俺が異世界転移して帰ってくるまでの話

usako

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俺が異世界転移して帰って来るまでの話 1

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気が付つけば石壁の部屋の中にいた。

狭い。俺の実家の6畳の部屋くらいか。やけに高い天井にはステンドグラスがはめ込まれている。教会か何かか…?さっきまで夜だったはずなのに、差し込む光は明るい。


牛乳が切れたので、コンビニに行こうとしていた。

俺は親友の水野とは違って、コーヒーはブラックではなくカフェオレ派だ。「お子ちゃまだなぁ」と言われようが、牛乳は必須だ。飲まないという選択肢はない。ブラックが飲めな…いや、口に合わないだけで、コーヒーは好きなのだ。明日の朝のために、今のうちに買い足しておかなければ。

歩いて1分のコンビニだから明日の朝行ってもいいのだが、俺はできる事はさっさと済ませておきたいのだ。

俺は夏休みの宿題は、取っておかずに7月中に終わらせたい派だ。

なんなら、学期末テスト後3日に渡って開かれる全校球技大会の空き時間中に、半分は終わらせておきたい派だ。バスケ部レギュラーの水野と違って、俺はどうせいつも卓球で初戦敗退…いや、勉強時間確保の為わざと、そう、わざと早く終わらせ、宿題の時間に当てていたのだ。

俺は先の憂いはさっさと晴らしておきたい派なのだ。

なぜなら、いつ姉ちゃんに使いっ走りにされるか分からないからだ。

奴は俺の予定なんか考慮しちゃくれない。キレイな顔をしているくせに、いつだって奴は女王様で理不尽だ。

反抗したこともあったが、後で手酷く泣かされる羽目に…いや、そう、やはり年長者の言う事は聞くものだ。俺は長い物には巻かれる派なのだ。


そんなことより、現在の状況だ。

俺はコンビニに行こうとしていて、マンションのエレベーターに乗った。1階に着いて、あくびをしながら外に出たら、これだ。


後ろを振り返る。

木製の茶色いドアが閉まっていた。

クリーム色のエレベーターのドアじゃない。


「……。」


え…?

なんで…?

うちのマンションのエントランス、改装とかしてた…?


ぐるりと部屋の中を見回してみる。石の壁、茶色のドア、天井の幾何学模様のステンドグラス。


「……。」


え…?

何度考えても状況が掴めない。

なぜこんな見知らぬ場所に立っているのだろう。


「どこだここ…。ん?」


足元を見て、ハッとした。

もしやこれは、巷で大人気の、『異世界召喚』というやつでは…?だって、俺の立っている場所、足の下に、薄ぼんやりと光る、円の中に星やら読めないが文字っぽいものやらが散りばめられた、いわゆる魔法陣が描かれていたのだ。


俺は、流行りには無理せず乗る派だ。

タピオカだってレモネードだって、流行り初めに姉ちゃんに買ってこいと言われて俺もついでに水野と並んで飲んだしこの映画が流行っていると言われれば、水野と一緒に映画館に観に行った。

この漫画やアニメが流行っていると言われれば、貸してくれるままに本を読みBDを観る。このゲーム一緒にやろうぜと言われればダウンロードし、一緒に討伐に出かける。

俺は流行っていると言われれば取り敢えず手を出す派だ。まぁ、大体が姉ちゃんか水野に言われてなのだが。

因みに今ではスマホで漫画を読むのが俺の趣味だ。俺は二十歳の男子大学生だが、少年漫画も少女漫画も嗜む派だ。


と、そんなことは置いておいて、そう、巷では、交通事故に遭ったり通り魔に刺されたりして死んだ後異世界に転生するとか、突然足元に魔法陣が現れて異世界へ召喚されるという物語が流行っているのだ。


