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救出編
幕間-Interludio-
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──王都、ヴィルトゥ。
カナンで最も栄えた街、王の座す場所。
そこの城下に澄んだ金髪の少年が歩いていた。
眸もまた美しいまでの青玉でそれが表すのはこの国の正統後継者である証だ。
本来ならばそのような場所にいることも似つかわしくない人物。
だが今の荒れたヴィルトゥではその少年に気を掛ける者も多くはない。
少年はしばらく歩いた後、一つの建物へと入って行った。
そこは小さな装飾店だった。
少年が来たことを確認すると店主が少年を奥の部屋に通す、少年はこの店の常連なのだろう。
部屋に入った少年を別の男性が立って出迎える。
「アルス王子、出歩く時は誰かしらを着けてと俺云いましたよね?」
「信頼出来る部下が今はお前しかいないんだ、わかってるだろうレガート」
アルス、この国のたった一人の王子。それが少年の立場だった。
そしてそんなアルスの懐刀とも云うべきがこの部屋で待っていたもう一人の男レガートだ。
そんな二人が王城ではなくこのような場所で密会するには理由がある。
今現在のカナンは荒れていると云うのは云うまでもないことだ。
王の暴走だと云われた先の大戦、白髪信仰による現代に蘇る神と云う宗教攪乱、大戦による人手不足と孤児の増加、目の色への差別と偏見、そしてあの大戦の原因となった皇女が見つかったと云うのだから国王の関心はそちらに向いた。
とは云え一国を支えて来た王だ、国内の必要な治世は行われている。
先日もこの国の財源の一つである水の都に十騎士を派遣しその騒動を鎮めたばかりだ。
その裏で皇女の姿があったことは一部の人間しか知らないが。
「皇女殿とは接触出来たのか?」
「それがちょうど接触しようとしたタイミングで逃げられまして、レオナードなんか大荒れでしたよ、死人が出るんじゃないかってひやっとしましたね」
ラコルーニャで皇女を逃がしたことは既に把握済だ、レオナードが意気揚々と伝書を寄越して来るのだから何かと思えばそのようなことで、あの野心家のことだ、十騎士の総長にでもなりたがっていたのだろう。
何が起きているのか探って欲しいとアルスから依頼を受けラコルーニャへと飛んでいたレガートもあの荒れ狂いようは思い出したくないと苦笑する。
「まあ、でもお綺麗なお人でしたよ」
「そうか」
「その後シャイタンが取り逃してからは依然と不明ですが、クォンが生きていると」
クォン、その名前が出た瞬間アルスの顔が強張る。
数年前から城に出入りするようになった仮面を着けた男はアルスにも話しかけて来ることがあるが素性も知れない、だが、アルスの父カナン王であるソロモンは彼の言葉を信じているかのように動いている。
そう、それこそがアルスが今このような場所にいる理由だった。
大戦の原因までも彼である根拠はないが数年間ソロモンの近くをうろついていることはシャイタンも知っていることだ、シャイタンはあくまで一介の騎士に過ぎない。王へ意見をすることなど出来なければアルスの言葉もソロモンはまともに取り合わない。
「お前にもいつかわかる」
それがお決まりの言葉になりつつあった。
何がわかると云うのか、国民を疲弊させ敵を作り国を滅ぼすことが正しいとでも云いたいのだろうかとアルスは言葉を飲みこんだ。
理知的で優しかった父は亡き母が死んだ時に共に死んでしまったと思うことにしている。
クォンの情報は正確なのも父が傾倒している理由だろう。
自分たちの信じる王が誰かの傀儡なのだと誰が信じるだろうか、アルスは息を吐くと再び口を開く。
「エルフからの怒りの書簡も届いている、女王は無事だが森を勝手に踏み荒らしたと」
「あれは不味かったですね、女王が皇女さまを匿ってるでしたっけ?結局証拠がないんだから、どうしようもない」
「橋の修復は行えたが、その理由は何だったんだろうな?」
この数週間で起きた出来事を二人で話しながらまとめて行く。
アルカディアで見つかった皇女、フルドの森への侵攻、ラコルーニャでの干ばつ、大橋の修復、そして検問所の作成。
皇女たちがリーウェンに向かっているのはわかるがその目的が不明なのだ。
