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27.祖父の思い出
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アウルの祖父はスープを一口、口に含むと小さく息を吐く。
マデリンは思わず呟いた。
「そんな話、聞いたこともなかったわ」
思い返せば、「アウルはどうだ?」と聞かれたことはあったかもしれない。
けれど、核心に迫るようなことを言われたことはなかった。しかし、内心では期待していた部分はあったのだと思う。
祖父はアウルとの結婚話を進めているのではないか、と。
「二人で駆ける姿を見ながら『あの二人はお似合いだと思わないか』とよく言っていた」
「そうだったのですね」
「それだというのに、あいつときたら……」
アウルの祖父は再びため息をつく。
祖父は結局マデリンとアウルの婚約を決めはしなかった。そう、言いたいのだろう。
(多分、私のせいよね)
マデリンが素直にならなかったからだ。
もしも、あのときマデリンが素直な気持ちを祖父に伝えていたら、この五年間はまったく違うものになっていただろう。
今さら後悔しても遅い。
そして、結局マデリンはアウルの隣に立つことができている。
想像している形とは違うーーとても不安定な形ではあるけれど。
「もっとお祖父様のお話、聞かせてください。昔の話とか」
「昔か……。そんな昔話を聞いて楽しいか?」
「ええ、とても」
家族は祖父の話をしたがらない。
父が祖父を毛嫌いしているからだろう。
母や兄は父の顔色をうかがって生きている。
それから三人はアウルの祖父が満足するまで話をした。
何より、祖父のことを口にできることが幸せだ。家族なのに、屋敷では誰も祖父の話をしない。
誰もマデリンの話は聞いてくれない。
しかし、ここには二人もマデリンの話を聞いてくれる人がいる。それだけでじゅうぶんだった。
「長く話してしまったね」
「いえ、私も夢中になって話してしまいました」
アウルの祖父が嬉しそうに目を細める。
彼と話をしていると、祖父が戻ってきたような気持ちになった。
「若い二人を拘束し過ぎたな。せっかくだから、アウルのコレクションを見ていくといい」
「お祖父様っ!?」
今まで落ち着いていたアウルが、慌てたように立ち上がる。
マデリンは首を傾げた。
「コレクション?」
「ああ、聞いていないかい?」
「はい。あなた、何か集めているの?」
貴族には一つの物を夢中で集めるコレクターは多い。
絵画、宝石、壺、帽子、靴。そんな物を一所懸命に集めるのだ。
マデリンの祖父は猟銃を集めていたし、父は喫煙用のパイプを集めるのが趣味だ。
しかし、アウルにそういう趣味があるようには見えない。
いや、マデリンが知らないだけかもしれないが。
「せっかくだから見せてやればいい」
アウルの祖父は楽しそうに笑う。
「まだ心の準備が……」
アウルは小さな声でブツブツと呟くように言った。
俄然、興味が湧いた。
何をコレクションしているのだろうか。彼は何が好きなのか。
マデリンはあまりアウルのことを知らない。だから、知りたいと思った。
マデリンは満面の笑みを浮かべる。
「では、見せてもらってきます」
アウルの祖父は満足そうに何度も頷く。
「それがいい。ほら、アウル。案内してやりなさい」
アウルの祖父はまだ渋るアウルを、部屋の外へと追い出したのだ。
アウルとマデリンは並んで廊下を歩く。
「おじい様、お喋りなのは変わらないわね」
「ああ、悪いな。付き合わせて。いつもの三倍は話していた」
「別に気にしてないわ。お茶会よりもずっと楽しかったもの。でも、次は事前に教えて。手土産を用意したいから」
「悪い。今朝、急に思いついてさ」
アウルは恥ずかしそうに言った。
本当ならもっと怒りたいところだが、あまりたくさん怒る気になれないのは、ルート家の訪問が楽しかったからだろう。
「なら、私のお願いも聞いてくれる?」
マデリンは笑みを浮かべる。今なら誘える。そう、思った。
今日はずっと言い出すタイミングを伺っていた。馬車の中、美術館。けれど、勇気がでなかったのだ。
アウルは不思議そうに首を傾げながらも、頷く。
「私にできることなら」
マデリンは一枚の招待状を取り出した。
そして、アウルに差し出す。
心臓が早歩きになった。
「これに付き合ってほしいの」
「夜会?」
「そう、五日後だから無理にとは言わないわ」
心臓が駆け足になったせいが、マデリンの口調も早くなる。
アウルはわずかに驚いたように目を見開いたあと、小さく笑った。
「夜会嫌いなのに珍しいな」
「社交は大切よ」
「マデリンの言葉とは思えないが」
アウルは肩を揺らして笑った。
からかわれているようだ。
マデリンは頬を膨らませる。
「それで、来るの? 来ないの?」
また、いやな言い方になってしまった。
もっとうまい言い方があるはずなのに。
「行くよ。五日後は何も予定もないし、マデリン一人で行かせられないし」
「そう……。ありがとう」
マデリンは素っ気なく答える。小さくお礼を言うのがやっとだった。内心は跳びはねたいくらい嬉しいというのに。
安堵したと同時に、マデリンは急に恥ずかしくなった。
