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62.私が守ってあげる
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アウルの瞳が揺れる。
「私も行く」
「……っ!? 何を言ってるのかわかってるのか!?」
「わかってるわよ。私も、狩猟大会に参加する」
マデリンはゆっくり、はっきりと目を逸らさずにアウルに言った。
これだけは断られるわけにはいかないと、思ったからだ。
「もちろん、マデリン・トルバとしては行けないと思うけど」
マデリンが行くと行っても、父はあの手この手を使ってそれを阻止するだろう。
それに対抗するのはあまりにも無意味だ。
「なら、どうするつもりだ?」
「アウルの従者になるのはどう?」
狩猟大会には数人の従者が追従することが多い。そのうちの一人になれば、常にアウルの側にいられる。
アウルが目を見開いた。
「そんな危険なこと、許せるわけがないだろ!?」
「アウルよりはぜんぜん危険ではないわ」
「もし、トルバ侯爵にバレたら……」
「怒られるだけよ。少し痛い思いはするかもしれないけど」
その程度、どうってことはない。
鞭打たれるのは慣れている。
アウルは不快そうに眉根を寄せた。マデリンよりもマデリンの怪我を嫌っているようだ。
マデリンは肩を揺らして笑う。痛い思いをするのはアウルではないのに、どうしてそんな顔をするのだろうか。
「いい? お父様もあの男も私に危害は加えない」
ルイードと父の狙いは、マデリンを再びルイードの婚約者にすること。
たとえ、言いつけを破ってマデリンが狩猟大会に現れたとしても、できることは限られている。
「だが、もし私が命を狙われた場合、従者の君も狙われる」
「その時は正体を明かすわ」
それで完璧に安全かと問われたら、そうではないだろう。けれど、アウルが危険な状態の中、一人だけのほほんと屋敷で待てるほど、マデリンの心臓は強くない。
少し危険でも、アウルの側で一緒に戦いたかった。
アウルは小さく息を吐く。
「君が心配だ」
「私はあなたが心配よ」
あの蛇のような男が何をしようとしているのかわからない今、心配せずにはいられない。
「それにもとは私の戦いよ。私と婚約したことで、あなたは巻き込まれただけ。私はあなたを守る義務があるわ」
アウルに婚約を提案したのはマデリンだ。
恋心を隠し、両者の利になると説いて約束した。
こんなことになったら、あっさり婚約を解消されてもおかしくないと思う。
マデリンと婚約さえしなければ、アウルは狙われなかったのだ。
「自分の身は自分で守れる」
「そういう驕りが危ないのよ。『うん』と言って、アウル。私は私の居場所を守るために参加したい」
「マデリン……」
「昔ほど狩猟はうまくないけど、私は役に立つはずよ」
毎日ルート家に通い、昔の勘を取り戻してきた。愛馬との息も合っている。
そこら辺の男には負けない自信があった。
「……わかった。そうでもしないと、もっと危険なことをしそうだしな」
「よくわかっているじゃない」
マデリンは目を細めて笑う。
アウルに許可がもらえなかったら、マデリンは他の方法を考えていただろう。
「従者のふりなんて本当にできるのか?」
「帽子を被れば髪も隠せるし、顔も見えないでしょう?」
「本気なんだな」
アウルは苦笑をもらす。
「本気よ。アウルを一番近く守るなら、従者が一番でしょう?」
従者として参加すれば、マデリン・トルバとして参加するよりも近くにいれるのではないだろうか。
「まるで私のほうがお姫様だな」
アウルは呟くように言った。
マデリンは否定も肯定もせず、小さく笑う。
(そんなことないわよ。いつも、アウルが私を助けてくれている。だから、今度は私が助けたいの)
それに、もう二度と失敗したくないのだ。
五年前、自分の気持ちに素直になれず待っていたら、まったく想像もつかない結果になっていた。
今回もそうならないとは限らない。
自分の居場所は自分で守る。手放したくないものは、守らなくてはならない。
マデリンが人生で学んだことだ。
「私がアウル姫を守ってあげる」
「それは心強い。だが、自分の身を一番に考えてほしい。たとえ……」
アウルが言い淀む。
たとえ、のあとが気になった。いや、簡単に想像できる。
たとえ、アウルが罠に嵌められても。
たとえ、婚約が解消される事態になっても。
たとえ、アウルの命が危険に晒されても。
それだけの言葉を頭に並べて、マデリンは大きなため息をついた。
「馬鹿ねぇ。命が一番大切よ。当たり前じゃない。いい? アウルも、自分を一番大切にしなさい?」
「そうだな。そうしよう」
アウルはわずかに笑って頷く。
それでいい。二人の関係は愛し合う恋人ではない。
利害関係が一致した仲間――友人だ。
命が危険に晒されるくらいなら、マデリンとの婚約を解消したほうがいい。
「当日に関しての相談はハンナを通してしよう。君は早く帰ったほうがいい」
「そうね。あまり遅いとみんなに迷惑をかけてしまうわ」
きっと、今ごろマデリンの帰りを待っているだろう。
「帰りはこれを使え」
アウルは自身の仮面をマデリンに差し出した。
マデリンは首を傾げる。
「仮面を変えれば、あの男もすぐには気付きにくい」
「そうね。じゃあ、私のはアウルにあげる」
少し女性的すぎるデザインではあるけれど。
「私が先に出る。外に誰もいなければ、五回ノックをするから、そのあと出てくれ」
アウルはマデリンの仮面をつけながら立ち上がった。
真剣な雰囲気も相まって、仮面はあまり似合っていない。
「じゃあ、またな」
アウルは口角を上げると、扉の取手に手をかけた。
