体どうすれば!我々、人類には、どうする事も出来ないのでしょうか!?…、あ!ここで、あのロボットを作ったというキエダ博士と接触出来ました!お話しを伺ってみようと思います!』

『み、皆さま!本当に申し訳ありません!こんな!こんなつもりでアルバートを作った訳ではないんです!』

『ア、アルバート!?あのロボットの名前ですか?』

『そうです。アルバートは、困った人を助ける為に作った感情を持つロボットです。つまり、本来は、心の優しいロボットなんです!人の痛みが分かる誰よりも優しいロボットなんです!だから、こんな事するはずが無いんです!これは、何かの間違いなんです!』

『ですが、現に、こうやって街を破壊して回っていますよ!完全に不良品って事じゃないですか!?』

『バカな!私の設計に何のミスも無い!見た目は、ツギハギだらけでカッコ悪いかもしれんが自由に巨大化出来るシステムや、目から放たれる光線も、そして、何より人の気持ちが分かる感情も!私の設計通り!何の落ち度もないはずじゃ!』

『じゃあ、この目の前に広がる絶望的な現実をどう説明するんですか!?』

『あー、危ない!さがって!マスコミの人も皆もっと、さがって!』

『ミスが無いと断言できるから分からんのじゃよ!一体、どうして、こんな事になったのか!絶対、何かあったはずなんじゃよ!アルバート自身に何かあったはずなんじゃよ!』

『あー、危ない!さがって!さがって!!』

『ここは、一旦、避難しましょう!危険過ぎます!一度、安全な場所まで移動したら、再び中継を繋ぎたいと思います!』

『アルバート!!』

『キエダ博士!危ない!』

『アルバート!!何で!?何でなんじゃあ!?』

『博士!!早く!!』

『アルバート…!!』

ーーー。

『…ねぇ、一つ聞いていい?アルバートは、何で私に声をかけたの?』

『リンが、泣いてたからだよ。』

『だって、ここに来るまでに、困ってる人なんて沢山いたでしょ?なのに、何で私を選んだのかなって不思議に思ったの。』

『いや、誰もいなかったよ。少なくとも僕が、ここに来るまでには、誰も、困ってる人はいなかったよ。リンが最初にみつけた子だったよ。』

『そう…。』

『リンは、トモダチがいないって言ってたね。』

『うん…。』

『じゃあ、今日から、僕がトモダチだね。』

『え…?』

『僕は、トモダチが泣いてるのなんて黙って見てられないよ。もう、二度とリンが泣かない様に、リンを助けてあげるね。』

『アルバート…。』

ーーー。

私は、一人…。ずーっと、一人。4歳のあの日から…。

『じゃあね、リンちゃん。お留守番お願いね!』

『リン、本当に一人で大丈夫か?』

『大丈夫だよ!私、もう年長さんだよ!お留守番ぐらい大丈夫だよ!』

『そっか!なら、お父さん安心だ!じゃあな!夜には、戻るからな!』

『うん!行ってらっしゃーい!』

それから、直ぐだった。警察から電話が来たのは。二人は、事故に巻き込まれ、二度と帰って来る事は無かった。

一人ぼっちになった私を、親戚は、誰も受け入れず、私は、そのまま施設に預けられた。小学校も中学校も塞ぎ込んでいた私は、ほとんど一人で過ごしていた。高校も、別にどっちでも良かった。でも、周りの大人たちが行けって言うから仕方なく…。案の定、2年生になった今、ほとんど行かなくなった。

