【完結】ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う

たちばな立花

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「そうですね。持ち帰りますか?」
「ええ、私が塔に入っているあいだ、馬車に積めるだけ積んでおいて」

 売らなくても、修道院で使ってもいい。快適な上に快適が重なることだろう。
 なんて最高なのかしら。

「おひとりで入るつもりですか?」
「ええ、もちろん。二人で入って何かあったら誰も助けられないでしょう?」
「でしたら私が入ります」
「だめよ。もし、わたしが戻ってこなかったら、あなたが考える最善の方法で、助けてくれればいいわ」

 わたしが助けるより確実だ。
 渋る執事を置いておいて、わたしは北の塔の入り口に向かった。
 入り口は魔導具で施錠されている。中からは開けられない仕様。こんな不気味な塔、誰も入らないからこうなっているのだろう。
 わたしは扉を開け、大きな石を置いて扉を固定した。閉まっちゃったら、中からは出られないから。
 上から獣の唸り声が聞こえた。
 その唸り声は人間のものとは思えなかった。けれど、こんなところに閉じ込められている獣が、ただの獣なわけがない。
 ハイリスクハイリターンというじゃない?
 わたしは塔の階段登った。

「ちょっと……後悔し始めているわ……」

 思わずわたしは呟いた。なんてことはない。塔の階段が長いせいだ。
 最近王都では魔導具で動く階段も発売された。
 ここはそれを導入したほうがいいと思うの。
 苦しそうな鳴き声を聞きながら、わたしは一歩一歩登って行った。
 登りきった先には鉄格子がハマった扉がある。
 声の主はその扉の先にいた。

「グルルルル……」
「あなたが王子様?」

 窓が閉まっているせいか、黒い影しか見えない。
 鎖に繋がれた獣にも見えるし、人間にも見える。
 扉の近くには丁寧に鍵がかけられていた。

「人間の言葉、わかる?」
「グルルルル……」
「こんなところにいたら、わからないわよね」

 ここに来たのは失敗だったかしら?
 でも、ここまで頑張って登ったのに、何も得られずに帰るのは癪よね。
 ぐーたらするための努力は惜しまないわたし。
 でも、それは努力の先にぐーたらが待っているとわかっているからよ!
 このまま努力をむだにするのは許せない。
 階段分の成果は貰わなければならないわ。わたしは鍵で扉を開けた。
 鎖に繋がれた男が暴れる。
 鎖同士がぶつかる音が石造りの塔の中で響いた。

「まずは王子様の顔を拝まないとね」

 イーサン殿下はそれなりのイケメンだったから、血縁者なら期待できるのではないかしら?
 わたしは固く閉じられた窓をこじ開ける。
 太陽の光が塔の中に入った。

 真っ黒な髪は腰まで伸びている。
 イケメンかどうか確認したくても、それは難しそう。
 彼は、両手両足を鎖で繋がれていた。それどころか、首も鎖で巻かれていて苦しそう。

「グルルルル……」
「王家もひどいことをするものね」

 狼の血を強く引いたからってこの扱いは、少々常識を逸脱しているように思える。
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