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28.コレクション
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マデリンは小さく笑った。
「あなたがいやなら、見せなくてもいいわ」
コレクションというのは人に見せたものだと思っていた。
社交場でコレクション自慢をする人間は多い。ルイードの婚約者だったとき、興味のない話を延々とくり返す大人たちに相槌を打つのがマデリンの仕事だった。
しかし、この様子だと、アウルは見せたくない珍しいタイプなのだろう。
アウルの祖父の手前、乗り気になってみせたが、アウルがいやがることはしたくない。生涯秘密にしたいと言うのであれば、知らないふりをすることもやぶさかではなかった。
アウルはしばらくのあいだ逡巡したのち、マデリンをまっすぐ見つめる。
「いや、見せたくないわけじゃないんだ」
「そうなの?」
それにしては、歯切れが悪い。
「ただ、なんと言っていいか。君に笑われそうでさ」
「私が笑うような趣味なの?」
「どうかな?」
アウルは困ったように笑う。
(意味がわからないわ)
「あなたにどんな趣味があっても、笑わないわ。でも、秘密にしたいなら聞かない」
誰にでも秘密にしたいことはある。
マデリンにだってアウルに秘密にしていることがあるのだ。彼にはないと考えるほうがおかしいだろう。
「今日は帰りましょうか?」
マデリンはアウルの顔を覗き込んだ。
彼は眉尻を下げて笑う。
「いや、せっかくだから見せるよ。マデリンがよかったら、だけど」
「私は構わないわ」
アウルは覚悟を決めた、そんな表情で言った。
「なら、案内するよ」
アウルは少し早歩きでマデリンの前を歩く。
マデリンは慌てて彼の背を追いかける。
表情は見えない。
なぜか、マデリンの心臓が緊張で爆発しそうだ。
アウルは扉の前で立つ。
ここが彼のコレクションをしまっている部屋なのだろう。
アウルは何か言いたげに口を開いた。しかし、何も言わずに口を閉じる。
そして、鍵を開けるとゆっくりと扉を開いた。
「どうぞ」
アウルの言葉を受けて、マデリンは扉をくぐる。
マデリンは驚きに目を丸くした。
「これは……」
猟銃だ。
丁寧に何丁もの猟銃が並べられている。
しかし、どこか見たことがあった。
「これって……」
マデリンはアウルを見上げる。
アウルは少し照れたように頬を染めて頭を掻いた。
「マデリンのお祖父様のコレクションだよ」
「で、でもあれは全部お父様に捨てられたのよ!?」
五年前。すべて捨てられた。
あの日から祖父の存在は屋敷から消えてしまったのだ。
まるで、ずっといなかったかのようで、マデリンはずっと苦しかった。
「たまたま見つけて、懐かしかったから買い取ったんだ」
「たまたまって……。全部あるでしょ!?」
祖父の部屋で何度も見せてもらった。
狩猟大会のとき、マデリンがアウルから買い取った猟銃を抜いて、おそらくすべて。
そんな奇跡があるだろうか?
マデリンは手前にあった猟銃を撫でた。
祖父がお気に入りだと言っていたものだ。
「ずっと……持っていてくれたの?」
五年。
それは短いようで長い。
しかも、この五年間マデリンとアウルの関係はいつ切れるかわからないような関係だった。
友人。などと言えば聞こえはいいが、どちらかが望めば、二度と繋がることはなかっただろう。
「マデリンのお祖父様は私にとっても祖父みたいな人だからさ」
「馬鹿ね。ただの友人にこんなこと」
「ただのじゃない。特別な友人だ」
特別。
その言葉に胸が跳ねた。
「結婚したら、全部君にやるよ。だから、もう九割君の物みたいなものだな」
アウルは笑った。
どうしてこの人はこんなに優しいのだろうか。
なぜ、こんなことをしてくれるのだろうか。
マデリンには理解できなかった。
ただの友人。それが二人の関係だ。
結婚してもきっと変わらないだろう。
それは、マデリンが彼に提案したものだ。後悔はしていない。
「私は何も返せないわ」
「見返りを求めて持っていたわけじゃない。本当にたまたま、見つけただけで」
嘘だ。
これだけの数、たまたま見つけられるわけがない。
これのうちの幾つかであれば、アウルの言葉を信じただろう。
しかも、彼はマデリンの愛馬も救ってくれた。
彼の優しさに胸が締めつけられる。
「ありがとう。このお礼は必ずするわ」
「いいって。勝手にやっただけだし。少し、用事を済ませてくるから、ここで待っていてくれないか?」
「ええ」
アウルはマデリンの肩を優しく叩くと、部屋を出ていった。
扉が閉まる音が部屋に響く。
急に静まり返った部屋をマデリンは歩いた。
(お祖父様、ここにいたのね)
マデリンの瞳から涙がこぼれる。
もう、どこにもいないと思っていた。
父は祖父の物をほとんど捨ててしまったのだ。
そして、それを咎める人はあの屋敷には誰もいなかった。
しかし、マデリンが残しておきたかった祖父の魂がここにある。
それは奇跡のようだと思った。
マデリンは胸を押さえる。