現在のリーウェンはカナンの統治下にある、カナン兵も配置されているのだからどこへ向かおうとカナン兵と相対することは避けられない。
そもそも皇女を見付けた際に皇子も見つかっていた、べリアルからの報告でそれは間違いがないこともわかっている。
皇子はどこに行ったのか、べリアルは話さなかった。
「気にしなくていいんじゃないですかァ?」
いつものねっとりとした口調でそう笑うべリアルの背後には同じく赤いマントに身を包んだ人物がいた。新しい部下でも増えたのだろうかとその時は気にしなかったが、何かを隠されている気がしてならない。
だからこそアルスの従者であるレガートにあちらこちらと飛んで貰っているわけだがレガートの身分を以てしても十騎士の会話などを全て抜き取れるわけではない。
王子と云う身分柄この街を離れるわけにもいかないのが歯がゆいと云ったところだ。
レガートが土産だと買って来たラコルーニャの饅頭を頬張りアルスはレガートがまとめた宝石の中の書類を読んでいく。
ラコルーニャで反逆罪を企んでいた領主は斬首、その部下に渡るまで温情はないと云う記載には思わず顔を顰めるがこの絶対王政の国でそのようなことを考えたのがガラドアの運のつきだったのだろう。
そしてキャラバン隊への聞き込み、とは云え彼等は顧客への信用を何よりも重視する。
必要な情報であったとしてもすぐに話すわけではないだろう。
「そのキャラバン、デッグ団でしたっけ?街で見ましたけどすごかったですよ」
レガートがキャラバンの名前を覚えるのは珍しいことだ、アルスはその名前を記憶の片隅に置きながら報告書を読み終える。
「やはり、皇女が目指す先はわからないか」
「リーウェンに向かってはいそうですけどね、でもこの時期のシャンラン山脈はきついですよ。そんなことくらい、わかってそうなもんですけど」
そう云いレガートは窓の方に目をやる。
この時期のシャンラン山脈は慣れた兵士でも堪える、そんな中を皇女が果たして進めるのだろうかとでも云いたげな表情にアルスも頷かざるを得ない、
そもそもが飛竜か馬車で登るような山だ、皇女のような立場の人間が越せるわけがない。
仮にもし山脈を越えようとしているならば止めなければならないだろう。
アルスにそんな力はないのだけが悔やまれるが、それほどまでにあの山は過酷なのだ。
どうか無事でと願いながら密会は終わりを告げた。
カナンで最も栄えた街、王の座す場所。
そこの城下に澄んだ金髪の少年が歩いていた。
眸もまた美しいまでの青玉でそれが表すのはこの国の正統後継者である証だ。
本来ならばそのような場所にいることも似つかわしくない人物。
だが今の荒れたヴィルトゥではその少年に気を掛ける者も多くはない。
少年はしばらく歩いた後、一つの建物へと入って行った。
そこは小さな装飾店だった。
少年が来たことを確認すると店主が少年を奥の部屋に通す、少年はこの店の常連なのだろう。
部屋に入った少年を別の男性が立って出迎える。
「アルス王子、出歩く時は誰かしらを着けてと俺云いましたよね?」
「信頼出来る部下が今はお前しかいないんだ、わかってるだろうレガート」
アルス、この国のたった一人の王子。それが少年の立場だった。
そしてそんなアルスの懐刀とも云うべきがこの部屋で待っていたもう一人の男レガートだ。
そんな二人が王城ではなくこのような場所で密会するには理由がある。
今現在のカナンは荒れていると云うのは云うまでもないことだ。
王の暴走だと云われた先の大戦、白髪信仰による現代に蘇る神と云う宗教攪乱、大戦による人手不足と孤児の増加、目の色への差別と偏見、そしてあの大戦の原因となった皇女が見つかったと云うのだから国王の関心はそちらに向いた。
とは云え一国を支えて来た王だ、国内の必要な治世は行われている。
先日もこの国の財源の一つである水の都に十騎士を派遣しその騒動を鎮めたばかりだ。
その裏で皇女の姿があったことは一部の人間しか知らないが。
「皇女殿とは接触出来たのか?」
「それがちょうど接触しようとしたタイミングで逃げられまして、レオナードなんか大荒れでしたよ、死人が出るんじゃないかってひやっとしましたね」
ラコルーニャで皇女を逃がしたことは既に把握済だ、レオナードが意気揚々と伝書を寄越して来るのだから何かと思えばそのようなことで、あの野心家のことだ、十騎士の総長にでもなりたがっていたのだろう。