そんな時だった。まさかの知らせが飛び込んで来たのは…。

『…あれ?もしかして、リンちゃんじゃない?』

『え?』

『やっぱり!私!分かる?同じクラスのユウ。』

『え、あ、ああ。ユウちゃん。』

『リンちゃん、全然、学校来ないから心配してたんだよ。』

『そう…。』

『なんで学校来ないの?何か、心配事があるんなら言って!助けになるよ!』

『あ、ありがとう…。でも、今更、学校なんか行っても手遅れだから。』

『そんな事ないよ!今からでも来なよ!大丈夫だから!私が守ってあげる!ね?』

『うん、ちょっと考えてみるね。』

『そう。分かった。リンちゃん、よく、この公園いるの?』

『うん。』

『じゃあ、また、ここ来るね!もっと、お話ししよ?昔みたいに!』

『昔…。う、うん…。』

ーーー。

『…ねぇ、聞いた?リンちゃんのお父さんとお母さん死んじゃったんだって。』

『え、ホント?かわいそう。』

『リンちゃん、大丈夫?』

『え?』

『何か困った事があったら言ってね!助けになるから!』

『ありがとう!ユウちゃん!』

ーーー。

『…ねぇ、あの子、何であんな暗いの?』

『ああ、リンちゃんね。あの子、両親死んじゃって施設から通ってるんだって。だから、あんまり関わらない方がいいよ。』

『そうなんだ。だから…!』

『だから、何なのよ!そんなの関係ないでしょ!?』

『ユウちゃん!』

『全く!だから、何なのよ!リンちゃん!そんなの気にする事ないからね!』

『ユウちゃん、ありがとう!』

ーーー。

『…なぁ、アイツ、何か気持ち悪くない?暗いし、全然、喋らないし、何なの?』

『ああ、アイツ、家族に捨てられて施設から通ってるんだってよ!』

『え、そうなの?だからか!』

『ねぇ、あんた達、高校生のくせに、いつまでそんな事言ってるの!?』

『うわっ!出た!お節介娘のユウ!』

『うるさい、コラ!』

『リンちゃん、あんなヤツら、相手にしちゃダメよ!何かあったら、とにかく私に言って!』

『ユウちゃん、ありがとう…。』

ーーー。

『…リンちゃん!いた!いた!良かった!』

『ユウちゃん。』

『どう?学校来る気になった?』

『うーん。正直、もう、良いかなって思ってる。』

『それ、どっち?行っても良いかなって事?』

『うーうん。逆。もう、行かないって事。』

『何で!?辞めるって事?辞めてどうすんの?』

『だって、どうせ、私は一人だし。もう、施設にいても迷惑かけるだけだから。早く、働いて自立した方がいいんだ。』

『でも、それは、別に今すぐじゃなくても良いでしょ?高校卒業してからだって遅くないじゃん!』

『うーん、この感覚だけは、誰に話しても分からないよ。私は、高校卒業なんて、どうでもいい。それよりも、今をどうにかしたい。』

『リンちゃん…。』

『ユウちゃんには、本当に感謝してる。昔から、本当に優しくしてくれて、いつでも私の味方でいてくれて、助けてくれて。だから、ユウちゃんにも、もう、これ以上、迷惑かけたくない。だから、私の事は、もう、ほっ…。』

『ほっとける訳ないでしょ!?もう!分かった!また、来るね!もう一回!もう一回、よく考えてみて!ね!学校、意外と楽しいもんだよ!じゃあね!』

『ユウちゃん…。』

ーーー。

(…今日、深夜未明、高校2年生のオバタユウさんと見られる遺体が発見されました。オバタさんは、自宅マンションの屋上から飛び降りたとみられています。遺書もある事から警察では自殺と断定し、捜査を進めている模様です。)

『え…?そんな、ユウちゃん?』

(遺書の内容から、どうやら、イジメを苦にしての自殺だったようですね。一体、いつまで、このような…。)

『イジメ…?なんで?なんで?なんで?ユウちゃんが?私を庇ってたから?私のせい?私のせいだ!私の…!』

何なの!?この世の中は!?何なのよ!おかしいよ!何で、ユウちゃんがイジメられなきゃいけないのよ!どうしてよ!私の味方は、みんな死んじゃうの!?

