capriccio

月季花

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救出編

幕間-Interludio-

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 真衣の提案はこうだ。
 横穴に対して真衣の謡による音で距離などを測って行く、ひとまず地上に出ないことにはどうしようもないと云う意見に暗乃も鼓も賛同した。
 走って疲れた身体を少し休めて真衣たちは立ち上がり地上に向かって歩き始める。
 暗乃の松明は強い風にも負けず光っているが暗乃の得意属性なのだと云う言葉に真衣は納得した。
 ごつごつとした岩肌に地下水が漏れ出た足場は歩きづらく、真衣の体力も奪って行く。一つ目の横穴には反響が続き出口がないもので、その後も出口になりそうでも狭い通路に阻まれたりと真衣は冷たい岩に手をつくころにはわずかに見えていた地上の光も見えなくなっていた。
 鼓からの提案で休憩を挟むが岩の座り心地はけして良くない。
 足を摩りながらいつものように少し元気になれる謡を紡ぐ。
 少し前までこんなにも歩かなかった足は肉刺が出来ているがその度に回復するのでは暗乃に迷惑だと、真衣が自分で断りを入れている。
 少し湿らせた布で足を拭う。
 この程度ならばまだ歩ける。
 処置を終えた真衣が戻ると暗乃がいつものようにスープを用意していた、真衣の口には慣れない薬草が使われた飲みやすく、曰く昔薬草に詳しい人物に聞いた精力が付くものなのだとか。
 それともう慣れたもので干し肉を咀嚼し腹を満たす。
 鼓がそれでは足りないのではないかと買い込んでいたらしい乾燥させた小麦を取り出す、質素な夕飯に真衣はそれでも無味無臭に感じていたアルカディアの豪華な食事よりも満足だった。
 旅が終わった時には故郷の味でも暗乃に振る舞うのもいいのかもしれない。
 問題は真衣が包丁を一切握れないことだが、それは誰かに頼もう。
 未来を考えることはこんなにも楽しいのかと少し微笑んだ。

──胃が拒絶をする、気持ちが悪い。
 何でもないふりをしなければ。
 あれは嘘ではない、けれど本当でもない。
 胃を空にしながらバレていないかと見回すが問題はないようで、安心して元の場所に戻る。
 眠りににくい場所だろうに寝息を立てる真衣を見て、苦笑して見せた。

 寝起きはけして良くないが謎の満足感があったと真衣は背伸びをする。
 就寝の際は暗乃が魔除けの結界を張ってくれる、そこに鼓と暗乃が交代で寝ずの番をすると云うものなのだが今回は聖霊の住処ともあり皆睡眠を取ろうと云う流れになったのも、真衣の精神面ではありがたかった。
 朝食を摂り再び岩場を進む。
 しばらく進めばまた横穴があり真衣は謡で先を確認する。風の音がするが謡の反響は真衣には聴こえている。
 これも初めて知ったのだが鼓や暗乃のはその反響は聴こえないらしい。
 音の反響を聴き真衣は頷く、進めると云うことだ。
 先頭に暗乃が立ち、それに続いて行く。
 その先には更に穴が続き斜面があり、今度こそ出口なのではないだろうかと云う場所に来て暗乃が足を止めた。
 また狭い通路だろうかと訝しむ真衣に暗乃が手招きをして見せる、鼓も一緒にと云うように二人を呼び寄せた暗乃は松明を消して見せる。
 いったいどうしたのか暗闇の中暗乃を見上げると、ぽうっと先に光が浮かび上がる。
 それも一つではないまるで昔故郷で見た蛍のようなそれよりも広範囲で優しい光。

「聖霊たちが集まっているんだ」
「聖霊が?」
「なかなか見れない光景だよ」

 そこに存るのだとしても真衣には光しか見えない。
 それでもこの光景と場所を提供してくれたことに真衣は聖霊たちに心の中で感謝した。
 すると真衣の周りに光が集まりまるで喜んでいるかのように一周すると、更に先を照らして見せた。

「先に出口があるのかもしれない」

 その光を頼りに真衣たちは歩き始めた。

  ※

 少し前まで時は巻き戻る。
 今現在カナン王国では重要課題が山積みとなっている。
 昨今の魔物の凶暴化、先の大戦の後処理、宗教間の対立。
 それに加えて消えた皇女の居場所が突き止められたともあればやることは増えるものだ。
 何しろ大戦も彼女の為に起きたと云っても過言ではないからだ。
 王が何をそんなに必死になっているのかとシャイタンは尋ねたことがあった、昔護衛任務にとリーウェンにまで連れ添ったことがある。
 カナンの中央都市ように栄華を誇る見た目ではなかったがどこか風情のある光景だったと記憶している。
 その時に時の皇帝の後ろに隠れていた皇女を見たことがあった。大戦が始まる前の記憶はそれしかない。
 そもそも一介の兵士に過ぎないシャイタンがその姿を見ることだって、カナンでは考えられないようなことだった。
 あまりにも争いとは無関係そうな国。
 故にカナンとの大戦で滅びたのだ。
 シャイタンの疑問に王は答えた。

「質問の意図が分からぬ」

 十騎士はカナン王の為の兵だ。
 この国の守護は兵の役目で、十騎士はカナン王の為に動くものだとその時再認識させられた。
 考えるだけダメなのだ。
 あの風景を壊すのは勿体なく、自分の子であっても可笑しくない娘の為にこんなにもたくさんの死人が出た。だとしても十騎士であり今ではそのトップともなろう男が王の命に何か悩むなどあってはならないことだった。
 最初は偶然の発見だった仕方のないことだと失望を顔ににじませ王は云った。次もまた偶然ではあったがその場にいた十騎士はけして油断していた訳ではないはずだ、レオナードに関しては思うところがあるがアブラクサスは十騎士としては優秀な兵だ。
 そして今回、どこから情報を入手したのか皇女が近くを通る可能性があるのだと話が上がった。
 検問所はない為、集められるだけの魔術兵を呼び仮の検問所を作った。それだけではない、風魔法を使い近くを通る生き物を感知出来るようにしていた。
 今度こそ問題はなかったはずなのだ。
 だが、“彼”がいた。
 冷静を保っていたが忘れもしないあの傭兵、シャイタンが過去に一度だけ膝を着いた男。その細身の身体からはあり得ない斬撃を飛ばしてくる彼は純血主義により追放されたと聞いていたが、こんなところで再会するとは思わなかった。
 飛竜を飛ばし王への報告をどうするべきか悩むシャイタンの野営テントに誰かが入って来る。
 振り返るとそこには赤いマントに赤いフード、べリアルがにやにやと立ってシャイタンに手を振って見せる。

「天下のシャイタンさまが皇女さま逃がしたんだってェ?」
「……、弁明のしようもない」
「おや、素直。王が怒りで倒れないと良いねェ」
「不謹慎だぞ貴様、何用だ」
「新しい情報だってさァ」

 べリアルは反対の手で持っていた紙をペラペラと動かして見せる。それに近づき奪い取るように中身を見れば皇女が生きていることが記載されていた。
 それに安堵したのも束の間、はっとしてべリアルを見る。

「この情報はどこからだ」
「そりゃァ、いつも通りクォンさまさァ」

 にやにやの三日月の口が更に弧を描くのがわかる。
 クォン、その名前にシャイタンが目じりをぴくっと動かすのを見逃していないべリアルは覗き込むようにシャイタンの顔を見る。

「まァ、今までに嘘の情報はないんだしィ?今回も間違いはないだろうねェ」
「王はッ、何をお考えなのか……ッ!」

 シャイタンはそう小さく憎々しいとでも云うように呟いた。
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