何が起きているのか探って欲しいとアルスから依頼を受けラコルーニャへと飛んでいたレガートもあの荒れ狂いようは思い出したくないと苦笑する。
「まあ、でもお綺麗なお人でしたよ」
「そうか」
「その後シャイタンが取り逃してからは依然と不明ですが、クォンが生きていると」
クォン、その名前が出た瞬間アルスの顔が強張る。
数年前から城に出入りするようになった仮面を着けた男はアルスにも話しかけて来ることがあるが素性も知れない、だが、アルスの父カナン王であるソロモンは彼の言葉を信じているかのように動いている。
そう、それこそがアルスが今このような場所にいる理由だった。
大戦の原因までも彼である根拠はないが数年間ソロモンの近くをうろついていることはシャイタンも知っていることだ、シャイタンはあくまで一介の騎士に過ぎない。王へ意見をすることなど出来なければアルスの言葉もソロモンはまともに取り合わない。
「お前にもいつかわかる」
それがお決まりの言葉になりつつあった。
何がわかると云うのか、国民を疲弊させ敵を作り国を滅ぼすことが正しいとでも云いたいのだろうかとアルスは言葉を飲みこんだ。
理知的で優しかった父は亡き母が死んだ時に共に死んでしまったと思うことにしている。
クォンの情報は正確なのも父が傾倒している理由だろう。
自分たちの信じる王が誰かの傀儡なのだと誰が信じるだろうか、アルスは息を吐くと再び口を開く。
「エルフからの怒りの書簡も届いている、女王は無事だが森を勝手に踏み荒らしたと」
「あれは不味かったですね、女王が皇女さまを匿ってるでしたっけ?結局証拠がないんだから、どうしようもない」
「橋の修復は行えたが、その理由は何だったんだろうな?」
この数週間で起きた出来事を二人で話しながらまとめて行く。
アルカディアで見つかった皇女、フルドの森への侵攻、ラコルーニャでの干ばつ、大橋の修復、そして検問所の作成。
皇女たちがリーウェンに向かっているのはわかるがその目的が不明なのだ。
現在のリーウェンはカナンの統治下にある、カナン兵も配置されているのだからどこへ向かおうとカナン兵と相対することは避けられない。
そもそも皇女を見付けた際に皇子も見つかっていた、べリアルからの報告でそれは間違いがないこともわかっている。
皇子はどこに行ったのか、べリアルは話さなかった。
「気にしなくていいんじゃないですかァ?」
いつものねっとりとした口調でそう笑うべリアルの背後には同じく赤いマントに身を包んだ人物がいた。新しい部下でも増えたのだろうかとその時は気にしなかったが、何かを隠されている気がしてならない。
だからこそアルスの従者であるレガートにあちらこちらと飛んで貰っているわけだがレガートの身分を以てしても十騎士の会話などを全て抜き取れるわけではない。
王子と云う身分柄この街を離れるわけにもいかないのが歯がゆいと云ったところだ。
レガートが土産だと買って来たラコルーニャの饅頭を頬張りアルスはレガートがまとめた宝石の中の書類を読んでいく。
ラコルーニャで反逆罪を企んでいた領主は斬首、その部下に渡るまで温情はないと云う記載には思わず顔を顰めるがこの絶対王政の国でそのようなことを考えたのがガラドアの運のつきだったのだろう。
そしてキャラバン隊への聞き込み、とは云え彼等は顧客への信用を何よりも重視する。
必要な情報であったとしてもすぐに話すわけではないだろう。
「そのキャラバン、デッグ団でしたっけ?街で見ましたけどすごかったですよ」
レガートがキャラバンの名前を覚えるのは珍しいことだ、アルスはその名前を記憶の片隅に置きながら報告書を読み終える。
「やはり、皇女が目指す先はわからないか」
「リーウェンに向かってはいそうですけどね、でもこの時期のシャンラン山脈はきついですよ。そんなことくらい、わかってそうなもんですけど」
そう云いレガートは窓の方に目をやる。
この時期のシャンラン山脈は慣れた兵士でも堪える、そんな中を皇女が果たして進めるのだろうかとでも云いたげな表情にアルスも頷かざるを得ない、
そもそもが飛竜か馬車で登るような山だ、皇女のような立場の人間が越せるわけがない。
仮にもし山脈を越えようとしているならば止めなければならないだろう。
アルスにそんな力はないのだけが悔やまれるが、それほどまでにあの山は過酷なのだ。
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