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1.プロローグ

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 異世界に行ったら勇者になって、世界を救い、姫と結婚をする。
 一般的な異世界物語はこんな感じだ。

 「これなら俺も出来るんじゃないか、否、いける気しかしない」

 この考えが初めの間違えだった。

 察しの通り、俺は冴えない引きこもりであり、ファンタジー脳である。
 目的のためなら大嫌いな光を浴びることさえ、いとわない。

 善は急げということなので、いかにも事故の多そうな路地でスタンバイして、子供が轢かれそうになるのを待った。

 要するに、「良いことをしたら異世界に行けるんじゃね?」という頭の湧いた考えだったわけだ。

 数十分後、神の悪戯のように転がったボールを追いかけて、子供がその道に飛び込んできたと同時に、トラックがこちらに向かって走ってきた。
 子供を押し返して、俺は見事轢かれたわけだ。
 意識が遠ざかり、徐々に光を失っていくのがわかった。



 しばらくするとよくわからない空間で目を覚ました。
 まあ、こういう空間に基本的に居るのは、あの人だろ。

「そうじゃよ、おぬしの考えてることもわかる、いかにも神々しい神様じゃよ」

 おっと、銀髪ロリ幼女という予想の斜め上をいったことは黙っておこう。

「聞こえてるんじゃって! 嫌でも耳に入るんじゃよ」

「まあここまで来たら転生はよ」

 神様は溜め息をついて、じっとこちらを見た。

「おぬしのぅ、死ぬまでの回想雑すぎじゃろうが! 家族への後悔の気持ちとか語らんかい!」

 神様は予想以上にメタいことを言ってきた。
 大体いろんな意味で思いつきでこうなっているわけだし、後悔なんてないわけだし。

「はよ、無双勇者はよ」

 とりあえず、明るい未来の為に神様を急かして、転生させてもらうことを急ぐことにした。

「その自分は転生されて当然という発想が凄いわ…そもそも未来って、一応死んどるんじゃぞ」

「主人公補正って知ってます?」

 今にも神様が殴りかかってきそうなので、とりあえず謝っておいた。
 そのあともくだらないやり取りは続いた。

「もういいわ! 転生先はふぁんたじーとやらで、勇者になりたいんじゃな」

 神様は案外物分かりのいい部分もあったようで、体感二時間くらいで承諾してくれた。

「これを飲め」

 差し出されたのは、おちょこに注がれた日本酒のようなものだった。

「これは清酒 黄泉還り というもので、この世界からワシの念じた世界まで行けるというものだ」

 成る程、蘇りと黄泉(この世界)から還ることを合わせてるってことか。
 おいおい、寒いオヤジギャクじゃあないですか。

「おいおい、聞こえてるって言ってんじゃろうが」

 神様を無視して、酒を一気飲みした。
 次の瞬間、俺の体は光に包まれ、だんだんと透けてきた。

「急に飲むでない! 全く説明もあまり出来んかった」

 神様は怒り気味であったが、少し寂しそうでもあった。

「ところでおぬし、名前を最後に聞いておきたいんじゃが」

 神様でも俺について知らないこともあるのだな。
 神様はなんでも知っているものだと、思い込んでいた。

「誠だ、来栖 誠。それ以上でも以下でもない」

 神様はクスクスと笑って、俺の頭を撫でた。
 精一杯背伸びをしていて、辛そうなのは分かったが、あまりの安心感に身を任せてしまった。

「最後にじゃ…おぬしの家族はちゃんと悲しんでおる。死を軽くみすぎるな、誠は何も失わなくとも、周りの人間はおぬしを失うのだからな」

 あまりにも臭いセリフを盛大に笑ってやろうとしたが、そのとき出たのは涙だった。
 自分への後悔、家族への罪悪感、全てが一気にのしかかった。

 そして気づいた、死にたいわけじゃなかったんだと。
 ただ、優しさが欲しかっただけなんだと。

「もう…遅いよな」

「そうじゃな、次の世界ではせいぜい間違えるなよ」

 神様は優しく俺を抱きしめた。
 もう体は半透明で、いまにも消えてしまいそうだった。

 この後悔を胸に俺は、次の世界を生きていくことを決めた。

「ありがとう、神様」
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