(痛いわ……)
こんなに嬉しいのに、すごく苦しかった。
「あなたがいやなら、見せなくてもいいわ」
コレクションというのは人に見せたものだと思っていた。
社交場でコレクション自慢をする人間は多い。ルイードの婚約者だったとき、興味のない話を延々とくり返す大人たちに相槌を打つのがマデリンの仕事だった。
しかし、この様子だと、アウルは見せたくない珍しいタイプなのだろう。
アウルの祖父の手前、乗り気になってみせたが、アウルがいやがることはしたくない。生涯秘密にしたいと言うのであれば、知らないふりをすることもやぶさかではなかった。
アウルはしばらくのあいだ逡巡したのち、マデリンをまっすぐ見つめる。
「いや、見せたくないわけじゃないんだ」
「そうなの?」
それにしては、歯切れが悪い。
「ただ、なんと言っていいか。君に笑われそうでさ」
「私が笑うような趣味なの?」
「どうかな?」
アウルは困ったように笑う。
(意味がわからないわ)
「あなたにどんな趣味があっても、笑わないわ。でも、秘密にしたいなら聞かない」
誰にでも秘密にしたいことはある。
マデリンにだってアウルに秘密にしていることがあるのだ。彼にはないと考えるほうがおかしいだろう。
「今日は帰りましょうか?」
マデリンはアウルの顔を覗き込んだ。
彼は眉尻を下げて笑う。
「いや、せっかくだから見せるよ。マデリンがよかったら、だけど」
「私は構わないわ」
アウルは覚悟を決めた、そんな表情で言った。
「なら、案内するよ」
アウルは少し早歩きでマデリンの前を歩く。
マデリンは慌てて彼の背を追いかける。
表情は見えない。
なぜか、マデリンの心臓が緊張で爆発しそうだ。
アウルは扉の前で立つ。
ここが彼のコレクションをしまっている部屋なのだろう。
アウルは何か言いたげに口を開いた。しかし、何も言わずに口を閉じる。
そして、鍵を開けるとゆっくりと扉を開いた。
「どうぞ」
アウルの言葉を受けて、マデリンは扉をくぐる。
マデリンは驚きに目を丸くした。
「これは……」
猟銃だ。
丁寧に何丁もの猟銃が並べられている。
しかし、どこか見たことがあった。
「これって……」
マデリンはアウルを見上げる。
アウルは少し照れたように頬を染めて頭を掻いた。
「マデリンのお祖父様のコレクションだよ」
「で、でもあれは全部お父様に捨てられたのよ!?」
五年前。すべて捨てられた。
あの日から祖父の存在は屋敷から消えてしまったのだ。
まるで、ずっといなかったかのようで、マデリンはずっと苦しかった。
「たまたま見つけて、懐かしかったから買い取ったんだ」
「たまたまって……。全部あるでしょ!?」
祖父の部屋で何度も見せてもらった。
狩猟大会のとき、マデリンがアウルから買い取った猟銃を抜いて、おそらくすべて。
そんな奇跡があるだろうか?
マデリンは手前にあった猟銃を撫でた。
祖父がお気に入りだと言っていたものだ。
「ずっと……持っていてくれたの?」
五年。
それは短いようで長い。
しかも、この五年間マデリンとアウルの関係はいつ切れるかわからないような関係だった。
友人。などと言えば聞こえはいいが、どちらかが望めば、二度と繋がることはなかっただろう。
「マデリンのお祖父様は私にとっても祖父みたいな人だからさ」
「馬鹿ね。ただの友人にこんなこと」
「ただのじゃない。特別な友人だ」
特別。
その言葉に胸が跳ねた。
「結婚したら、全部君にやるよ。だから、もう九割君の物みたいなものだな」
アウルは笑った。
どうしてこの人はこんなに優しいのだろうか。
なぜ、こんなことをしてくれるのだろうか。
マデリンには理解できなかった。
ただの友人。それが二人の関係だ。
結婚してもきっと変わらないだろう。
それは、マデリンが彼に提案したものだ。後悔はしていない。
「私は何も返せないわ」
「見返りを求めて持っていたわけじゃない。本当にたまたま、見つけただけで」
嘘だ。
これだけの数、たまたま見つけられるわけがない。
これのうちの幾つかであれば、アウルの言葉を信じただろう。
しかも、彼はマデリンの愛馬も救ってくれた。
彼の優しさに胸が締めつけられる。
「ありがとう。このお礼は必ずするわ」
「いいって。勝手にやっただけだし。少し、用事を済ませてくるから、ここで待っていてくれないか?」
「ええ」
アウルはマデリンの肩を優しく叩くと、部屋を出ていった。
扉が閉まる音が部屋に響く。
急に静まり返った部屋をマデリンは歩いた。
(お祖父様、ここにいたのね)
マデリンの瞳から涙がこぼれる。
もう、どこにもいないと思っていた。
父は祖父の物をほとんど捨ててしまったのだ。
そして、それを咎める人はあの屋敷には誰もいなかった。
しかし、マデリンが残しておきたかった祖父の魂がここにある。
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(痛いわ……)
こんなに嬉しいのに、すごく苦しかった。
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