六畳間笑涙外交録(ろくじょうま しょうるい ぎょうこうろく) ― ツッコミ士と幽霊姫が“笑い”で世界を救う物語 ―

あき

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第3話:学校に幽霊、そしてバイトテロ並みの文化祭計画

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 翌日。
 僕は朝から落ち着かなかった。理由は単純――。

「おはよう、兵よ!」

 登校途中の電柱の影から、織田信子が顔を出したからである。

「おいぃぃ!? マジで来たの!?」
「当然じゃ。そなたの学舎、偵察に参った! ふむ……制服の者どもが多いのう。兵装が統一されておる」
「それ制服! 軍服じゃないの!」

 校門を通る僕と並んで歩く(浮く)幽霊。誰も気づかない。そりゃそうだ。透けてる。
 けど僕にとってはめちゃくちゃ存在感ある。主に心拍数的に。

「お主、なぜ額に汗を? 敵襲か?」
「違う、恥ずかしいんだよ! 一人で喋ってるように見えるから!」
「堂々とせよ! 兵の威は声に宿る!」
「だから声デカいって!」

 すでに数人のクラスメイトがこっちをチラチラ見ている。完全に「朝から独り言ヤバい奴」扱いだ。

 教室に着いても落ち着かない。
 机に鞄を置くと、信子がふわりと浮いて隣の席に腰を下ろした(座ってる風)。
「ここが戦場か。なるほど、机が塹壕のようじゃな」
「授業中にそんな例えしないでね」
「お主、此度の“文化祭”なる戦に備えねばならぬぞ」
「戦じゃなくてイベント!」

 そこへクラスメイトの女子、藤堂(とうどう)紗英が話しかけてきた。
「日向くん、今日文化祭委員だよね? 放課後、作戦会議あるから遅れないでね」
「あ、うん! 作戦会議、了解!」
「作戦?」
「いや違っ、打ち合わせ!」

 信子の目がきらりと光る。
「ふむ、戦前の作戦会議か……わらわも参加する!」
「しなくていい!」
「しなければ勝利は遠いぞ!」
「勝たなくていいの! 文化祭は平和なイベントだから!」

 授業が始まり、先生が黒板にチョークを走らせる。
 信子は黒板の前をうろつき、何やら感心したように言った。
「この“黒き板”……情報を記す兵具か?」
「授業の邪魔すんな!」
「ならば、そなたのノートに記すがよい。ここは“兵法”の時間であろう?」
「違う、数学!」
「戦(いくさ)の数を学ぶのじゃな!」
「まぁ間違ってはないけど違うんだよ!」

 僕は終始ツッコミで疲労が蓄積した。
 そして放課後。文化祭委員の会議室――。

「で、テーマは“歴史カフェ”に決まりましたー!」

 紗英が手を叩くと、クラスの委員たちがどよめいた。
 よりによって“歴史カフェ”。タイムリーすぎる。
「戦国時代の格好して接客とか楽しそうじゃん!」
 ああ、終わった。絶対信子が――

「聞いたか兵よ! 我の出番じゃ!」
「出番じゃない! 潜伏してて!」
「潜伏? いや、堂々と名乗りを上げるが道理!」
「やめろ! この時代じゃ、戦国武将コスプレは“目立つ人”扱いなの!」

 しかし彼女のテンションはもう止まらなかった。
「では我が総指揮官として采配を振るおう! 装飾は金屏風、音楽は陣太鼓、そして飲み物は――」
「抹茶ラテでいいよ!」
「そんな軟弱な……!」
「客層考えて!」

 僕は必死に信子の声を無視しつつ、ノートに“金屏風NG”と書き込んだ。
 紗英が僕を見て首をかしげる。
「日向くん、誰と喋ってるの?」
「い、いや、独り言! 頭の中の軍師と会話してるだけ!」
「……最近疲れてない?」
「うん、自覚はある!」

 会議が終わるころ、信子はすでに“出陣モード”に入っていた。
「そなた、これを見よ」
 机の上に、彼女が霊力で浮かせたスケッチブックが置かれていた。
 開くと、そこには手描きの文化祭ブース設計図。
 題して『戦国喫茶・天下布武亭』。

 見出しには大書で――“入国せよ、甘味の覇者たち”。
「なにこれ……キャッチコピー濃い!」
「客を惹きつけねば勝てぬゆえな!」
「カフェは戦じゃない!」

 だが、描かれた内装図は……意外といい。
 ちゃぶ台席に掛け軸風メニュー、着物姿のスタッフ。
 “歴史カフェ”としては完成度が高い。
「……なんか、普通に良いかも」
「ふふん。見たか、兵よ。わらわ、案外センスあるのじゃ」
「その自覚あったんだ……」

 信子は満足げに浮かび、僕の机の上を一周してから言った。
「決まりじゃな。この文化祭――いや、この“現代の陣”を制するのは我ら日向軍!」
「日向軍って僕だけ!」
「ゆえに一騎当千じゃ!」
「褒めてるけど無茶言ってる!」

 放課後の空がオレンジ色に染まり、校舎の窓に彼女の姿がうっすらと反射していた。
 その横顔は、どこか懐かしさを感じるほど綺麗だった。
 信子は静かに呟く。
「もしこの世に残る理由があるとすれば……それは、もう一度、誰かと戦いたかったからかもしれぬな」
 その一言が、胸に残った。
 彼女の戦は、もう剣ではなく、僕たちの“日常”の中にあるのかもしれない。

 ……その後。
 文化祭前日、僕の部屋のドアを叩く音がした。
「兵よ、加勢じゃ!」
 開けた瞬間、そこには――
 鎧姿の金髪幽霊が立っていた。

「我は上杉けい子。織田信子を止めに来た」
「もう来たぁ!? 幽霊二号!?」

 僕の胃が、また一段階レベルアップした気がした。
 信子の天下統一は、どうやら幽霊戦国時代を本格的に開幕させたらしい。

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