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今更、普通の女の子って草生える⑧

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「何…何か、不満があったのか…?聞くよ、試験勉強もひと段落ついたんだ。お前の気が済むまで何日だって、気晴らしの【新しい企画】に付き合ってやるし、あっちの世界での話も理解出来ない処は色々あるかもしれないけど、なんだって俺が受け止めるさ」


妹の形をした光が、心なし薄くなっている気がして。


「今までお前の、変化を受け入れられなくて…ごめん。だけど!」




『知ってる。─────はづ兄が急に別人みたいになって帰ってきた私を必死になって理解わかろうとしていてくれた事』

心に沁みる様な、その、声。
それが何故か、昔見たアニメの中の別れのシーンを思い出させて。
時が止まったかの様に、俺は睦月から目が離せなかった。

『責めている訳じゃ、なかったの。ただ、私は、私の中身ほんとうは変わってないんだ、そう思い込みたくて…な、ワケないのにね。魔法が使えて、それを人に使うのを躊躇ためらわない。それが元の陰キャのJKに戻れる筈もないのに。クラスメイトだってお兄にだってあっちで得た力に優越感に浸って、上から人を見下して、『しなくてもいい苦労した』なんていう気持ちの底に押し込んでいた醜い感情の捌け口にしたんだ。サイテーだね』

「…実際、苦労したんだろうお前は。性格が激変するくらいには」

目を僅かに見開いた睦月は花がほころぶ様に微笑った。

『ありがとう。はづ兄の、その真っ直ぐな性格が…好きだったよ。だからかな、この世界に戻りたいと、居場所が欲しい、と願ったのは』

好きだった。
なんで、なんで、過去形なんだ。

『こっちの世界にいた時だって居場所なんて、なかった。自分の部屋と学校を往復するだけの毎日。それがある日突然、いきなり極彩色の圧をかけて、世界丸ごとのし掛かってきて。私は押し潰されそうになったの。毎日、人が死んで、毎日人が柱の影で泣いている。あんまり気持ちの良いものじゃなかったよ。だって、。その時は何の力も無かったんだもん」


睦月は両の手のひらを見つめていて、俺は何かが零れ落ちる様を幻の中で感じていた。
それは、果たして喪われた命…だったのだろうか。

『誰も責めないから辛かった。でも、そんな気持ちは吐けなかった。たった一人、師匠ディグノだけがそれを真正面から受け止めてくれて、凄く嬉しくて。だけどそれが恣意的なモノだったなんて、追い詰められていた私が気付ける筈もなくて』
「うん」
『気付いたあの瞬間は、途轍もなく、辛くて』
「うん」
『なのに、全てが終わった今、御構い無しにあの男は追いかけ回して来るんだ。遂に【界】まで越えてきた。嬉しくて、許せなかった。あの人も、自分も』





見た事のない顔をした妹は、真剣な表情をして顔を上げた。





『だから、もう、終わらせる事にしたんよ』




「だから、何でそこに繋がる!!!!俺がいる、って」『分かってる』

その腕の位置は仄かに暖かかった。


『自分が一月生まれだから、睦月になった。兄妹と同じく意味のある名前を貰うくらいにも愛されていたんだって、ちゃんと、知ってたよ』






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