「ねえ、アウル」
マデリンの声かけにアウルは振り返った。
「私も行く」
「……っ!? 何を言ってるのかわかってるのか!?」
「わかってるわよ。私も、狩猟大会に参加する」
マデリンはゆっくり、はっきりと目を逸らさずにアウルに言った。
これだけは断られるわけにはいかないと、思ったからだ。
「もちろん、マデリン・トルバとしては行けないと思うけど」
マデリンが行くと行っても、父はあの手この手を使ってそれを阻止するだろう。
それに対抗するのはあまりにも無意味だ。
「なら、どうするつもりだ?」
「アウルの従者になるのはどう?」
狩猟大会には数人の従者が追従することが多い。そのうちの一人になれば、常にアウルの側にいられる。
アウルが目を見開いた。
「そんな危険なこと、許せるわけがないだろ!?」
「アウルよりはぜんぜん危険ではないわ」
「もし、トルバ侯爵にバレたら……」
「怒られるだけよ。少し痛い思いはするかもしれないけど」
その程度、どうってことはない。
鞭打たれるのは慣れている。
アウルは不快そうに眉根を寄せた。マデリンよりもマデリンの怪我を嫌っているようだ。
マデリンは肩を揺らして笑う。痛い思いをするのはアウルではないのに、どうしてそんな顔をするのだろうか。
「いい? お父様もあの男も私に危害は加えない」
ルイードと父の狙いは、マデリンを再びルイードの婚約者にすること。
たとえ、言いつけを破ってマデリンが狩猟大会に現れたとしても、できることは限られている。
「だが、もし私が命を狙われた場合、従者の君も狙われる」
「その時は正体を明かすわ」
それで完璧に安全かと問われたら、そうではないだろう。けれど、アウルが危険な状態の中、一人だけのほほんと屋敷で待てるほど、マデリンの心臓は強くない。
少し危険でも、アウルの側で一緒に戦いたかった。
アウルは小さく息を吐く。
「君が心配だ」
「私はあなたが心配よ」
あの蛇のような男が何をしようとしているのかわからない今、心配せずにはいられない。
「それにもとは私の戦いよ。私と婚約したことで、あなたは巻き込まれただけ。私はあなたを守る義務があるわ」
アウルに婚約を提案したのはマデリンだ。
恋心を隠し、両者の利になると説いて約束した。
こんなことになったら、あっさり婚約を解消されてもおかしくないと思う。
マデリンと婚約さえしなければ、アウルは狙われなかったのだ。
「自分の身は自分で守れる」
「そういう驕りが危ないのよ。『うん』と言って、アウル。私は私の居場所を守るために参加したい」
「マデリン……」
「昔ほど狩猟はうまくないけど、私は役に立つはずよ」
毎日ルート家に通い、昔の勘を取り戻してきた。愛馬との息も合っている。
そこら辺の男には負けない自信があった。
「……わかった。そうでもしないと、もっと危険なことをしそうだしな」
「よくわかっているじゃない」
マデリンは目を細めて笑う。
アウルに許可がもらえなかったら、マデリンは他の方法を考えていただろう。
「従者のふりなんて本当にできるのか?」
「帽子を被れば髪も隠せるし、顔も見えないでしょう?」
「本気なんだな」
アウルは苦笑をもらす。
「本気よ。アウルを一番近く守るなら、従者が一番でしょう?」
従者として参加すれば、マデリン・トルバとして参加するよりも近くにいれるのではないだろうか。
「まるで私のほうがお姫様だな」
アウルは呟くように言った。
マデリンは否定も肯定もせず、小さく笑う。
(そんなことないわよ。いつも、アウルが私を助けてくれている。だから、今度は私が助けたいの)
それに、もう二度と失敗したくないのだ。
五年前、自分の気持ちに素直になれず待っていたら、まったく想像もつかない結果になっていた。
今回もそうならないとは限らない。
自分の居場所は自分で守る。手放したくないものは、守らなくてはならない。
マデリンが人生で学んだことだ。
「私がアウル姫を守ってあげる」
「それは心強い。だが、自分の身を一番に考えてほしい。たとえ……」
アウルが言い淀む。
たとえ、のあとが気になった。いや、簡単に想像できる。
たとえ、アウルが罠に嵌められても。
たとえ、婚約が解消される事態になっても。
たとえ、アウルの命が危険に晒されても。
それだけの言葉を頭に並べて、マデリンは大きなため息をついた。
「馬鹿ねぇ。命が一番大切よ。当たり前じゃない。いい? アウルも、自分を一番大切にしなさい?」
「そうだな。そうしよう」
アウルはわずかに笑って頷く。
それでいい。二人の関係は愛し合う恋人ではない。
利害関係が一致した仲間――友人だ。
命が危険に晒されるくらいなら、マデリンとの婚約を解消したほうがいい。
「当日に関しての相談はハンナを通してしよう。君は早く帰ったほうがいい」
「そうね。あまり遅いとみんなに迷惑をかけてしまうわ」
きっと、今ごろマデリンの帰りを待っているだろう。
「帰りはこれを使え」
アウルは自身の仮面をマデリンに差し出した。
マデリンは首を傾げる。
「仮面を変えれば、あの男もすぐには気付きにくい」
「そうね。じゃあ、私のはアウルにあげる」
少し女性的すぎるデザインではあるけれど。
「私が先に出る。外に誰もいなければ、五回ノックをするから、そのあと出てくれ」
アウルはマデリンの仮面をつけながら立ち上がった。
真剣な雰囲気も相まって、仮面はあまり似合っていない。
「じゃあ、またな」
アウルは口角を上げると、扉の取手に手をかけた。
「ねえ、アウル」
マデリンの声かけにアウルは振り返った。
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