「それで、おじい様がおっしゃっていたコレクションのことだけど」
アウルがびくりと肩を跳ねさせる。
マデリンは思わず呟いた。
「そんな話、聞いたこともなかったわ」
思い返せば、「アウルはどうだ?」と聞かれたことはあったかもしれない。
けれど、核心に迫るようなことを言われたことはなかった。しかし、内心では期待していた部分はあったのだと思う。
祖父はアウルとの結婚話を進めているのではないか、と。
「二人で駆ける姿を見ながら『あの二人はお似合いだと思わないか』とよく言っていた」
「そうだったのですね」
「それだというのに、あいつときたら……」
アウルの祖父は再びため息をつく。
祖父は結局マデリンとアウルの婚約を決めはしなかった。そう、言いたいのだろう。
(多分、私のせいよね)
マデリンが素直にならなかったからだ。
もしも、あのときマデリンが素直な気持ちを祖父に伝えていたら、この五年間はまったく違うものになっていただろう。
今さら後悔しても遅い。
そして、結局マデリンはアウルの隣に立つことができている。
想像している形とは違うーーとても不安定な形ではあるけれど。
「もっとお祖父様のお話、聞かせてください。昔の話とか」
「昔か……。そんな昔話を聞いて楽しいか?」
「ええ、とても」
家族は祖父の話をしたがらない。
父が祖父を毛嫌いしているからだろう。
母や兄は父の顔色をうかがって生きている。
それから三人はアウルの祖父が満足するまで話をした。
何より、祖父のことを口にできることが幸せだ。家族なのに、屋敷では誰も祖父の話をしない。
誰もマデリンの話は聞いてくれない。
しかし、ここには二人もマデリンの話を聞いてくれる人がいる。それだけでじゅうぶんだった。
「長く話してしまったね」
「いえ、私も夢中になって話してしまいました」
アウルの祖父が嬉しそうに目を細める。
彼と話をしていると、祖父が戻ってきたような気持ちになった。
「若い二人を拘束し過ぎたな。せっかくだから、アウルのコレクションを見ていくといい」
「お祖父様っ!?」
今まで落ち着いていたアウルが、慌てたように立ち上がる。
マデリンは首を傾げた。
「コレクション?」
「ああ、聞いていないかい?」
「はい。あなた、何か集めているの?」
貴族には一つの物を夢中で集めるコレクターは多い。
絵画、宝石、壺、帽子、靴。そんな物を一所懸命に集めるのだ。
マデリンの祖父は猟銃を集めていたし、父は喫煙用のパイプを集めるのが趣味だ。
しかし、アウルにそういう趣味があるようには見えない。
いや、マデリンが知らないだけかもしれないが。
「せっかくだから見せてやればいい」
アウルの祖父は楽しそうに笑う。
「まだ心の準備が……」
アウルは小さな声でブツブツと呟くように言った。
俄然、興味が湧いた。
何をコレクションしているのだろうか。彼は何が好きなのか。
マデリンはあまりアウルのことを知らない。だから、知りたいと思った。
マデリンは満面の笑みを浮かべる。
「では、見せてもらってきます」
アウルの祖父は満足そうに何度も頷く。
「それがいい。ほら、アウル。案内してやりなさい」
アウルの祖父はまだ渋るアウルを、部屋の外へと追い出したのだ。
アウルとマデリンは並んで廊下を歩く。
「おじい様、お喋りなのは変わらないわね」
「ああ、悪いな。付き合わせて。いつもの三倍は話していた」
「別に気にしてないわ。お茶会よりもずっと楽しかったもの。でも、次は事前に教えて。手土産を用意したいから」
「悪い。今朝、急に思いついてさ」
アウルは恥ずかしそうに言った。
本当ならもっと怒りたいところだが、あまりたくさん怒る気になれないのは、ルート家の訪問が楽しかったからだろう。
「なら、私のお願いも聞いてくれる?」
マデリンは笑みを浮かべる。今なら誘える。そう、思った。
今日はずっと言い出すタイミングを伺っていた。馬車の中、美術館。けれど、勇気がでなかったのだ。
アウルは不思議そうに首を傾げながらも、頷く。
「私にできることなら」
マデリンは一枚の招待状を取り出した。
そして、アウルに差し出す。
心臓が早歩きになった。
「これに付き合ってほしいの」
「夜会?」
「そう、五日後だから無理にとは言わないわ」
心臓が駆け足になったせいが、マデリンの口調も早くなる。
アウルはわずかに驚いたように目を見開いたあと、小さく笑った。
「夜会嫌いなのに珍しいな」
「社交は大切よ」
「マデリンの言葉とは思えないが」
アウルは肩を揺らして笑った。
からかわれているようだ。
マデリンは頬を膨らませる。
「それで、来るの? 来ないの?」
また、いやな言い方になってしまった。
もっとうまい言い方があるはずなのに。
「行くよ。五日後は何も予定もないし、マデリン一人で行かせられないし」
「そう……。ありがとう」
マデリンは素っ気なく答える。小さくお礼を言うのがやっとだった。内心は跳びはねたいくらい嬉しいというのに。
安堵したと同時に、マデリンは急に恥ずかしくなった。
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アウルがびくりと肩を跳ねさせる。
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