何を隠そうこの俺、かつては厨二病を患っていた。

あの頃は、左手が疼いたり左目の魔眼が開眼したり宇宙人との交信を図ってみたりと、何かと忙しかった。

あの時、俺の奇怪な行動を見ても引かず、その全てに付き合ってくれた水野には感謝してもし足りない。

し足りないが欲を言えば、俺の左手が疼いた時「そうなんだ、大変だね」と言ったり、魔眼が開眼した時「そうか、すごいな」と言ったりして受け入れてくれるより、「馬鹿なこと言ってないで勉強しろよ」と窘めてくれていた方が、俺の『黒歴史大全集』(厚さ5センチ)は『黒歴史の思ひ出』(厚さ1センチ)くらいで済んだのではないだろうか。まぁ、同い年なんだからそんな事できるはずはないのだが。

…ん?

そういえば水野は、宇宙人と交信する時こそ一緒に屋上に忍び込んではくれたが、どこかが疼いたり望まぬ力に目覚めてしまったりした様子は無かったな…。

え?ってことは厨二病発症してたの俺だけ?うそ、いつも一緒に遊んでくれてた水野は正気だったってこと?

にこにこと俺の前世(魔王軍第3隊長)の話を聞いてくれた水野が?左手に加えてついには左足も疼き出した俺の背中をそっとさすってくれた水野が?

……。

どうしよう。今頃になって、最大の黒歴史に気付いてしまったぞ。

水野…。お前絶対面白がっていやがったな!

そうだよ!よく考えれば、小学生の時からいつも飄々としているツッコミ属性の水野が、あんなニコニコ顔で「そうかそうか、うんうん」なんて話聞くわけねぇよ!ちくしょう、弄ばれた(泣)!


ま、まぁいい…。過去の話は置いておいて、元々そんな素養があったので、異世界ファンタジー系の漫画はよく読んだ。スライムになったり聖女になったり勇者になったり、ゲームの世界の登場人物になったりなんてのもあったな。


まさか、俺もそのクチか…?


手のひらを見てみる。いつもの俺の手だ。服も…出かけた時と変わってない。スマホも財布もジーンズの尻ポケットに入っている。知らない内に死んだ訳ではないようだ。

ということは、やはり召喚されたのか。あの時あくびをした瞬間に。

何でよりによってそんなタイミングなんだ。せっかく召喚されたのなら、ちゃんとその瞬間を見たかった。

昔からそういうところあるんだよな…。

サッカーの国際試合をテレビで観てて、ちょっとトイレに行った隙に得点してたり、年末テレビを観てたら寝落ちてハッとしたらもう年が明けてたり。一緒にいた水野は普通にテレビ見てたし。カウントダウンの時くらい起こしてくれよ!


まぁ、いい。とにかく召喚されたわけだ。

それにしては場所が…。

俺の読んだ本では、召喚されたら周りに王族やら魔法使いやらがズラーっといて、「救世主よ、この世界を魔物の脅威からお救い下さい!」とか言ってお願いされるパターンが多かったんだが…。

誰もいないし、来る気配もない。

突っ立っている間に、足元の魔法陣も消えてしまった。


「えぇ~…。」


どうすりゃいいの?

まぁ、確かに世界を救ってくれとか言われても、しがない男子大学生の俺にはこれと言った特技もなければ身体能力も頭脳も普通だ。異世界ファンタジーにありがちなチート能力に目覚めた感じも全くない。

色々考えても埒があかないな。もちろんスマホも圏外だ。とりあえず、ここから出るか。


木のドアに近づき、恐る恐る取っ手を回してみる。


「……えっ。」


回らない!外から鍵が掛かってる!?閉じ込められてる!

出られると思ったのに出られず、パニックになって取っ手をガチャガチャいじる。

すると突然、コンコンとドアがノックされた。


「うぉっ!?」


のけ反り、勢い余って尻もちをついてしまった。

カシャンと鍵の開く音が聞こえ、ドアノブが回り、誰かがゆっくりと入ってくる。俺はそれをそろそろと後ろに下がりつつ見守った。

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