『ウゥッ…!』

『ねぇ、どうして君は泣いてるの?』

『…え?』

『僕に、何か出来る事ないかな?君の助けになりたいたんだ。』

いつもの公園で泣いてると、目の前に現れた、まさかの光景…。

『…え?え?な、何!?ロボット!?』

『僕の名前は、アルバート。困ってる人を助ける為に作られたロボットさ。だから、僕に話してよ。どうして泣いてるの?』

『人を助ける為に…?』

『そう。君は、泣いている。悲しい事があったからでしょ?だから、僕は、君を助けたい。』

『助けたいって何をしてくれるの?』

『何でも。君の助けになる事だったら。』

『…。』

本当に…?こんな汚いロボットに何が出来るの?でも、もう私には、このロボットしかいない。私の味方は、このロボットしかいない。

『…じゃあ、一つお願いしてもいい?』

『いいよ!』

ーーー。

『…一先ず、安全な場所まで避難して来ました!再び、中継を結びたいと思います!一体いつまでアルバートは、街を破壊し続けるつもりなのでしょうか!防衛軍の抵抗虚しく、もう、街はほとんど壊滅状態です!』

『アルバート…。』

『キエダ博士!どうにかアルバートを止める手立ては無いんですか?』

『それが出来てたら、とっくにやっとるさ。命令した本人が止めろと言うまで止まる事は…!そうじゃ!こんな事をするには、誰かの命令があったからのはずじゃ!アルバートに、こんな事を命令した本人を探すんじゃ!探して直ぐに、止めさせるんじゃ!』

ーーー。

リン。そろそろ良いかな。もう、ほとんど街は破壊したよ。誰一人、傷付ける事なく、街だけを破壊して行くには、そろそろ限界だ。

リン…。

『アルバート、ありがとう。もう、充分だよ。私の味方を奪った、お父さんとお母さんとユウちゃんを奪った街は、もう跡形も無い。もう、充分だよ。』

そっか。じゃあ、もう、これで目にゴミが入る事は無いね。僕の任務は完了だ。

『…ん?おい!アルバートの動きが止まったぞ!今だ!撃て!撃てぇー!』

『おーっと、どうしたんでしょうか!急にアルバートの動きが止まりました!ここぞとばかりに防衛軍が砲弾を撃ち込みます!キエダ博士!これは、一体何が起こったのでしょうか!?』

『アルバートの動力は、アルバートが助けたいと思った本人の命令じゃ!その本人が命令を解いたのじゃ!だから!だから!もう、止めてくれ!それ以上、砲弾を撃ち込むのは!もう、アルバートは、何もせん!何もせんから、もう、止めてくれ!』

『あーっと、どうしたんでしょうか!アルバートが小さくなりました!』

『だから!アルバートは、自分で自由に巨大化出来ると言ったろう!元に戻ったという事は、もう何もしないと言っているようなもんじゃ!だから、もう、止めてくれ!誰か、防衛軍に止めるよう言ってくれ!そして、わしを、アルバートの所まで連れて行ってくれ!』

ーーー。

『…リン、大丈夫?僕の体の中は、窮屈だったでしょ?リンは、もう、このまま逃げて。僕の近くにいたら、リンまで大変な事になっちゃう。』

『え?ヤダよ!お願いしたのは私だもん!私も一緒に…!』

『大丈夫!これが、僕の仕事だから。悪役は僕だけで充分だよ。』

『そんな…!』

『さぁ、早く…!』

『アルバート!!』

『わ!博士!』

『アルバート!お前、なんだってこんな事を…。わしは、お前をこんな…。』

『博士!僕は、困ってる子を助けたんだ。博士の願い通り、悲しみに暮れて困ってる子の望みを叶えたんだ。』

『アルバート…。』

『キエダ博士!』

『ん…?これは、防衛軍総帥殿。』

『博士、これだけの大騒動。死人は出なかったとは言え、街を壊滅させた、この罪は重いですぞ!ロボットは、所詮、ロボットだ!当然、開発者の責任は重い!分かりますな!?』

