【完結】ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う

たちばな立花

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 執事はわたしのことをよく知っている。わたしが手紙を書くときは紅茶を飲みたいことも。

「さて、と」

 わたしだって、ただ逃げるばかりじゃないわ。
 わたしを追い出したこと、わたしの十年を無駄にしたことを後悔させてやるんだから。
 執事の入れた香りのいい紅茶を楽しみながら、さらさらと手紙を十通書いた。
 慌てて荷造りをして屋敷を飛び出してきたから、最近は働き詰めだわ。
 わたしは大きなあくびを一つした。

「今日はもう休まれては?」
「そうしようかしら?」

 手紙を書き終えたわたしは、着替えを済ませベッドへと転がる。
 やっぱりベッドは最高!
 わたしを包み込んでくれる布団がなによりの癒しだわ。
 すると、遠くから遠吠えが聞こえて来た。
 犬? 狼?

「ウォーーーン」
「狼がいるの?」
「この辺りは自然ばかりですから」
「一匹の声しか聞こえないわ。迷子かしら?」

 狼は群れで行動するものだと本で読んだことがある。
 一匹吠えれば、連なって聞こえるものではないか。
 まるで、一人寂しく泣いているように聞こえた。

「もしかしたら……」

 執事が言葉を濁す。

「なに?」
「いえ、昔噂を聞いたことがありまして。狼の血を強く受け継いだ王子が北の塔に幽閉されていると」
「そういえば……。そんな話、子どものころに聞いたわ」

 王族はかつて、狼の一族の血を引いていたといわれている。そうは言っても、千年くらい前の話で、今は普通の人間と何ら変わりない。
 ただ、時々狼の一族の血を濃く引いて生まれる子どもがいるのだとか。
 そして、そんな子どもは普通の人間には手に余る。だから、北の塔に幽閉するのだという。

「もし、その子が生きていたら、わたしと同じくらい?」

 わたしは窓の外を見た。
 森の奥に背の高い塔が見える。
 あれが、噂の北の塔。
 執事が小さく笑って言った。

「今、考えていることを当てて差し上げましょう」
「どうぞ」
「面白そうだから会いに行こう」

 執事の言葉にわたしは満面の笑みを見せた。

「正解」

 ◇◆◇

 北の修道院から北の塔はさほど遠くない。わたしの部屋の窓から見えるくらいだし。
 私は馬車に乗って向かった。

「ねえ、見て。魔石がごろごろ転がっているわ」
「本当ですね」

 魔石――それは、魔道具を使うための燃料だ。
 石にたまった力を使い、魔道具を動かす。
 大昔、世界には魔法使いがいたという。魔法使いは自由に水や火を操り、空も飛べたという。
 その力を誰でも使えるようにしたものが魔道具だ。
 魔法使いの力を必要にしない分、国中に広がった。
 魔法使いはいなくなってしまったけれど、魔道具は日々開発されている。
 魔道具が普及すれば普及するほど、魔石の需要は増えていた。

「これを売ったら当分遊んで暮らせるわね」
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