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いつもならば、まどろみの中で起きるか起きないか、五回以上は悩んでから身体を上げる。
しかし、今日はそんな暇は与えてくれなかった。
オルトの唸り声が部屋中に響いていたから。
「グルルルル……」
「オルト、どうしたのよ?」
「音」
「音?」
わたしはふわりとあくびをして、窓の外を見る。
目の前に広がる光景に目を細めた。
馬車と兵の大群が修道院に向かってきている。
「あら。予定より早かったじゃない」
わたしが王都を去って、まだ一か月。
いつかこの日が来ることは予測していた。
一台の馬車の周りを兵が厳重に囲んでいる。
「オルト、あれは放っておいていいわ。相手にしていると時間を無駄にするから」
わたしはそれだけ言うと、もう一度ベッドの上に転がった。
ああ、眠りすぎて背中が痛い。
この痛みがまた最高なのよ。
オルトは何度か窓の外を気にしていたけれど、すぐに興味を失った。
馬の蹄の音が遠くに、聞こえる。それすらもわたしには子守歌のようだ。
うとうととしていると、足音が遠くから聞こえて来た。
そして、大きな音を立てて、扉が開いた。
「ミランダ・オロレイン! どういうつもりだ!」
怒号が部屋中に響いた。
「うるさいわ。少しは静かにできないのかしら?」
ベッドから起き上がる気にもならず、わたしはわずかに顔を上げただけで対応した。
それが、イーサン殿下の逆鱗に触れたのだろう。イーサン殿下は大股でまっすぐわたしの元まで歩くと、わたしの腕を掴んだ。
「婚約を破棄した相手に、なんのご用かしら?」
「言ったはずだ。君にはエミリアの補佐をしてもらうと」
「申し訳ございません。ご覧のとおり、婚約を破棄されたことを父に怒られ、修道院に入れられましたの」
イーサン殿下が顔を歪める。
正確には自ら進んで修道院に来たのだけれど、その辺はどうでもいい。
「しかも、王太子妃の周りで働く予定だった者たちが一斉に辞めた! 君の差し金だろう!?」
「あらあら。一介の令嬢にそんな力はありませんわよ」
みんな辞めてしまうと思っていたのよ? だって、わたしが見つけてきた人材だったから。
王太子妃となることが決まった十年前から、わたしの素晴らしきぐーたら生活への準備は始まっていた。
わたしの力なんてたかが知れている。だから、わたしはわたしよりも能力の高い人間を探すことに時間を割いたのだ。
書類整理に長けている者、計算能力の高い者、情報収集が得意な者……。
わたしって、人の才能を見抜くのは得意だったみたい。身分関係なく、能力のある人を採用していった。
すべては私の怠惰な王太子妃生活を送るために。
その計画が壊れて、みんなには手紙を書いておいたのよ。どうするかは自由だけど、王宮が嫌だったらいつでもいらっしゃいってね。
この様子だと、みんな辞めちゃったのかしら?
「おまえのせいで、母上にも怒られ散々だ!」
「あの可愛い彼女に頑張っていただけばいいじゃない? 王太子妃になると決めたのだから、それくらいの気合いはあるでしょう?」
わたしは何も悪いことはしていない。
しかし、今日はそんな暇は与えてくれなかった。
オルトの唸り声が部屋中に響いていたから。
「グルルルル……」
「オルト、どうしたのよ?」
「音」
「音?」
わたしはふわりとあくびをして、窓の外を見る。
目の前に広がる光景に目を細めた。
馬車と兵の大群が修道院に向かってきている。
「あら。予定より早かったじゃない」
わたしが王都を去って、まだ一か月。
いつかこの日が来ることは予測していた。
一台の馬車の周りを兵が厳重に囲んでいる。
「オルト、あれは放っておいていいわ。相手にしていると時間を無駄にするから」
わたしはそれだけ言うと、もう一度ベッドの上に転がった。
ああ、眠りすぎて背中が痛い。
この痛みがまた最高なのよ。
オルトは何度か窓の外を気にしていたけれど、すぐに興味を失った。
馬の蹄の音が遠くに、聞こえる。それすらもわたしには子守歌のようだ。
うとうととしていると、足音が遠くから聞こえて来た。
そして、大きな音を立てて、扉が開いた。
「ミランダ・オロレイン! どういうつもりだ!」
怒号が部屋中に響いた。
「うるさいわ。少しは静かにできないのかしら?」
ベッドから起き上がる気にもならず、わたしはわずかに顔を上げただけで対応した。
それが、イーサン殿下の逆鱗に触れたのだろう。イーサン殿下は大股でまっすぐわたしの元まで歩くと、わたしの腕を掴んだ。
「婚約を破棄した相手に、なんのご用かしら?」
「言ったはずだ。君にはエミリアの補佐をしてもらうと」
「申し訳ございません。ご覧のとおり、婚約を破棄されたことを父に怒られ、修道院に入れられましたの」
イーサン殿下が顔を歪める。
正確には自ら進んで修道院に来たのだけれど、その辺はどうでもいい。
「しかも、王太子妃の周りで働く予定だった者たちが一斉に辞めた! 君の差し金だろう!?」
「あらあら。一介の令嬢にそんな力はありませんわよ」
みんな辞めてしまうと思っていたのよ? だって、わたしが見つけてきた人材だったから。
王太子妃となることが決まった十年前から、わたしの素晴らしきぐーたら生活への準備は始まっていた。
わたしの力なんてたかが知れている。だから、わたしはわたしよりも能力の高い人間を探すことに時間を割いたのだ。
書類整理に長けている者、計算能力の高い者、情報収集が得意な者……。
わたしって、人の才能を見抜くのは得意だったみたい。身分関係なく、能力のある人を採用していった。
すべては私の怠惰な王太子妃生活を送るために。
その計画が壊れて、みんなには手紙を書いておいたのよ。どうするかは自由だけど、王宮が嫌だったらいつでもいらっしゃいってね。
この様子だと、みんな辞めちゃったのかしら?
「おまえのせいで、母上にも怒られ散々だ!」
「あの可愛い彼女に頑張っていただけばいいじゃない? 王太子妃になると決めたのだから、それくらいの気合いはあるでしょう?」
わたしは何も悪いことはしていない。
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