『もちろんじゃ。責任は取る。わしは、どんな罰でも受けるつもりじゃ。ただ、一つお願いしたい。』

『お願い?』

『アルバートは、何も悪くない。だから、アルバートの事は一切、問わないで頂きたい。そっとしといてあげて欲しいんじゃ。』

『んー、しかし…。これだけの悍ましい能力を潜めたロボットを野放しにしておくのは、余りにも危険すぎる。住民たちも安心できんだろ。』

『大丈夫じゃ。アルバートは、人を傷つけたりは絶対しない。本当に、誰よりも人の痛みを分かるヤツなんじゃ!だから、頼む!アルバートを、そっとしといてくれ!』

『しかしなぁ…。』

『なぁ、アルバート。もう、何もせんじゃろ?』

『僕は、困ってる人を助けるだけだよ。』

『うーむ…。』

『大丈夫。責任は、わしが取る。』

『分かった。しかし、この大騒動の後だ。一先ず、アルバートも一緒に来てもらう。』

『しかし、一体誰に、こんな命令をされたんじゃ…?』

ーーー。

(…先程、一連の騒動を巻き起こしたロボットのアルバートと開発者のキエダ博士が防衛軍によって連行されました。突如として現れ、街を壊滅させた、この一連の大事件。一体、何の目的でこんな事をしたのでしょうか。この番組では、今後も…。)

アルバートが連れて行かれた。私の為に街を破壊してくれたアルバートが大人たちに連れて行かれた。お願いしたのは私なのに。悪いのは私なのに。

アルバートは、何も悪くないのに…。

『…あの、アルバートに街を破壊するように命令したのは私です。』

『え…!?』

(…速報です!昨日、突如として街を破壊して回ったアルバート事件。そのアルバートに、街を破壊するよう命令したと16歳の高校2年生の少女が警察に現れました!)

『…なんだって、そんな命令を?』

『私、学校にも、ほとんど行ってなくて毎日一人でムシャクシャしてたんです。そんな時、アルバートに出会って、優しくしてくれたアルバートに甘えたんです。何でもしてくれるって言うから街をメチャクチャに破壊してってお願いしたんです。だから、悪いのは私なんです。アルバートは何も悪くないんです!アルバートを解放して下さい!』

『なるほど…。しかしなぁ…。』

(トントン!ガチャ…。)

『…どうぞ。こちらです。』

『すまんな、ありがとう。』

『キエダ博士!どうなさったのですか?』

『ああ、その子に、ちょっとな…。』

『え?』

『すまんが、二人きりにしてもらえないか?』

『わ、分かりました…。』

(ガチャ…。バタン!)

『…リン。分かるか?』

『え…?』

『ま、無理もない。リンに、おじいちゃんなど居ない事になってるからな。』

『え?え?おじいちゃん…?』

『今まで、すまんかったな。こんな訳の分からない物ばかり作り続けて、迷惑ばかりかけて来たお前のお母さんとお父さんに嫌われていたもんでな。わしは、居ない事になっていたんじゃ。』

『本当に?』

『ああ、正真正銘、お前のジイさんじゃ。リンよ。お前の事は、影ながらずっと見ていた。両親が亡くなってからも一緒に居てやれなくて、本当にすまなかったと思うとる。わしは、こんな生活じゃから、わしが引き取るより、施設に入れた方が、リンの為と思ったんじゃ。でも、それが結果的に孤独と闇を生んでしまったんじゃな。』

『おじいちゃん…。』

『アルバートは、そう、お前の為に作ったんじゃ。リンの孤独からの解放を願ってな。』

『え…?じゃ、じゃあ…。』

『さよう。アルバートが偶然を装って、公園にいたリンに声をかけたのも、リンが直ぐにアルバートに助けを求めるのも、全て仕組まれていた事なんじゃ。』

『そんな…!』

『正直に言おう。アルバートが街を破壊して回る事は、リンの願いじゃなく、わしが最初からアルバートの回路に組み込んでいたもんなんじゃ。全て、わしの支持なんじゃよ。アルバートには、あたかもリンを助けたかの様に、そういう風に演じるようにハナからインプットされていたんじゃ。』

