【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?

たちばな立花

文字の大きさ
5 / 75

05.男女の友情

しおりを挟む
「アウル」

 思わず名前を呼ぶ。アウルは小さく笑うと、マデリンから人一人分離れて並んだ。

「婚約おめでとう」
「ありがとう」
「何も知らなかった。決まったなら教えてくれればよかったのに」
「私も知らなかったから」

 マデリンは自嘲気味に笑う。
 そう。紹介される直前まで、相手はアウルだと思っていた。そう言ったら、彼は驚くだろうか。
 いや、それを言ったところで、何も変わらない。気まずさだけが残ることになる。
 アウルへの気持ちは十五歳のマデリンの中に置いてきた。だから、それを今更見せるつもりはない。

「落ち着いたらまた狩りに行こう。祖父が思い出話をしたいと言っている」
「狩り……」
「君がいないと張り合いがなくてつまらない。それに、君が勝ち逃げなんてずるいだろう?」

 いつもの彼だ。
 まるで山の中に来たような気持ちになる。

「残念ね。私、狩りは止めたの」
「なぜ? 好きだろ?」
「もう飽きたのよ。血生臭いし、汚れるでしょう?」

 マデリンはアウルから顔を背けた。
 これ以上彼の顔を見れば、涙がこぼれ落ちそうだったからだ。
「助けて」と縋りそうだったからだ。そんな格好悪いところは見せたくない。最後までアウルの中のマデリンは強い女性でいてほしかった。
 アウルはぽつりと呟いた。

「残念だな……」
「あなたもじゅうぶん遊んだでしょう?」
「そうだな。君がいないなら、社交くらいでいいかもしれない」
「なによ。私がいたから来ていたの?」

 マデリンはからかうように言った。

「ああ、マデリンは仲のいい友達だからな」
「友達ねぇ……」
「たくさん競い合った仲だろ? 狩りをやめてもそれは続く。そうだろう?」

 友達。
 今、新しくできた二人の関係性だ。
 今までの二人は狩りだけで繋がっていた。それがなくなったとき、二人の縁は完全に途絶えたと思ったのだ。
 しかし、彼は新しい形で残そうとしてくれている。
 マデリンは小さく笑った。

「男女の友情なんてあるわけないわ」

 マデリンの口から出た言葉はとても素直ではない。
 友達でもいい。彼との繋がりがほしい。そう、願っているというのに、素直ではない口は反対の言葉を口にする。

「そんなのわからない。じゃあ、賭けよう」
「賭け?」
「そう。死ぬまで私達が友情を育めたら私の勝ちだ」
「途中でだめになったら私の勝ちね。なら勝負あったようなものじゃない」

 マデリンが一方的に友情を終わらせればいい。

「やってみるまでわからないだろ? やるか?」
「ええ、いいわ。勝ったら何をくれる?」
「君がほしいもの」
「そう。楽しみだわ」
「じゃあ、これからよろしく。マデリン」

 アウルがマデリンに右手を差し出した。
 マデリンはどう返すべきか悩んでその手をジッと見つめる。

「友達はこういうとき、手を握り返すと思うんだが」
「わかったわよ」

 マデリンは言われるがままアウルの手を握った。
 彼の手を握るのは初めてだ。
 少しあたたかい。手から全身に温もりが伝わってくるようだった。

「困ったことがあったらいつでも相談してくれ」
「突然何?」
「いや、友達ってそういうものだろ? 私も何かあれば頼らせてもらう」
「もしかして、未来の公爵夫人との繋がりをつけたかっただけなんじゃないの?」

 マデリンの口は思ってもいないことを言う。
 嬉しいと素直に言えないのか。
 しかし、アウルは怒りもせずに笑った。

「いいな。公爵夫人になったら頼むよ」
「その時まで友情が続いていたらね」

 マデリンは素っ気ない態度で言うと、バルコニーから出た。
 まだ右手に彼の感触が残っている。
 あたたかい。このあたたかさをずっと求めていたのだと思う。

「こんなところにいたのか。心配したよ」

 ルイードが笑顔の仮面をつけたままマデリンに言った。

(興ざめだわ)

 せっかくいい気分に浸っていたのに。
 すぐに彼によってだめにされた気分だ。

「さあ、ダンスを踊ろう。ファーストダンスは婚約者の特権だろう?」

 そう言ってルイードはマデリンに手を差し出す。
 マデリンは断りの文句を考えたが、残念ながらいいアイディアは出てこなかった。
 デビュタントがダンスを一回も踊らないわけにはいかない。
 マデリンはしかたなく彼の手に自分の右手を乗せた。
 あたたかかった右手が瞬時に冷えていく。

(最悪)

 心の中で悪態をつく以外に、マデリンに出来ることはなかった。

 その数日後、アウル・ルートの婚約が発表された。

 ***

 そして五年の時を経た今も、マデリンはルイードの婚約者をしている。
 マデリンは猟銃店を訪れた。

「いらっしゃいませ」

 店主はにこやかに迎えてくれる。
 この五年、マデリンは一つも購入していない迷惑な客だというのに。

「今日も試しますか?」
「ええ、試すわ。端から」

 店主は呆れ顔をしながらも、「かしこまりました」と答えてくれる。
 だから、この店が好きだ。
 マデリンは端から猟銃を構えていく。肩にずっしりと重い。
 ひとりで一丁ずつ試していると、店主が尋ねた。

「お嬢様は何をお探しで?」

 この五年、マデリンは愛馬を失った。
 祖父から譲り受けた猟銃も売られてしまった。
 足を折られ、手をもがれた。そんな状態だ。それでも唯一の抵抗として、月に一度マデリンはここに来る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

処理中です...