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艶やかな黒髪。腰まで伸びていた髪は短く切った。そうしたら、黒のヴェールの下から整った顔が現れたのだ。
陽にあたってないから色白だけれど、引き締まった肉体。
年はわたしと同じくらい? 少し年下にも見える。普通の生活をしていたわけではないから、正直見た目だけでは年齢は当てられなさそう。
本人に聞いても、一年という概念すら理解していない可能性がある。
まあ、そんなことはわたしにとってはどうでもよかった。
体力があってイケメンな人材が手に入ったのだもの。少し教育が必要なのは想定済みだわ。
「うう……」
彼は不服そうに短くなった髪に何度も触る。
わたしはほくそ笑んだ。
「いい買い物をしたわね」
買ったわけではないけれど。塔から連れ出したのだから、似たようなものだろう。
最高のできだ。
「ねえ、あなた名前なんていうの?」
「なまえ?」
「そう、名前。わたしはミランダ」
「ミラ……ンダ」
彼は何度もわたしの名前を言った。
「そう、ミランダ。あなたは?」
「……モノ」
彼は小さな声で言った。
聞こえなくて首を傾げる。
「聞こえなかった。もう一回」
「……バケモノ」
「それは……。多分、名前ではないわね」
バケモノ。そう呼ばれていたのだろう。
名前もつけてもらえなかったのかしら。
彼は難しそうに眉を寄せた。
「さすがにバケモノなんて呼びたくないし……」
名前を呼ばないで「殿下」って呼ぼうかしら? 噂を信じるならば、彼は王族の一人だろうから。
でも、一緒に暮らすのにそれは味気ないわね。
「なまえ、ほしい」
「わたしがつけてあげる。最初のプレゼントよ」
わたしは彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。見た目よりも柔らかい黒髪だ。
彼は目を細め、顔を歪めながらもわたしの手を受け入れた。
飼っていた犬に似ている。三年前に年老いて亡くなってしまった。
「オルト」
わたしは小さく呟いた。
「オルトはどう?」
「オルト……いい」
「よかった。じゃあ、今日からあなたはオルトよ」
オルトは何度も与えられた名前を口の中で反芻する。忘れないように、身体に刻みつけるようだった。
「お嬢様、失礼しま――……」
扉を叩き、執事が部屋に入ってくる。すると、オルトはわたしのうしろにしがみつき、隠れた。
「グルルル……」
警戒心強く、執事を睨む。そして、獣のような唸り声を上げた。
執事が肩をすくすめる。
「どうやら嫌われてしまったようです」
「慣れていないだけよ。すぐに慣れるわ」
「そうでしょうか?」
執事は苦笑を浮かべた。
◇◆◇
オルトが来てから、生活は快適だった。
陽にあたってないから色白だけれど、引き締まった肉体。
年はわたしと同じくらい? 少し年下にも見える。普通の生活をしていたわけではないから、正直見た目だけでは年齢は当てられなさそう。
本人に聞いても、一年という概念すら理解していない可能性がある。
まあ、そんなことはわたしにとってはどうでもよかった。
体力があってイケメンな人材が手に入ったのだもの。少し教育が必要なのは想定済みだわ。
「うう……」
彼は不服そうに短くなった髪に何度も触る。
わたしはほくそ笑んだ。
「いい買い物をしたわね」
買ったわけではないけれど。塔から連れ出したのだから、似たようなものだろう。
最高のできだ。
「ねえ、あなた名前なんていうの?」
「なまえ?」
「そう、名前。わたしはミランダ」
「ミラ……ンダ」
彼は何度もわたしの名前を言った。
「そう、ミランダ。あなたは?」
「……モノ」
彼は小さな声で言った。
聞こえなくて首を傾げる。
「聞こえなかった。もう一回」
「……バケモノ」
「それは……。多分、名前ではないわね」
バケモノ。そう呼ばれていたのだろう。
名前もつけてもらえなかったのかしら。
彼は難しそうに眉を寄せた。
「さすがにバケモノなんて呼びたくないし……」
名前を呼ばないで「殿下」って呼ぼうかしら? 噂を信じるならば、彼は王族の一人だろうから。
でも、一緒に暮らすのにそれは味気ないわね。
「なまえ、ほしい」
「わたしがつけてあげる。最初のプレゼントよ」
わたしは彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。見た目よりも柔らかい黒髪だ。
彼は目を細め、顔を歪めながらもわたしの手を受け入れた。
飼っていた犬に似ている。三年前に年老いて亡くなってしまった。
「オルト」
わたしは小さく呟いた。
「オルトはどう?」
「オルト……いい」
「よかった。じゃあ、今日からあなたはオルトよ」
オルトは何度も与えられた名前を口の中で反芻する。忘れないように、身体に刻みつけるようだった。
「お嬢様、失礼しま――……」
扉を叩き、執事が部屋に入ってくる。すると、オルトはわたしのうしろにしがみつき、隠れた。
「グルルル……」
警戒心強く、執事を睨む。そして、獣のような唸り声を上げた。
執事が肩をすくすめる。
「どうやら嫌われてしまったようです」
「慣れていないだけよ。すぐに慣れるわ」
「そうでしょうか?」
執事は苦笑を浮かべた。
◇◆◇
オルトが来てから、生活は快適だった。
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