『なんで!何でそんな事を?』

『リンのお母さんは、わしの娘じゃ。娘の命を奪ったこの街に恨みがあった。そう、全ては、わしの陰謀だったんじゃよ。全てをアルバートに任せ、なすり付け、ロボットの一時的な発狂だとメディアの前でも演じてな。』

『そんな…。じゃ、じゃあ、アルバートは…!』

『アルバートには、本当に申し訳ない事をした。何も悪くない、分かっていても決して歯向かわないアルバートを勝手に悪役にし、わしは、悲劇を憂う開発者を演じた。一つ予定外だったのは、リンが警察に名乗り出て来た事じゃ。わしは、このまま街を破壊した責任は、もちろん取るつもりでいたが、あくまでアルバートの常軌を逸した仕業だと同情の下の罪人となるつもりじゃった。じゃが…!』

『そんなのズルい!ズルいよ!おじいちゃん!アルバートがかわいそう!』

『その通りじゃ。勇気を持って名乗り出て来たリンにも申し訳なくてな。真実を話そうと決めたんじゃ。』

『おじいちゃん!アルバートは!?アルバートは、これからどうなるの!?』

『アルバートに意図的に組み込んだのは、街を破壊する事だけじゃ。それが終わったら、本当に心の優しいただのロボットじゃ。わしが居なくても一人で生活出来る。そう作られている。それと、アルバートは、リンの為に作ったもんじゃ。リンが好きにすると良い。アルバートは、いつでもリンを助けてくれる。』

『おじいちゃん…。』

『リンよ。今まで寂しい思いをさせてすまなかったな。これからは、アルバートと楽しく生きてくれ。』

『おじいちゃん!!』

ーーー。

(…大騒動を巻き起こしたアルバート事件。全ては、開発者であるキエダ博士の陰謀でした。人の、いや、ロボットの優しさに漬け込んだ実に許し難い話です。我々は今後、この様な…。)

『…ねぇ、アルバートは、本当に心の優しいロボットなの?』

『そうだよ。僕は、困ってる人を助けたい。』

『じゃあ、街が破壊されて困ってる人が沢山いるよ。助けなくていいの?』

『助けるよ。リンが命令してくれれば。』

『え?』

『博士は、リンの為に僕を作った。博士は、街を破壊する為に僕を動かした。僕は、全部知ってる。だけど全部、指示に従う。僕は、最初からインプットされてたから街を破壊した。でもリンは、何も知らない。それなのに、街を破壊してってお願いした。悲しい事があったから、辛い事があったから、それを生んだこの街を破壊してって僕にお願いした。』

『アルバート…。』

『大事な人を失くすって辛いよね。誰よりも、その気持ちが分かるリンが、大事な街を失くされて困ってる人を助けてあげて欲しいって僕に命令してよ。僕も博士が居なくなって寂しいんだ。』

『アルバート…。ウゥッ…。ゴメンね。困ってる人たちを助けてあげて。』

『うん!それが僕の仕事!』

ーーー。

(…皆さま、お分かりになりますでしょうか?先日、街を破壊したアルバートが再び巨大化し、防衛軍と共にガレキを除去し、街の再生に取り組んでいます!一体、何があったんでしょうか!これもキエダ博士の陰謀なのでしょうか?はたまた、また違う誰かの命令なのでしょうか?)

『アルバート!』

『リン!そこ、危ないよ!』

『ねぇ、私にも手伝わせて!』

『どうしたの?急に!』

『やっぱり、私も何かせずには、いられないよ。』

『じゃあ、こっち来て!』

『え?うん。』

『はい。僕の肩の上に乗って!』

『え…?』

『どう、見える?』

『うん…。』

『破壊された街。』

『うん…。』

『これを再生するには時間がかかるね。』

『うん…。ウゥッ…!』

『ねぇ、どうして君は泣いてるの?』

『アルバート…。』

『僕に、何か出来る事ないかな?君の助けになりたいたんだ。』

                                              ー完ー
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